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プロローグ
2008年夏、水谷圭介は覚醒剤取締法違反の容疑で逮捕された。
「おい、これ緊急な」
大扉の向こうからやってきた制服警官が、水谷に逮捕状をみせた。
水谷は、あぁはいはい。とまるで他人事のように頷いた。
夢と現実の境とはどこなのか・・・。
これは夢なのか、現実なのか。
今となってはそれすらもわからない。
まあこれが現実だろうがどうだっていい。夢だろうがどうだって・・・。
「・・・谷。おい。水谷さん、ちゃんと聞いてるのか。」
「えっ?あぁはいはい・・・。」
「はいはいじゃあないよ。あんた初めてだろ?
大事なことを後からあれこれ訊かれても遅いんだからね。
さぁ、もうこんな時間なんだ。さっさと荷物チェックを済ませて部屋に行くよ。」
看守の一人が苛立ちながら言った。
それもそのはずで、時間は夜11時を回っていた。
看守の話によると、ここの留置所は午後9時に消灯するらしい。
水谷は4畳半程の狭い身体検査室で荷物チェックを済ませると、
看守ら3人に連れられ、夢か現実か定かではないまま、「房」へと向かった。