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夢と現実  作者: 石川技院
3/14

過去と売人:02

「悪いけど西口に来て」


そうメールがきたのは2時20分だった。

東口のコンビニ前でタバコを吸っていた水谷はタバコを捨て、慌ててBMWに乗り込んだ。

炎天下の中、外に30分以上居続けた水谷の体は、ひどく汗ばんでいた。

車内はさらに暑く、冷房が効き始めるまでさらに汗が噴き出した。


(1時間近く待って、更に場所変えか。)


苦笑を通り越し、自然と無表情になっていた。

この相手と初めて待ち合わせをしたとき、来るのがあまりに遅いので、


-まだですか。


と、何度も訊いてしまい、相手から、


-黙って待ってろ!


と、一喝されたことがあった。


客は「待て」と言われれば、犬のようにただジッと待つしかない。

そして相手が「ここに来てくれ」と言えば、1分1秒でも早く行かなければならない。

相手の餌が欲しいばかりに。

相手の機嫌を損ねれば、次から餌が貰えなくなるかもしれない。


はじめ水谷は、この世界の人間は全てがおかしい。と幾度も思った。

だが、どこの世界にも強者と弱者が存在する。

強者はその権力で弱者を動かし、気に入らない者がいれば弱者を排除する。

弱者はただ黙ってそれに従うしかない。

少なくともこの世界での水谷は弱者でしかなかった。


そもそも『この世界』などという言葉自体おかしいのかもしれない。

世の中全ての人間がこの水谷と同じで、あるきっかけ一つで覚醒剤に溺れてしまうのかもしれない。

その可能性は、絶対に無い。とは言い切れないのではないか。

この世界、全てが濁ったグレーなのだから。


西口前は東口とは違って、こじんまりとしている。

建物も昨年新しく移ってできたテレビ局が建っているだけだ。

ロータリーに停まっている車も少なく、タクシーを除くと、この時間は3台しか停まっていなかった。


水谷はロータリーの一番後ろに停まっていた『セルシオ』のケツにBMWを停めた。

すばやくBMWから降りると、そのまま『セルシオ』の助手席に体をすべりこませた。

運転席には、頭を刈り上げ、黒と白の派手なスウェットを着た30代半ばの男が踏ん反り返っていた。


初めて小沢に会ったとき、水谷はその風貌に、呆気にとられた。

小沢は片耳に注射器を掛けており、もう片耳にはストローで作られたスコップが掛けてあったのだ。


ただでさえ見た目が派手で目をつけられるというのに、

この人はアホか。捕まりたいのか。

と、幾度も思った。


「大丈夫でした?」


いかにも心配そうな顔で水谷はいった。


「あれはちょっとあせったな。」


小沢は笑顔でいったが、目には強い力が込められているのを水谷は見逃さなかった。




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