売人と仲間:05
長妻の部屋は、どこにでもある2階建てアパートの一室だった。
前原は、アパートに面した道路にメルセデスを停めると、車から降りた。
歩いて部屋に向かう途中、長妻が契約している駐車スペースを確認した。
車は無い。
長妻は無免許で、契約している駐車スペースには訪れた仲間などが利用していると前に聞いた事があった。
前原は、ホッと胸をなでおろした。
恐らく今いるのは前原一人か、居ても若い女一人だろう。
前原は深く深呼吸をした。
何を恐れてるんだ、落ち着け。と、自分に言い聞かせるとドアの横にあるチャイムを押した。
数秒後、髪をオールバックに撫でつけた小柄な男が出てきた。長妻だ。
長妻は灰色のスウェットパンツに半袖のシャツを着付けている。
そのシャツからは、和彫りの七分がはみ出ていた。
「早かったじゃんか、まぁ入んなよ。」
長妻の顔に、笑顔はこれっぽっちも見られなかった。
「いや、いいっすよ。自分はここで。」
前原は苦笑しながらいった。
中に入ってはダメだ、と自分に言い聞かせていた。
「いいじゃんか、少しっくらい。こんなとこより中の方が安全だろ?」
長妻は前原の目をジッと見つめた。長妻の瞳孔は開いていた。
「自分、時間がないので。今日は勘弁してくださいよ。」
いかにも申し訳なさそうにいってみせた。
「なんだよ時間て」
長妻は表情を崩さずにいった。
「それよりよ、今から女が来るんだ。漬けてある女だから一緒にキメようぜ。」
笑顔を作って話しているつもりだろうが、その笑顔がひきつっていた。
前原は考えた。
まさかこんな状況だとは思ってもみなかった。
来たこと自体が間違いだった。
しかし長妻は何を考えているのだ。
「わかりました、でも少しだけですよ。」
前原は仕方なしに了承すると、そのまま部屋へと上がった。