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神花の契り  作者: 廃人仙女
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渓月の忠誠

 穎水には、二人の娘がいる。だが、そのうちの一人は生まれてすぐに亡くなり、もう一人の娘は幼少の頃から失踪しているという。だが、それでも、穎水が失踪している娘を探している、と言う噂は、ただの誰一人として聞いたことがない。

「そうだ、渓月。お前はここで何しに来たんだ?」

 扇子の部品を組み立てながら、穎水は言った。

「息抜きに来た、と言ったら信じますか?」

「息抜き、か。まあ、ありえない事は無い。お前が言うなら、息抜きに来たんだろう」

 渓月は扇子を袖の中にしまいながら、眼前にいる穎水が、街で売っている製品よりもはるかに美しい桃の花が描かれた扇子を完成させるのを見ていた。

「ところで、本日はやけに素直ですね」

「そりゃあな。もしここで、お前を傷つけたら、何をもってわたしのを成功させるって言うんだ?」

「それは、確かに。穎水殿の利を考えると、わたくしは必ず無事でいなくてはなりませんね。たとえ、わたくしにその気がなくとも」

「うん。ところで、戻る前に一つ聞いてもいいか?」

 穎水が完成させたばかりの扇子を袖の中に入れながら立ち上がったので、仕方なく渓月もまたその場に立ち上がった。

「なんででしょう?」

「お前はどうしてあの凡庸な永池に忠誠を誓うんだ? 八年も俗境にいたのなら、霊力の回復に成功したとかが知れているだろう?」

「ええ。主君の霊力は確かに高くは無い。ですが、わたくしが儀式の中で、忠誠を誓った主は、あなたの言う凡庸な永池のみですから」

「そうか。それなら、今日のところはその答えでそれでいいとしよう。ところで、今日この桃源郷去った後で、我々が次に(まみ)えるのはどこだと思う?」

 穎水は渓月の答えを待っていたようだが、彼女はまるで何も聞こえていなかったかのように、桃源郷を出て行った。その姿が見えなくなると、穎水は懐から、長年愛用している自ら制作した扇子を取り出した。その扇子に描かれた水の模様を見ながら、彼は昔のことを思い出していた。


 翌日。渓月は神花楼で瞑想していた。あと少しで呼吸が整い、霊力が最大限発揮される状態になる、と言う時、扉の外から人の声が聞こえた。

 最初は、ひとまず瞑想が終わるまで放っておこうかと思ったけれど、何しろそれを許さないほどに、外の声がうるさい。仕方なく、渓月は呼吸が整う前に瞑想を切り上げ、扉を開けた。

「主君……?」

 神花楼の前で、永池は誰も付き従わせることなく、ただ一人でそこに立っていた。

 渓月は慌てて彼をすぐさま神花楼の中へ招き入れる。基本的に、神花以外のものが立ち入ってはならない、という決まりになっている場所に、あろうことか時の天帝が訪れているのを見られてしまったら、大事になりかねないからだ。

「ししょ……帝神。すみません、突然訪れてしまって」

 永池は神花楼の中に入るなり、渓月の腕をつかんで言った。

「今更そんなこと言ってもしょうがないでしょう。ところで、本日はどうかしたのですか、突然こんなところへ来るなんて」

「あの、昨夜報告があったのですが、最近神花域の竹林周辺で何か異変があったそうなのです。心当たりはおありですか?」

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