荒れ狂う戦場
渓月がその場で空咳をしながら、崩れ落ちると、穎水が「今だ」と言わんばかりに、落ちていた剣を拾った。そしてそれをまっすぐに彼女へ突きつける。
その時、渓月の前に永池が立ちはだかった。そのすぐ後に、穎水の剣先が永池の腹部を貫通する。
「永池!」
永池は倒れてはいないものの、我慢しながら漏れ出てくる息を吐きながら、右手で傷口を抑えている。
その姿は見た瞬間、渓月はしばらくの間呼んでいなかった主の名前を呼んだ。
「天君。まさかここに来て、自ら死を望むとはな。思ってもみなかったよ」
「そうですか? ちなみに、わたしもまさか叔父上が帝神殿をとは思ってもみませんでした」
「ほう? 今、あいつは神花と紅心花のどちらの霊力も残していない状態だ。今にも死ぬんだ! それなら、いっそのこと殺してしまったほうが、これ以上苦しまずに済むだろう?」
「そんなに師匠を殺したいのですか?」
「そうだな。殺してしまいたいよ。わたしがあいつの霊力を普通の神花以上に高めるために、わざわざ神花と紅心花の核の両方を、あいつ一人に入れたって言うのに、あいつはわたしに協力しないばかりか、今にもしようとしている。そんな裏切り者のことなんか今にも殺してしまいたいよ」
その時、穎水が永池に刺さっていた剣を引き抜いた。それと同時に、渓月の司会には穎水の背後で、自ら効力を失った神花痕に霊力を集中させている散華の姿が映った。
(師匠は……一体、何をしようとしているの?)
そして、その姿は、永池にも見えたらしい。その瞬間に、彼の顔にも、わずかな戸惑いの色が浮かんだ。
「天君。そんなに死にたいなら、先に殺して差し上げようか」
背後で起きている異変に全く気づいていない穎水が鍵を再び構え直す。
だが、その時、散華の左手首からこの世にある全ての光が集まったかのような神々しい桃色の光が現れた。そこでようやく彼も異変に気づく。
「おい、散華。あんた、一体何してるんだ……?」
「穎水殿。あなたもきっとご存知でしょう? わたくしは本来、主君が崩御した時、ともにこの世から消えるはずでした」
「そんなの、当たり前だろう。むしろ、お前が今日まで生き延びていることの方が不思議でたまらないよ」
「実は、わたくしもです。主君から、わたくし一人が何とか生き延びられる程度の霊力を残された時、一体何を望んでのことなのか全くわかりませんでした。しかし、それでもしばらく生きながらえていると不思議と思うのです。今日のような日のために、主君はわたくしを残しておいたのではないか、と。そして今日、その推測が正しかったと確信しています」
「なぜ?」
「天界で邪術を操る者がはびこるようなことがあれば、天界に未来永劫の繁栄は無いからですよ。万一、あなた方の使う邪気が霊力に勝るようなことがあれば、霊力は廃れる一方でしょう?」
穎水がうなずく中、渓月と永池だけはあからさまな緊張感を保ち続ける。
「そうかもしれないな。だが、ひとつ聞きたい。霊力を使うのは良くて、邪術を使うのはだめだと言うのは、一体誰が決めたんだ? もし、人が先に使い始めたのが邪術だったら、今ここで糾弾されているのは、きっと霊力だろう? それなのに、お前たちが霊力は操っているからといって、どうしてわたしの操る邪術は糾弾されなきゃいけない? どうしてだ?」




