過去と売人:01
2007年夏
水谷は、相手との待ち合わせである駅へと車をはしらせていた。
車は2年前、当時付き合っていた女に中古で買わせたBMWだ。
今日は特に暑い陽気で、気温は30度を上回っていた。
車内の冷房をガンガンにきかせながらも、あちぃ。と呟きながら駅のロータリーへと車をすべりこませた。
駅に着くなり、相手の車が見当たらない事を確認すると、
車内の時計をちらっと見た。そしてゆっくりと深呼吸をした。
まるでここまでの道のり、何者かから必死に逃げてきた。
そんな緊張から解かれたような様子だ。
相手とは午後2時に、ここの駅で待ち合わせの予定だが、
時間はまだ1時半をまわったばかりだ。
水谷は逸る気持ちを抑えつつも我慢ができず、気づくとバッグからケータイを取り出していた。
メモリから小沢という名前を見つけると、発信ボタンを押した。
数秒後、怪訝そうな声で、もしもし。とでた。
「あっ、もしもしー。自分ですけどー。」
「うん、どうした。もう着いたの?」
「ちょっと早く着いちゃいまして、すいません。」
「わかった。あと10分ぐらい待ってて。」
「わかりましたー。すいません、失礼します。」
水谷は苦笑した。言いきらないうちに電話は切れていたのだ。
ケータイをポケットにしまうと、息をはくと、
BMWのシートを少しだけ倒し、本を読みながら相手を待った。
(10分て事は30分は掛かかるな。)
前に、2、30分待て。と言われ、2時間以上待たされた事があった。
少しすると水谷は、ふと思い立ったようにさり気なくBMWから降りた。
そして駅目の前にあるコンビニへ入ると、
雑誌コーナーで立ち読みするフリをして、ロータリーに入ってきた車に注意を払った。
車は新型のスカイラインで、若い男が運転をしており、
40代ぐらいの男が助手席に乗っていた。
スカイラインは駅のロータリーへと入ってくるなり、速度を5~10キロ程度に落としながら周囲に気を配っていた。
休日とあって、ロータリーには10台近くの車が縦列駐車されている。
その中の1台、古い型のセルシオの横腹にスカイラインを停止させると、助手席の男が降りた。
助手席の男はベージュのチノパンにポロシャツといったいでたちだった。
後から運転手の若い男も降りてきた。
若い男は黒のスラックスにワイシャツだった。
年は水谷とさほど変わらないだろう。
髪を立たせ、眼鏡をかけている。一見大学生のようにもみえる。
二人はセルシオに乗っていた若い男に一言、二言交わすと男がセルシオから降りてきた。
セルシオの男は、緊張した面持ちでセルシオのトランクを開けた。
スカイラインの二人はそれを確認すると、トランクの中の何かを探し始めた。
が、ものの1分も経たないうちにトランクは閉められ、
再度言葉を交わすと、二人はスカイラインへと乗り込んだ。
スカイラインは覆面パトカーだった。
覆面パトカーはロータリーを1周すると、何事もなかったように出入り口の信号を左折していった。
水谷はそれを確認すると、缶コーヒーとタバコを買ってコンビニを出た。
コンビニの前で先ほど買った缶コーヒーを開けると、一気に半分程飲み、マルボロに火を点けた。
ポケットからケータイを取り出して時間を確認すると、息をはいた。