売人と仲間:06
「どうしたんすか、これ・・・。」
玄関を入り、すぐ左手にまたドアがありそこを通ると前原は思わず口にしてしまった。
と、同時に焼けたゴムの匂いが強く鼻についた。
リビングと思われる部屋は、荒れていた。
クローゼットは半開きになっており、そこから衣服がはみ出されている。
キッチンからは大麻とは別の異臭が放たれており、床には割れた食器やグラスが散乱している。
リビングに置かれているテーブルの上には、ハルシオンやデパス等の睡眠薬が無造作に置かれていた。
「昨日よ、襲撃されたんだ。」
前原はテーブルの上にあるネタを眺めていると、長妻が水道水をいれたグラスを持ってきた。
「襲撃って。」
前原は、長妻のいっていることがギャグだと思い、愛想笑いをしながらいったが、長妻はクスリともしなかった。
「昨日、女とキメてヤってる最中、2、3人の野郎がいきなり部屋に入ってきてよ。
ネタ取られて、女がやられた。」
「女がやられたって?」
「気づいたら、その場で一人の男とセックスしてたんだ。んで、何故かそのバカ女、感じてたんだよ。
バカみてぇに声出してよ。おかしくねぇか。」
前原は何から聞いたらいいのかわからず、思わず黙ってしまった。
「俺が思うによ、そいつらとその女、グルだったんじゃねぇかって思うんだよ。」
長妻は続けた。
「その前に女って誰ですか?」
「んなの関係ねぇだろ。そんな事知ってどうすんだよ。」
長妻は前原の何かを詮索するようにいった。
「まっ、最終的には俺が包丁持って追っ払ってやったけどな。」
長妻は笑いながらいってるつもりらしいが、笑顔が完全にひきつっている。
「でも最初はビビったよ。こっから野郎がいきなり出てきてよ。」
クローゼットを指しながらいってみせた。
「んで、そいつに女取られたと思ったら、後からきた連中にネタ取られて。
眠剤だけはぐちゃぐちゃにするだけで、何も持っていかねぇんだ。おかしいよな。」
長妻は、再度なにかを詮索するかのように前原の顔をジッ、と見つめた。
確かにテーブルの上には、眠剤が散乱していた。
長妻は明らかに俺を疑っている。
というか、そんな話を信じろというほうが無理だ。
「ショウくん、なにか勘違いしてないっすか。」
「はっ?」
「昨日の話って本当なんですか。ネタキマってておかしくなってただけとかじゃない・・・」
「あっ、ちょっとまて。」
前原が話途中に長妻がいった。
「ちょっと玄関見てくる、また誰か居るかもしれねぇ。お前も来い。」
長妻は玄関に立つと、そこから穴を覗いた。
「ほら、誰か居る。」
長妻は目を見開きながらいった。
「誰かって誰ですか。」
前原はうんざりした顔でいった。
「ほら、お前も見てみろ。」
誰かって、そりゃ誰かは居るだろうけどさ。前原は思った。
「ほら、あっちの車の影に居ねぇか。」
「いや、誰も居ないっすよ。」
前原は冷たくいった。
「そうか、それならいいんだ。よし、ネタは俺が作ってやるから女が来る前に射れちまおう。」
こいつは完全にてんぱっている。どうしたらいい。
長妻は前原を尻目に、道具とシャブを取りだし、ネタを作りだした。