穎水の告白
穎水は腕組みをしながら永池をまじまじと見た。しばらくの間見るだけ見ると、今度はまた水模様の扇子を取り出して、熱いわけでもないのに、それを大雑把に揺らしている。
「んん、まあ、普通は呼ぶでしょうよ。実際、兄上も呼ぼうとしたことはありましたし。断念されてましたがね。ところで、わたしみたいに、いつか謀反を起こそうとしているんだ、なんて吹聴している反逆者も珍しいでしょう?」
「……それは、……まあ」
永池はただただ苦笑いするしかなかった。まさか、穎水に自分が珍しい類の反逆者だと言う認識があるとは思ってもみなかったから。
「でもまあ、天君。呼んでみなさいよ。この天宮にいる全ても神官をかき集めたとしても、わたし一人に対抗できる者がいるかどうか。おそらく、百人千人呼んだところで、わたしと戦えば皆がその日に命日を迎えることになってしまう。信じないなら、やってみると良い。まぁ、どのみちわたし打ち負かすことができる者なんて、そもそもかなり限られていますがね」
「ちなみに、それは誰なんです?」
「おっと、天君。いくらわたしが何でもかんでも話してしまう悪党とは言え、自分の命に関わることを言うはずがないじゃないですか。失策でしたね」
穎水はやはり「がははは」と笑いながら、扇子の動きを止めた。その瞬間、永池の体が無意識のうちに貼ってしまう。だが、穎水は特に何をするでもなく、ただ彼の隣に座っただけだった。
「そういえば、叔父上は一体いつから、わたしの地位を狙い始めたんですか?」
「散華が兄上の神花と定まった時かな。いや、もしかすると、兄上が即位して、散華を帝神にした時だったかもしれない。はは、何しろずいぶんと昔のことだからね、もう記憶が曖昧になっていますね。申し訳ありません」
「いや、いいんです。理由さえ教えていただければ大丈夫なので。その、どうして天帝になりたいと思うようになったんですか?」
「それは簡単ですねえ。なぜなら、わたしの方が能力があるから。そりゃ、兄個人で見れば、兄上の方が何においてもわたしより優れていましたが。でも、兄上の神花は凡庸の極みだ。あんな奴が天界を支えるなんて冗談としか思えないでしょう? しかも、悪寒の走る冗談だ。あの地位につく者は有能な者でなければならないのに、どうしてあんな奴がいるのか。それにどうしても納得できなくてね。天帝と神花は共に有能でなくてはならないんです。だから、わたしは今反逆を立てているんですよ」
「それなら、叔父上は今わたしを殺したくて仕方がないんでしょうね」
「そりゃあね。今すぐにでも殺せるなら殺したいですよ。でも、今はだめだ」
「なぜ?」」
「渓月がまだ弟子を迎えていないからですよ」
穎水が鬼の形相で言うのを聞きながら、なぜか永池の胸中に悪い予感が走る。
(奴が企てている反乱に、師匠が関わらないようにする術は無いのだろうか)
だが、そんなことを考えながらも、永池はよくわかっていた。自分がどれだけ渓月を面倒ごとに巻き込まないようにしたいと願っても、彼女が永池の定めた帝神である以上、それは不可能なのだ、と。




