再び、邪術の出現
大殿で、永池はただ一人、ぼんやりと玉座に座っていた。朝議は一刻も前に終わって、いい加減大殿を離れないといけないはずなのに、なぜか彼の体には、力が一切入らない。だが、玉座に座っていても、特段何もすることがないせいで、彼の頭の中はまたいつも通り渓月でいっぱいになっていた。
(師匠は今何をしているのだろう。帝花種は無事に植えられたのだろうか? 師匠が次に天宮へ来るのはいつなんだろうか? 師匠はまたわたしを桃源郷に連れて行ってくれるのだろうか?)
そのせいで、神官が急ぎ足で大殿内に入ってきた時も気づかなかった位だ。
「天君? あの、大丈夫ですか? ほ、報告があるのですが……」
神官が恐る恐る口を開いたところで、ようやく、永池は反応を取り戻した。
「ああ、うん。どうした?」
「はい。先ほど、天宮に報告が入ったのですが、天界にまた邪術にかかった者が現れたそうなのです。その者の邪術の源を探ったところ、この天宮が怪しいそうなのですが、調査をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろん。でも、今は神花楼へだけは消して行かないように。帝神殿が帝花種を植えたばかりだから」
「かしこまりました。ですが、その点に関しては、ひとまず心配無用かと。第一に、我々のような一介の神官では神花域に入る事すらできませんし、第二に、天宮には神花域はありませんから」
神官が自信満々に言うのを聞いて、ようやく永池も安心する。
「ところで、最近邪術にかかった者がよく現れているようだけど、術をかけられた者たちはどうしているんだ?」
いつだったか、永池が渓月に連れられて天宮へきたときの道中、天界の街中に転がっていた邪術にかけられた者たちの姿を思い出しながら、彼は聞いた。
「あの者たちは特定の収容所があるのですが、何しろそこはもう既に人で溢れているのです。ですから、収容所に邪術をかけられた者たちを入れるのは、どうしても無理がありまして」
無理があるから、街中に放置されたまま、ということなのか。永池は妙に納得がいった。
「それなら、新しく作ることはできないのか?」
「ええ。間に合いません」
「それなら、今ある場所で利用していないところを使うこともできないのか?」
「となると、辺境の森林くらいしかありませんが……」
永池は文字通り頭を抱えて少し考えた。
(天界の森林には、危険な獣などはいないと思うけど、万一、それに似たような危険があったら、無辜の者たちを危険にさらしてしまう。)
頭を抱えていた手を下ろし、永池は仕方なく言う。
「邪術にかかった者たちの事はひとまずそのままにしておこう。また、本日の午後か明日の朝議にでも話し合ってから決めることにする」
「はい!」」
神官が大袈裟までに拝礼をしてから大殿を出た後で、永池もようやく大殿を出た。今日は緒明による講義もない。こんな日は最近の彼にとっては、珍しかったから、ただ気の向くままに、庭園へ赴くことにした。




