売人と仲間:04
「もしもーし」
数回コールの後、明るい口調で男が出た。長妻だ。
「あっ、ショウくん?着信あったんだけど、どうしたんですか。」
前原も負けじと明るい口調でいった。
「何回も電話したんだけど。」
声のトーンが一気に下がった。
「ごめん。いま「dove」に行っててさ、ケータイを車に忘れちゃって。」
「それで?」
長妻が冷たくいった。
「それで、折り返しが今になったんですよ。」
わざと苛立ちを見せるかのように、前原は言い放った。
「そっかそっか。つーかさ、ネタが切れてんだ。今からうちまで持ってきてよ。」
「今からですか?」
「そう、今から。」
この野郎。胸の奥で前原はいった。
「いいですけど量は、今2gしかないですよ。」
「いいよ、それで十分だよ。」
明るい口調に戻った。
「じゃあ今から向かいますよ。」
「どれくらいで着くよ。」
前原はわざと聞こえるように、チッと舌うちをした後、10分もあれば。と答えた。
「じゃあ待ってるよ。」
通話が切れると、助手席のドアに携帯電話を投げつけた。
長妻の様子が明らかにおかしい。
長妻はシャブにハマっている。が、何かいつもと違うことが電話の声から伝わった。
長妻は前原の3つ年上で、数か月に「dove」で知り合った。
他の客と同様に、長妻が話かけてきたのだ。
長妻は週に一度3~5gを買ってくれる「太い客」であり、シャブ中にはめずらしい金の払いいタイプの人間だった。
太客が故に、扱いも他の客とは違い、今回のように家まで配達することが多々あった。
だが、仮に客の家まで配達をしたいといったとしても、住所を知られるのを嫌がり、拒むのが普通だ。
長妻という男はそういった事を一切気にしない。
毎回取引もスムーズで、こっちの事も変に詮索をしてこない。
その長妻が少しおかしい。
シャブに狂い始めたか、家に行ったらなにかマズイ事になりそうだ。
いや、気のせいだ。
前原は自分に言い聞かせた。
今日、長妻に2gを出せば、明日にでも「目隠し」でオーナーからネタを仕入れることができる。
なに、いつものように玄関先でさっと済ませて帰ればいい。
前原はメルセデスの速度を上げ、長妻の住んでるアパートへと向かった。