紅心花の謎
「でも、紅心花は何の問題もなく現れたんじゃないのですか?」
永池は首をかしげながら言った。その言葉に、散華も同意する。しかし、そのすぐ後で不安に首を横に振った。
「ですが、渓月と話していると、わたくしの持つ気とは別の気を感じることがあるのです。彼女を指導し始めたばかりの頃は、単にわたくしとは異なり、神花としてふさわしい強力な霊力の素質を持っているからだろう、と思っていたのですが、修行をしていく期間が長くなるにつれて、彼女には神花とは異なる霊力があるのではないかと思えてならなくなってしまったのです。なぜなら、わたくしが渓月に施していたのは神花の霊力を扱うための修行だったのですが、その修行をある程度終わっても、その別の気は一向に何の変化も見られなかったのです。強力になることも、逆に弱まることも全くなくて」
「修行をすれば、少なくとも神花の霊力に関しては強力になるのですか?」
「ええ、なりますよ。天君が渓月の元で生活していた時、感じたことがあるかもしれませんが、彼女の体は霊力に包まれているような感覚がありませんでしたか?」
散華の言葉に、永池は素直にうなずいた。確かに、渓月を目の前にすると、彼女を包む霊力が目に見えるほど強力なせいか、いたずらなどをしようとしても、なぜかできなくなってしまうのだ。
「渓月の体を包んでいるのは、間違いなく神花の霊力です。でもよく見ると、その影に隠れて、別の光が混ざっているのを感じた事はありませんか?」
永池はすぐには反応せず、脳裏で渓月の姿思い返してみる。全身を包む強大な神花も霊力は考えるまでもなく思い出せるのに対し、それ以外の霊力、となると、どれだけ考えても全く思い出せない。
散華へ一言、わからない、と伝えようとしたところで、扉の外から神官の急き切ったような声が聞こえてきた。
「天君! 天君! 早く外へ出てきてください! 来られましたよ!」
来た? 一体何が?
永池が「一体何のことでしょう?」と伝えようとしているのか、散華へ困惑に満ちた視線を送る。すると、それが奇跡的に伝わったらしく、散華は二回だけ首を横に振った。
仕方なく、彼が東桜殿の扉を開けると、神官たちが立つ奥に、可憐ないで立ちをした女が一人立っていた。
彼女は、藤色の柔らかな素材でできた服を着ていて、緩く結われた赤みがかった髪の毛に桃の花をかたどったかんざしが数本刺さっている。この者は、やけに永池を見つめているが、その瞳の中には一切の感情が読み取れない。かたや永池もまた、彼女には何の感情も覚えなかった。
「あの者は誰だ?」
扉を開けてからしばらくしても、誰も何も言おうとしないので、たまらず永池が尋ねると、神官ではなく、桃の女が口を開いた。
「わたくしは紅心花でございます。昨日修行終えたばかりで、名はまだ授かっておりません」




