真の紅心花
沙煙が占い終わったのは、ちょうど夜が明け始めたときのことだった。
「天君。終りましたよ」
と言う彼の呼びかけで、いつの間にか再び眠りについていた永池は目を覚ました。
永池は微かなうめき声をあげながら起き上がろうとすると、なぜか全身に激烈な痛みが走る。だが、それもすぐに納得した。彼は床で倒れるようにして眠っていたのだ。
「どうだった?」
起き上がるやいなや、彼は待ちきれないといった様子で尋ねた。すると、沙煙の顔色から一気に血の気が引いていく。
「天君。その件なのですが、実はわたくしも困り果てているのです」
「どういうことだ? まさか、帝神の命運を占うことができなかったとか……?」
肝を冷やしながら永池が聞くと、「そういうことではありません」と沙煙が首を横に振った。そのせいで、永池にはますます事情がわからなくなる。
「天君の要望の通り、わたくしは帝神殿の命運を見ました。あの方は元より霊力の恵まれた星のもとでお生まれになっています。水蓮園は穎水殿の苦心の元、天界の中でも特に密度の高い霊力が集まる場所ですからね。そこに出現した種とあらば、これまでの神花よりもはるかに高い霊力の素質を元から持っておられたのです。まあ、それはさておき。帝神殿のは、帝花種として出現してから、すぐに穎水殿により神花の霊力の源を注ぎ込まれました。そこまでは何の異常もないのですが、なぜかその三日後、同じ種に穎水殿が今度は紅心花の霊力の源を半分だけ注いだのです。そして、別の種に残りの半分を注がれました。その残りの方が、昨日天君の元に来られた方々は思いますが。さて、それはさておき、神花と紅心花の力の両方を兼ね備えた帝神殿は、神花として神花湖に蒔かれました。戦いも順調に勝ち抜き、見事生き残ったのです。そして今日に至るまで、神花として天君をお支えしているわけです」
「じゃあ、つまり帝神殿はわたしと神花縁を結んではいるけれど、紅心花としての命運も背負っていると言うことか?」
沙煙の言葉で、永池の胸には一瞬にして期待が沸き起こる。しかし、その細やかな希望でさえも、粉々に打ち砕くと言わんばかりに、沙煙は首を横に振った。
「いいえ。神花と紅心花は種や霊力の根源は同じなのですが、それぞれの命運はどちらか一つしか選べないようになっているのです。つまり、神花として生きていくとことを決めれば、その者はたとえ他の命運を選べる可能性があったとしても、神花としての生き方しかできない。紅心花もまた然りです」
「じゃあ、わたしは紅心花の瑠璃を見ても以降に何の感情も湧いてこなかったと言うのはどういうわけなんだ?」
「それはおそらく、瑠璃殿の方に注がれた霊力源が、帝神殿に注がれたものよりも後に注がれたからだと思われますよ。紅心端の霊力源はその核となる部分が、最初に種へ注がれます。そして、その後に、霊力の核の成長を助ける霊力が注ぎ込まれるのです。そして、時の天帝と心を通わせる命運は、その角の中に入っているので、角を取り入れた種でないと、互いに心を動かす事はありえないのですよ。わたくしの勝手な推測ですが、瑠璃殿も天君に対して心を動かされたような様子はなかったのではありませんか?」
「そうらしい。散華殿もそう言っていた」
「やっぱり。ということは、もうはっきりと確定できますね。天君と心を通わせるはずの紅心華は帝神殿なのですが、あの方は神花としての生き方を選択された、と」
完全に意気消沈したまま、永池は観星堂から大殿へと向かった。そろそろ、日が天界全体を照らす頃だから、朝議に参加しなくてはならない。しかし、永池はこの朝議が何よりも好きじゃなかった。そのおかげで、大殿に近づけば近づくほど、気分もまた沈んでくるのだった。
(情けないの。師匠には、ちゃんと自分のやるべきことをやるって宣言したのに)
と、一人ぼんやりを持っていると、神官が慌てた様子で永池の元の走ってきた。
「天君! 探しましたよ! 大変なことが起きたんです!」
「? 何が起きたんだ?」
「妖族との境の地で、反乱が起き始めているのです!」




