見慣れない神官
「では、叔父上が言っている娘、と言うのは、まさに神花や紅心花の事なのですか?」
まさか、と思いつつも永池は尋ねる。すると、緒明は当然であるかのごとくうなずいたのだった。
「まさしく、その通りでございます。まあ、穎水と血の繋がった子ではなく、霊力の源が同じである、ということなのですが」
「ということは、帝神は、やはり叔父上の娘……?」
「うーん、でも、まあ、穎水の言葉を借りるとするならば、そうなりますね」
永池はひどく、重苦しい表情のまま、東桜殿へと戻る。
東桜殿は、本来ならば天帝の後継者となる者が住む場所だが、単にこの場所から移動するのが面倒なのと、そもそも天宮のどこに何があるのかまだほとんど覚えられていない、と言う理由で、永池が後継者として認められて以来住むようになった。東桜殿にいまだに住み続けている。
白檀の香りが室内を包む中、永池は部屋の中央の地下にあぐらを書いた。それから、常に扉の外で控えている神官を指寄せる。「誰かいるか」と叫んだところで、永池はふと、いつも自分を守ってくれている神官や兵の名前を一人も知っている者がいないことに気がついた。
「天君、お呼びですか」
と、無駄に厳粛な面持ちをした神官が入ってくる。初めて見る顔だった。
「ああ、うん。その、帝神は今何をしているかな?」
「帝神? 帝神殿でしたら、今頃はおそらく神花を見守っておられる頃かと思いますが。帝神殿がどうかされたのですか?」
「あ、いや。なんでもないんだ。ちょっと、確認したいことがあっただけで。うん、そうだよな。今は神花の成長、見守らないといけない時期だから。それなら、散華殿は今何をされているかな?」
「さあ。神花楼におられるかとは思いますが」
「そうか。なら、少しだけ確認したいことがあるから、散華殿を読んできてくれないか?」
「かしこまりました。では、これで」
終始一貫して厳粛な面持ちを保ち続けた神官は、どこから目をしている永池とはこれ以上一言たりとも話したくない、とでも言うかのように、そそくさと出て行こうとする。
「ちょっと待って」
と、永池が呼び止めた時も、彼は「まだ何かあるのか」と、文句を言いたげに振り向いた。
「何でしょうか」
と言う口調まで、天界の主に向けて、放たれたものとは思えないくらいにぶっきらぼうだった。さっきまでの厳粛さは、一体どこへ行ってしまったのか。全く不思議でかなわない。
「君、名前はなんて言うんだ?」
永池は何気なく聞いたつもりだったが、それを聞いた神官はなぜか極端に大きな反応を見せる。目をこれでもか、と言うほどに見開き、口は阿呆のように開いて、その場でかたかたと小刻みに震えている。
「わ、わたくしは、さ、沙煙と申します。ふ、普段は星運閣の神官をしております。本日は、我が師匠の申し付けにより、天君のおそばに参りました」
なんと、沙煙の口調は、先ほどとは比べ物にならないくらい丁寧になっている。まるで自分が崇拝して止まない者と接しているかのように。
「そうなのか。じゃあ、君の師匠と言うのは、一体誰なんだい?」
「わ、わたくしの師は司命(天界の命運を司る役職)です」
「司命? そうなのか。だけど、司命か、最近病がちだと聞いたけど……?」




