ようやく始まった修行
おもむろに渓月がゆったりとした歩調で竹林を歩き始める。その姿は今にも布陣をしようとしているようにも見えるし、修練にでも使用するのか竹の選定をしているようにも見える。
永池は果たして一体なにをしているのだろうか、とぼんやり考えながら師の姿を眺めていると、体がじんわりと癒されるかのように暖かくなる。無意識のうちに彼の口角もまた上へ上へと動いていく。
かたや渓月は不意に歩を止めた。かと思うと、次の瞬間には竹が一本切り落とされる。あまりにも突然のことだったので、永池にそれを避ける暇など当然ではあるがあるわけがない。だが幸いなことに、切り落とされた彼は彼の目の前にどさっと落ちただけだった。
「し、師匠......。この竹は......?」
「竹には露が多く含まれています。飲み水とする分には、神花域の竹露が一番飲みやすいでしょうから、今後はこの水を飲みなさい。この域にある竹は、成長しきっていないもの以外は自由に刈り取ってくれて結構です」
「は、はい!師匠の教えに従います」
永池は深々と頭を下げながら、密かに思う。
(簡単に竹を刈り取る方法を学ばないといけないな)
ひと月が経ったのち、永池は飲みたいときに露の多く含まれている竹を刈り取れるようになっていた。
「永池!」
不意に竹林の外からその呼び声が聞こえた瞬間、彼はすぐにその声の元へと走る。
瞬く間に、永池は渓月の足元に跪いた。
「はい!な、何でしょうか?」
「修行をしますよ」
「修行ですね。はい。......え?ここで、ですよね?」
「まさか。ここでするよりも、よりあなたに必要な修行があると気がつきましてね」
渓月が言いながら手をわずかに振り動かし、永池に立つよう合図をする。即座に、彼は破顔して立ち上がった。
「師匠、わたしにより必要な修行とは、一体何なのですか?」
「天界のことを知らなければなりません」
一刻の後には、渓月と永池は肩を並べて天界の街に繰り出していた。
天界の街には下界のようにさまざまな屋台が並んでいる。天界の者は基本的に食事をする必要性がないため、食事を売る露店は一つもないが、その代わりに衣料品店や装飾品を売る店、古今東西の書物を売る店は所狭しと立ち並んでいた。
だが、露店と露店との間に、手の施しようもないほど負傷した天人や霊力を封印された者など、天界にいれば恥晒しとなってしまうような者たちがそこら中にうずくまっている。
「師匠、彼らはどうしてこんなところにいるのでしょう?医者には診せないのですか?」
「永池。彼らは医者には診せられないのですよ」
「どういうことです?」
渓月は右手にわずかばかりの霊力を宿しながら答える。
「彼らの症状は医者の手に負える範囲内ではないからです」




