突如出現した紅心花
突然に鳴らされた物音の主は、蓮池にある東屋の中に立っていた。
「紅心花……?」
穎水は東屋の中にいる人物を見てから、理解に苦しむかのような小声で言った。その声が聞こえたのか、瑠璃もまた東屋から出て渓月の元へ飛んでくる。
「まさか、こんなところで紅心花に会うとは思わなかったよ。ははっ。それにしても面白いな。紅心花の核だけを持つ者と、紅心花の霊力だけを持つ者が一堂に介するとは」
「そうですか? わたくしからすると、穎水殿もなかなかに面白いと思いますが。わずかな霊力と邪術を持ち合わせているなんて、天界ではそうたくさん目にするものでもありませんし」
「そうか? まさか、こんなところで渓月に褒められるとは思わなかったよ。邪術を修練していて、良いことと言うのもあるものなんだな」
言い終わると、穎水は突如として、全身に力を入れ始める。すると、次の瞬間には、彼の体から漆黒の気がもくもくと漂ってくる。それは、邪術を極めたかのように、恐ろしい力だった。
すると、それに対抗するかのように、散華もまた全身に神花の霊力を宿らせた。
その傍らでずっと立ち尽くす渓月の横に、何やら袖の中を漁る瑠璃がいる。渓月は一体何をしているのだろう、と思いながら彼女を見ると、なんと彼女は袖の中から取り出した精巧な作りの短刀を取り出して、まっすぐに自らの命脈を断った!
誰もが注意していない間に、瑠璃が息を引き取ると、彼女の体から紅い霊気がまっすぐ渓月の中に入っていく。それは、瑠璃が修行をして得た紅心花の力だった。
「ちっ。面白くなってきたじゃねーか」
穎水は一瞬だけほくそえんでから、散華と渓月に向けて容赦なく邪術をかける。だが、二人とも自らの霊力を盾にしたおかげでなかなか術がかからない。その時があまりにも長く続いたおかげで、穎水も諦めたのだろう。今度は標的を変えた。彼は、戦い方を知らない永池に向かって邪術を放ったのだ!
すぐに渓月もそれに気づき、霊力の盾を保持したまま、まっすぐに永池の前に立った。少しして邪気を大量に吸収した盾がその場で砕け散った。だが、それでも渓月はすぐに自らの体内にある霊力で、永池が新しく保持したはずの神花の霊力を操った。渓月と永池は霊力で作り上げた剣で穎水を着くと、彼が放ち続けていた邪気は一瞬にして散った。
だがその時、渓月の体もまた限界を迎えていた。穎水が後退した瞬間に、彼女はその場で吐血した。そしてそのすぐ後には、何度も空咳をし始めたのだ。
神花や紅心花の霊力源が育てられているという水蓮園では、どんなに力のない神花でも、そこへ来るだけで霊力がみなぎり、たとえ空咳をするほど霊力が弱まっていても、それすら一度も出させないほどの霊力を漲らせてくれる、と言われている。
そのため、水蓮園でも空咳をする者と言うのは、じきに死ぬ者以外にありえないのだ!




