散華、力尽きて
散華は穎水が怒鳴るのを聴きながら、何の感情もこもっていないため息をついた。
「邪術は人を害するものです。そんな危険なものを受け入れられるはずがないでしょう?」
「そうか? 邪術は人を害する、と言うのは、一体誰が決めたことなんだ? 霊力にしても邪術にしても使う人の問題じゃないか。お前たちが操っている霊力だって、使い方によっては人を殺すことができる。現に、お前たちもここであれだけの兵士たちを殺したじゃないか。何を根拠に邪術だけが、人を害するものだ、と決めつけるんだ!?」
穎水が怒鳴り散らしている間にも、散華の霊力は強さを増していく。それと同じように、彼女もまたより落ち着きを取り戻していた。
「邪術が人を害する、と言うのは古今東西常識となっているものです。霊力は修行をして自らの体を害する事はありませんが、邪術と言うのは修行をすれば、自らの体を犠牲にします。しかも、邪術を修行すれば修行するほど、修行者の判断力、人柄、感性の何もかもを失ってしまう。そんなものを認めるはずがないでしょう?」
「それは結局のところ、お前たちがそう決めつけているから、と言うことに変わりは無いだろう? お前たちの決め付けのおかげで、邪術は悪とされ、妖族の子もまた悪とされる。なぜだ? なぜ、わたしは幼い頃から妖族の子、と言うだけで疎外されなきゃいけない? なぜわたしは妖族の子、と言うだけで、能力問わず兄の弟として認められる事はなく、隠れるようにして育たなければならなかったんだ? わたしが自らの力をより高めるために、お前たちにわたしの存在を認めさせるために、邪術を修練したら、どうしてわたしを責め立てることしかせず、お前たちがこれまでどうわたしにどう接してきたかを考える事はしないんだ?」
言いながら、穎水の顔がどんどん朱く染まっていく。それが首まで広がると、彼はついに耐えきれなくなったかのように、剣先を散華へ向けて放った。それをやるのは、穎水が全身から放っている邪気だ。
だが、剣先が散華の首元まで来た時、彼女の全身からは霊力が爆発するかのごとく水蓮園を覆った。その霊力は、彼女に迫っていた剣先を退けるだけでなく、穎水の全身を覆っていた邪気をも全て消し去った。
その光景が永池と渓月の目にも確認できた頃、散華が血を吹きながらその場に倒れた。
「師匠……!」
自らの霊力を使い果たした散華に、渓月はただかすれ声で、その名前を呼ぶことしかできなかった。だが、散華の体はわずかですらも動かない。通常より遅れてではあったものの、彼女もまた自らの神花縁を完了したのだ。
散華が逝去してすぐに、水蓮園には桃色の花びらだけが待っていた。




