穎水の野心
永池は本能的に右手で左手を覆った。すると、穎水に表情に不気味な影がどんどん色濃くなっていく。
「なぜです?」
やっとの思いで、永池はただそれだけ言った。内心では、いろんな憶測を巡らせていたが。
(まさか、わたしの神花痕に傷でもつけて、師匠との霊力のつながりを強制的に絶つつもりなのか? それとも、この神花痕を乗っ取るつもりなんだろうか? わからないけど、どのみち、わたしの神花痕を見せるわけにはいかない。)
が、その考えを全て読み取ったかのように、穎水はぶんっと立ち上がり、無理やり永池の左手を掴んだ。そしてすぐに、彼の左手首を見る。しかし、そこには何もない。穎水は眉を釣り上げながら、彼の袖をさらにめくった。すると、彼の左手首と肘のちょうど真ん中に、神花痕は桃色の光を帯びながら、それはしっかりと存在していた。
「天君。どうして、あなたの神花痕はこんなところにあるのでしょう?」
「……さあ」
「わからないのなら、叔父であるわたしがしっかりと教えますよ。これは、あなたが在位している間に、不測の事柄が一つ、起こるということですね。まぁ、あなたの場合は、起こり得るものの可能性はたった一つですが。ありがたいことにね」
「その…… 一つとは?」
「え? そりゃあもちろん、わたしが謀反を起こすことですよ。むしろ、それ以外に何か考えられます? あなたの帝神にでも今度聞いてみたらどうですか。きっと、同じことを言いますよ」
一体自分で何を言っているのかを本当に理解しているのか、と永池がつい考えてしまう。一方の穎水は彼に、特に何をするわけでもなく、めくり上げた袖を元に戻した。
「あの……」
「?」
「叔父上は、よく謀反を起こすつもりだ、って周りに吹聴しているのですか?」
永池の純粋な疑問に、穎水は一瞬だけ何を聞かれたのか全くできない、と言うような表情になった。しかし、すぐに彼はまた「がははは」と笑って、頭全体を使ってうなずき始めた。
「ええ。そうですよ。どのみち、隠すことでもないでしょう? いつかは事を起こすんですから。まぁ、兄上が在位していた時は、さすがに手を出す気はありませんでしたかね。兄上は、人望もあるし霊力も強くて、まあ簡単に言うと、全ての点においてわたしよりも優れていたからですよ。ですが、あなたはどうです、ええ? 霊力は子供のように低い。知能はまあ、一旦置いておきましょう、わたしも詳しくは把握していないんでね。でも、わたしよりも確実に優れている、と自信を持って言えるものはまあないでしょう。あ、でも安心してくださいね。あなたにも、わたしより優れている点はありますよ、例えば人柄とかね。わたしはよく人柄だけは、獣物にも劣る、とそこら中で言われているけど、あなたはそんなことを言われたことなんてないでしょう? うん、だから、その点ではかなり勝っていますよ。でもね、この世の中、人柄が優れているだけで、上にまで登り詰めることなんて、まあできないんですよ、普通。大抵、ずる賢い奴に、人のよすぎる者は先を越されてしまう。そうじゃありませんか、ねえ? きっとあなたも同じようなことになりますよ。わたしが謀反を起こす以上はね」
「はあ。ところで、叔父上は、今わたしが人を呼んで、叔父上を捉えさせたらどうなるか、なんて考えた事は無いのですか?」




