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夢と現実  作者: 石川技院
10/14

売人と仲間:03

CLUB「dove」付近にあるコンビニの前には、

帽子をかぶり、太いズボンとジャケットを着けた若者が、落ち着かない様子で辺りをキョロキョロと見渡していた。

前原はそのコンビニの前へとメルセデスを横着けにし、クラクションを鳴らした。

その瞬間、若者はメルセデスの運転席に駆け寄ってきた。

が、前原が目で合図を送ると、若者は助手席に体を滑り込ませてきた。


「少し走るぞ。」


「あっ、はい。」


若者は頭を前後させながら、すいません。と小さくいった。


「その中に入ってるからよ。出して見ていいぞ。」


「この中っすか?」


若者はダッシュボードを指差すと、前原は頷いた。

ダッシュボードの中には、先ほどまであった何枚もの封筒は無くなっており、

萎れた封筒だけ入っていた。


「そいつに2つ入ってる。」


「あっ、2つだといくらですか?」


若者は少し不安げな顔をした。


「心配しなくてもいい。2つで5000円だ。今回は特別だからな。」


「マジっすか?」


若者は目を見開いた。何故ですか?という顔をしている。

ネタが良くない、1つだけ売れ残りを持っていてもしょうがない。

という理由があったが、前原はあえて話さなかった。


「その代わりといっちゃなんだが、いくつか聞きたい事がある。」


前原の顔が少しだけ険しくなったような気がした。

それが若者にも伝わってしまったらしく、再び緊張した面持ちになった。


「ショウ君とはどういう知り合いなんだ。」


「えっ?ショウ?」


「長妻だ。さっき、俺の事はあいつから聞いたと言ったろう」


「あぁ、長妻さんは地元の先輩っす。」


「俺の事はなんて聞いた?」


「「dove」に行って、前原さんが居ればなんでも出してくれるって。

んで、今日たまたま居たので。すいません。」


「他には?」


「他って、それだけですよ。

長妻さんて地元でも上の方の人で、俺らなんかの下っ端はあまり話す機会なんてないんですよ。

それに、あの人恐えし。」


「紹介料と言われなかったか?」


若者は言葉に詰まった。


「いくらだ。」


「引いたネタの半分て。前原に確認するから、正直に言わないとやっちまう。って。

やっぱ恐ぇし、自分らもあまり関わりたくないんですけど、

ネタ入る処、他に知らないし。」


ネタの半分とは恐らく、10000円分のネタを引いたら、

紹介料として5000円貰うという話だ。

この若者の話が本当ならば、長妻の息がかかってる地元の連中に、この話を言いふらしまくってるのだろう。

どおりで、最近になって長妻経由の紹介が多いわけだ。

しかしこの紹介話に便乗して、弱い者から金をせしめるなんて笑わせてくれる。


確かに、当初この商売を始めた頃は紹介を募った。

だがそれには条件があった。

紹介する者は、紹介したい人間に前原のことを「話す前」に、必ず前原に連絡を入れる。

というものだ。この、「話す前」というのが肝である。


この世界、ただでさえ紹介というやり方は揉め事が非常に多い。

SEXできる女、男を紹介する。ネタの客、あるいは売人を紹介する。というのが大半だ。

どれも一様に揉め事はあるが、中でも客を売人に紹介する。

というのは、売人にとっては死活問題を争う事になる。


紹介する側にとってみれば、信用できる人間だから紹介する。

だからなんら問題ない、と思うかもしれないが、

売人にとっては何も知らない人間なわけで、もしかしたらこいつはスパイかもしれない。

などの疑惑が常に付きまとう。


前原はその疑惑を少しでも排除するために、「話す前」にどんな人物かを聞き、

少しでも吟味する必要があった。

このやり方はオーナーから教わった。


(この世界は誰も信用しないほうがいい。といっても、そのうち誰も信用しなくなる。

できなくなるんだ。腐った人間が多いからな。)


その通りだった。

前に、長いこと連れ添っていた信頼している人間にネタを前貸ししてやった後、飛ばれた事があった。

それ以来、オーナーのいうとおり、信用しないようにしている。

しかしそのオーナーも最近は信用ができなくなってきた。


ここ2、3ヶ月もオーナーに会っていない。

その間のネタのやり取りは、常に「目隠し」で取引をしている。


「ここでいいか。」


メルセデスは、再度コンビニの前に停まった。


「はいっ。ありがとうございます。」


「次から欲しいときはここに電話しろ。」


前原は電話番号の書かれた紙を若者に渡した。携帯番号ではなく、どこかの事務所の電話番号のようだ。


「掛けるときは公衆電話からだぞ。あと、お前からの紹介はするな。わかったな?」


前原の顔つきが鋭くなった。


「わかりました。すいません。」


若者は、すいません、ありがとうございます。と、何度も言いながら車から降りた。


前原は車を発進させると、セカンドバッグから携帯電話を取り出した。

携帯電話を見やると、たった1時間の間に着信履歴が一人の名前で埋まっていた。

前原は、ちっ、と舌打ちをすると、

着信履歴にある「ショウ君」に合わせて発信ボタンを押した。






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