穎水の境遇
永池が大殿を通り過ぎ、かつて渓月と共に訪れた秋桜閣へ向かった。
中には、相変わらず緒明だけが一人で大量の荷物を広げているだけだ。彼は、永池が入ってきたのに気づくと、すぐに走り寄ってきた。
「天君、本日は一体どうなったのですか」
「その……なんでもないです、ただ静かなところにいたかっただけで。さっき、庭園に行ったら、叔父上に会ってしまったので」
「え、緒明に? あの者に何か言われたのですか?」
「いや、何も。ただ、自分で自分はずっと天帝の位を狙っているから、いつかは反乱を起こすぞ、と言われただけです」
「……それはいかにも彼らしい。その……思考が常人から悪い方向に外れてしまっていると言うのが。ごほん。でもまぁ、彼がいつかは反乱を起こす、と言ったのなら、必ず起こすんでしょう。奴の唯一良いところと言えるのが、嘘だけは何があっても言わないと言うと言うだけなので」
緒明は言いながら、永池を座席に案内する。
「それなら、叔父上は一体いつ反乱を起こすのでしょうか?」
「さぁ、そこまでは分かりかねます。ただ、少なくとも帝神が帝花種を間は何の手出しもしないでしょう」
「なぜです?」
「それは一体どういうことなのですか?」
永池が身を乗り出して尋ねると、緒明は物語るように、穎水の境遇を話し始めた。
永雨天君に穎水のような子が生まれたのは単なる意外でした。
通常、天帝の子というのは、天帝と紅心花との間に生まれます。天君の場合は少々状況が異なりますが、先帝はまさに永雨天君と紅心花との間に生まれた正統な子でした。ですが、穎水の場合は異なり、あの者の母親は妖族の姫だったのです。その者はあろうことか、顔を変える術を使って紅心花になりすまし、天宮に忍び込んだ。そして、それが紅心花だと信じて疑わなかった永雨天君はそのままその妖族の姫と、一夜を共に過ごしたのです。おぞましいでしょう? え? 妖族が何かって? 決まってるでしょう。妖ですよ。霊力ではありませんが、それに似た法力を使うことができる動物ですよ。ちなみに、妖族の姫は狐ですがね。まあ、それは重要じゃない。ええと、まあ、そういうことで、永雨天君と一夜を共にした妖族の姫には、ほどなくして子ができました。それが、穎水なのです。
穎水が生まれた後、永雨天君は何の迷いもなく妖族の姫を殺しました。ですが、生まれてきた子には何の罪もない。だから、思い切って育てることにしたのです。そんなこと、するべきではなかったのに。ですが、実際永雨天君は育てると決めたわけですからね、まずは名前を決めなければならなくなったのです。ですが、正当な血筋の証である永の字を、彼に使うことはできません。ですから、位に考えたあげく、彼の母親から穎の字だけをとって、穎水と名付けたのです。




