穎水に対抗するために
散華の問い詰める声に、大殿内が大いにざわつく。しかし、その中で穎水は異常なまでに落ち着き払った様子で言った。
「それなら、どうすると言うんだ?」
不思議なことに、ここまで悪びれることもなく言われると、さらに問い詰める気もなくなったらしい。散華は呆れた、とでも言いたげに白目を剥き、大きなため息をついた。
「穎水殿。反逆罪で捕えることをまるで考えていないのですか、それとも、そもそも捕えられること自体を考えていないのですか?」
「では聞くが、例えわたしを捕えるとして、今のわたしの力に対抗できる者がいるとでも思うのか?」
「……」
「ははっ。自分でも答えられないことを聞くんじゃないよ。少なくとも、今のわたし自身は確かにこの天宮を攻める気は無い。それに、わたしのこの一言だけで、わたしを捉えることもお前たちにはできないだろう?」
「なぜ、できないと確信できるのです?」
「なぜなら、今はお前たちがわたしを捉えようとすれば、天宮にいる神官は全て死ぬことになるぞ! それでもいいなら、わたしを捉えてみるが良い!」
いよいよ狂ってしまった穎水は、「がははは」と大声で笑いながら、大殿を出て行った。そして、彼の言っていた通り、実際に彼を止めようとする神官は誰一人としていなかった。いつ穎水本人が反乱を起こすかはわからないが、今はそれ以上に自分たちの命を守ることで精一杯だったのだろう。もしくは、永池が、神官らを犠牲にしないために、何もしないよう、手で合図していたからなのかもしれない。
穎水が去っても、ざわめきが収まらない大殿内に向けて、永池は宣言した。
「本日の朝議は解散だ」
永池は率先して大殿を去ると、まっすぐ神花域へと向かった。大殿に集まる神官以上に頼れる人に、このことを相談したかったのだ。
神花域はこれまでと何の変化もなく、異様なまでの静けさを保っていた。到着してすぐに、域内にある竹林の中に入ってみたい、と懐かしさのあまり思ってしまったけれども、永池はそれを踏みとどまり、ゆっくりと神花楼の前まで歩いた。
(今、師匠は天界のために神花を育てている。こんな時に邪魔をしてはいけないだろう。でも、他に頼るべき人がわからない。わたしは一体どうすればいいんだ……?)
永池はしばらく悩んだ結果、神花楼の前にひざまずくことにした。跪いていれば、いつかは誰かが通り掛かってくれるだろう、と思いながら。すると案の定、散華がふらつきながら神花楼に戻ってくるではないか。
「天君? どうしてこんなところに……?」
渓月に会うためには、散華しか頼ることができない。その一心で、永池は熱を帯びた語気で言った。
「散華殿。どうしても、帝神殿に会いたいのです。今回の件でどうしても彼女に相談したいことがあるのです。ですから、どうにかして彼女を説得してくださいませんか?」
「……やっては見ます。でも、神花も今は大事な時ですから、あの子が天君に会おうとするか分かりませんよ」
「お願いします」
相変わらずふらつきながら、しかも今度は頭まで抱えて散華が神花楼に入る。だが、それから音沙汰のない時間がしばらく続いた。神花楼にひざまずき始めた頃には、まだ低かった日も、今や一番高い所まで昇っている。
やはり、渓月は永池に会う気など毛頭ないのだろう、と彼が諦め始めた時、ようやく神花楼の扉が開いた。彼は扉の前に立っている人の姿を確認した瞬間、胸の高鳴りを感じると共に泣きそうになってしまう。
「師匠……!」




