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夢と現実  作者: 石川技院
4/14

過去と売人:03

先客がいるからもう少し待ってて。


そう小沢からメールがきたのは、覆面パトカーが東口のロータリーに入ってくる少し前だった。

電話のあと、小沢のセルシオはものの5分もしないうちにロータリーへと入ってきた。

水谷が停まっていたコンビニ前からは、出入りする車が見渡せた。


入ってくるなり、小沢も水谷に気づいた様子で、目と目が合ったような気がした。

セルシオはロータリーを一旦、左に流れ、

そのまま円を描くように、右へぐるっとまわってくるかと思いきや、途中で停止した。

ちょうどBMWと、ロータリーの中心を挟んだ形になった。

そしてメールが入ったのだ。


スカイラインが「職質」を行なったあと、ロータリーから去っていくと、

駅に電車が停まったらしく、駅構内から数人の男女が出てきた。

その中の、若い女がセルシオへと乗り込むのを水谷は目で追った。

女は髪を金色に染めており、ジーンズのショートパンツにTシャツという格好だった。

おそらく、まだ20代前半だろう。


セルシオは女を乗せると、ロータリーから消えていった。

コンビニ前をゆっくり通過した時、女は車内からこっちを見ていた。

水谷は自分を見て、笑われているような気がした。


水谷はその女が座っていた助手席で、小沢と会話を続けた。


「さっきのとは関係ないと思うけど、最近仲間がパクられたんだよ。」


水谷は息を吸い込んだ。


「本当ですか?でもまたなんで・・・」


「客からのチンコロだって」


売人などが逮捕されるきっかけの9割が密告と言われている。

客が逮捕されたのちの取り調べで売り込みする者、

業者同士の小競り合いなどもあると言われる。


「そうですか。」


仲間が持ってかれたのに、あなたはいつも通りで大丈夫なんでですか?

と訊きたかった。が、水谷は話題を変えた。


「今回のはどうですか?」


小沢は黙って透明のパケに入った覚醒剤を渡した。

今回は予め、1g欲しいと言っておいた。

水谷は「ネタ」を受け取ると、それを足元に持っていき、

うずくまる様にして「ネタ」を確認した。


「いつもと同じですか?」


体を起こすと、言いながら福沢諭吉4枚を渡した。いつもやりとりしている流れだった。


「うん、同じ」


いつもと同じで十分だった。

小沢の「ネタ」はハズレが、ほぼないからだ。

いい「ネタ」が入ったときには、小沢から連絡がくる。

今回のはいいけど、どうする。などと。

今回のように水谷から連絡をとった場合は、大抵はいつもと同じ「ネタ」だ。


普通の小売人は味にうそをつく輩が多い。

大してよくもない「ネタ」をいいと偽って売るのだ。

そうでもしないと、よくもない「ネタ」は誰も欲しがらないため

売れ残ってしまい、最終的には自分が苦い汁をのむハメになる。

客は、それなら次の「ネタ」まで我慢します。

などと言ってくるだろう。


小沢はそれがない。

同じなら同じ。よくないならよくないと正直に言う。

いつもと同じ「ネタ」が上質で、金額も末端にしては良心的だ。

こうなると客も、よくない時だけいらないとは言うわけにはいかない。

困った時はお互い様。という様な、変な関係がいつの間にか出来上がってしまう。


「じゃあ、またお願いします。気をつけてくださいね。」


そう言い残すと水谷はセルシオを降り、足早でBMWへと乗り込んだ。

小沢は水谷に向かって右手を軽く挙げると、セルシオを発進させた。


(小沢もあと少しかな)


小売人は消耗品と言われている。水谷もそれは知っていた。

仮にもし、小沢が逮捕されていなくなってしまったあとの事を考えると、

少しだけ憂鬱な気分になった。






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