散華に残された霊力
散華は盃に口を当てる。それだけ見ていると、まるで下界の者が餓死しそうな状態と何ら変わりは無いようにしか見えない。
散華は盃を机上に置くと、弱々しく笑った。
「ええ。わたくしの霊力は、もうほとんど残っていません。またどこかでほんの一瞬でも、ほんのわずかでも霊力を使ってしまったら、その瞬間にわたくしは枯れてしまうでしょう。今は、主君が臨終の間際に、わたくしに返した霊力だけで何とか生き延びていますから」
「先帝が霊力を師匠に返す? そんなことがあり得るのですか?」
「あり得るみたいです。誰も、そのようなことをした試しはありませんから、わたくしも霊力を返すなんてあり得ないと思っていましたが。でも、主君亡き後も、わたくしがまだこうして何とか生きながらえているところをみると、主君は確かに霊力を返したのだと思われます。ただ、わたくしも主君がなぜ霊力を返したのか、実のところはは分かりませんが」
言い終えると、散華は再び甕の水を盃に注いで飲み始める。
「でも、師匠は先帝と神花縁を結んでいたはずでしょう? 先帝亡き後、その契りは何の効力も発していないのですか?」
「まさか。発しているじゃないですか。本来、主君がわたくしに返してくれた霊力がそのまま残っていたら、こんなに空咳ばかりして、神花湖の湖に頼る生活などしなくても良いはずなのに、わたくしの現場はそうじゃない。あの契りのおかげで、主君が亡くなってから一刻ほどした後には、彼の魂を守るために霊力が自然と半分くらいなくなっていましたね。もともと残していただいた霊力が半分になると、さすがにわたくしも自力だけでは、どうにもならなくて」
渓月は一切を諦めた病人のような表情をしている散華を見ながら、じっと考え込んでいた。
神花縁は、基本的に時の天帝もしくはその神花のどちらかが命を落とした瞬間、残されたもう一方も共に命を落とす。その時、どちらかの体に残っているわずかな霊力で、時の天帝の魂を守る仕組みとなっているのだ。しかも、どちらかが命を落としたとき、残されたもう一方に余っている霊力は天帝の魂を守ると全て尽きてしまう程度のものなのだ。だから、逆に言ってしまえば、時の天帝を守れるくらいの霊力さえあれば、それ以上の霊力を神花に残し返却しても、確かに神花が神花縁そ理由に命を落とすことはない。まあ、霊力によっては空咳に悩まされることもなく生活できるだろうし、もしくは散華のように空咳をし続け、神花湖の水に頼りきった生活を送ることになる、の二択なのだろうが。とはいえ、それを実際に行った天帝など誰もいない。永聡を除いては。
「それなら、師匠のその体はあとどれくらいもつのでしょうか?」
「さあ。わたくしにもわかりかねます。今後、天界で何も起こらなければ、あと一年くらいはもう、そうはいかないでしょうし。もし何かあれば、わたくしはそこで霊力を使い切るつもりなので、そうなればことがいつ起こるのかにもよりますね」
「師匠、ことが起こる、と言うのはどういうことなのですか?」
渓月の胸には、一抹の暗黒な不安がよぎった。




