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神花の契り  作者: 廃人仙女
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命運を共にする紅心花

 あれから三月後。天界も落ち着き、特に大事と言うような事は何一つ起きていなかった。そしてそれは沙煙たちの動向もまた同じだった。

 永池は紅心花が出現するかもしれない、と言う報告を受けてから、その日を待ち浴びていた。

 いつもと同じように朝議を終え、大殿から東桜殿に戻ろうとすると、大慌てで息を切らしながらも走っている沙煙と、その後青紫色の顔色で必死についてくる前司命が大殿内に入ってきた。

「てんくーん! 出現しましたよ、出現しました!昨夜、紅心花は神花湖に出現しました。しかも、この紅心花は成長が凄まじく、朝のうちに桃源郷へ向かいました。今は、桃源郷で修行に励まれております。ですから、あと見つけもすれば天君の元へ現れるでしょう!」

 と、沙煙。そして、

「しかも、この紅心花はわずかに神花の気質をも身にまとっておりました。このことから察するに、この紅心花は帝神殿が転生したものである可能性が極めて高いです!」

 と、前司命。

 二人は、言えるとその場に倒れ込んだ。

 そして、ようやく、待ちわびた知らせを耳にした永池は「やっとか」と胸の中でつぶやいた。それから、こうのある二人に興奮気味に言った。

「よくやった! ……ところで、二人とも水はいるかい?」

 と、永池が聞くと、二人は一斉に首を横に振った。彼らの息切れがちょうど落ち着きを取り戻し始めていたからだろう。


 永池は一人神花域に来ていた。紅心花が現れるかもしれない、と言う報告を受けてからさらに三月が経った。その間もやはり変事は何も起きていない。だからこそ、一人で天宮を離れることができるのだ。

 神花域は奇妙なほど何も変わっていなかった。誰も何も手をつけていないはずなのに、竹林や神花楼周辺は、まるで誰かが管理しているかのように秩序を保っている。

 溢れ出る懐かしさにとらわれながら、永池が神花楼の中に入ろうとする。だがその時、天に紺碧色の花火が打ち上げられているのを発見した。その花火は有事を天帝に知らせるときにのみ放たれるものだ。しかも、それが打ち上げられた場所は天宮だったのだ!

 永池はすぐさま天宮に戻る。すれ違う神官から、「司命が大殿で待っている」という言葉を聞き、彼もまたすぐに大殿へと向かった。

 大殿に到着すると、沙煙と前司命が汗を拭いながら待機していた。永池の姿が現れるのを見つけると、沙煙がぱあっと顔を輝かせながら「天君!」と呼びかけてくれる。

「何があったんだ?」

「天君、もうすぐですよ! もうすぐ、例の紅心花が修行を終えます! ね、師匠!」

「うん。紅心花はおそらく本日か明日のうちに修行終えると見られます。あと、昨夜わたくしが桃源郷に行く用があったのですが、その時たまたま修行中の紅心花を見かけました。それはそれはあの方に似ておられましたよ」

「あの方?」

「ええ。それはまあ、実際にお会いになられたら、すぐにわかるかと思います」

 その夜、永池は東桜殿の寝台でひたすらに寝返りを打っていた。ずっと天宮にいたわけでもないから、すぐに眠れるだろう、と思っていたのに、なぜか一向に眠ることができない。しかも、日中に沙煙らに会ってから早くなり続けるばかりの鼓動が気になり続けていた。

 しかし、それでも朝というのは来ることになっているらしい。永池は全く眠れない夜に黎明が差し込んでくるとき、東桜殿の扉をとんとんと叩く音が聞こえた。その音に、彼はすぐに信頼を飛び出した。なぜなら、その音は、かつて何度も聞いた音に似ていたから。

 彼が息をよく扉を開けると、月と太陽の両方の光に照らされた、渓月によく似た者の姿があった。彼女は、淡い碧色の服を軽やかに身にまとっていて、ゆるく言われた。紙には蓮をかたどったざしが一つだけ刺さっている。彼女は何も話す事はなく、ただじっと永池を見つめているだけなのに、不思議と彼の鼓動はより一層速くなっていく。しかも、耳元までじんわりと熱くなっていた。

「君は……。紅心花なのか?」

 恐る恐る永池が尋ねると、彼女は力強くいた。

「じゃあ、君には、師匠や弟子はいるのか?」

 永池は自らの中に広がりゆくわずかばかりの期待を抑えられないまま聞いた。だが、何故か彼女はゆっくりと考え始める。少しして彼女はようやく答えた。

「現世では、わたくしには師匠も弟子もおりませんでした。ですが、前世では、わたくしのことを第一に思ってくれる師に出会いましたし、わたくしを慕ってくれる弟子が降りました」

 いよいよ永池の口角が上がりきり、その顔色までもが、沸騰したかのように真っ赤になる。そんな中、彼女は優雅な笑みを浮かべたままいった。

「ところで、わたくしにはまだ名前がありません。もしよろしければ、天君がわたくしに名をつけていただけませんか?」

「もちろん。君の名前は……」

 永池は考える仕草を見せたが、心の中では既にその名前は決まっていた。彼女の姿は決めた瞬間、名前はこれしか考えられなかった。

「渓月だ」

 しかも、今はまだ月がおぼろげの空に浮かんでいる。やはりこの名前は彼女にぴったりだ。

「良い名ですね。しかも、その名前は不思議と聞き覚えがあります。確か、わたくしの前世もそのような名前でしたから」

 言い終わると、彼女は満足げににんまりと微笑んだ。その姿を見ながら、永池は密かに思う。

(師匠、本当に戻ってきてくれたのですね。本当に戻ってきてくれてよかった。)

 そういえば、目の前にいる渓月はあの約束を覚えてくれているのだろうか、と永池が気になり始めたところで、彼女は思い出したように言った。

「そうだ。あの、わたくしは天君のことを永池、呼んでもよろしいのでしょうか?」

「もちろん」

「ありがとうございます。あと、どうしても永池に伝えたいことが一つだけあって」

「?」

「今日まで待っていてくれてありがとう」

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