禁書を読む許可を得て
無意識のうちに、じわじわと上がってくる口角を抑えながら、渓月は目を伏せると同時に、鼓動が速くなってくるのを感じながら言った。
「ありがとうございます。それならば、ありがたく禁書を読ませていただくことにします。結果が分かり次第、また報告させていただきますね。……では、もうすぐ師神殿との講義ですよね、わたくしは彼で失礼いたします」
渓月が背をくるりと向けて大殿を出て行こうとした時、背後から悲痛な小声が聞こえてきた。
「また師弟となることはできないのですか……」
それは独り言を言っているようにも聞こえるし、渓月に向けて尋ねているようにも聞こえた。だが、渓月は何も答えずに、そのまま大殿を後にする。永池の言葉に答えてしまったら、師弟の関係に戻るどころか、身分不相応な願いまで出てきてしまいそうだったから。
渓月は永池を振り返る代わりに、心の中で彼の言葉に答えた。
(主と神花の関係である以上、師弟の関係に戻る事は不可能な決まりとなっているのです。だから、諦めてください。この天界ではありえないことを望んではいけません。)
渓月が大殿を出ると、師神となったばかりの緒明とすれ違った。てっきり、ただ軽く挨拶をし合うだけだと思っていたのに、なんと緒明は彼女に話しかけた。
「帝神殿、珍しいですね。天君に呼ばれたのですか?」
「いえ。わたくしが自ら主君にお目通りを願ったのです。一つお願いがあったので」
「それは、どのような?」
「んー、禁書を読む許可を望んだ、と言えば、どのような反応されますか?」
その言葉を聞いた瞬間、緒明の表情がみるみるうちに汚いものでも見るかのようなものと変わっていく。内心やっぱりな、と思いながら、渓月は少しだけ口角を上げた。
「帝神殿。あなたにどのような理由があるのか分かりませんが、一線を超えるのだけはやめたほうがいいですよ」
「ええ。わかっておりますよ。ただ、忠告していただきありがとうございます。そのお礼と言ってはなんですが、一つ師神殿にも忠言を差し上げますね。何の根拠もなしに、相手に対して自らの言葉を通すのもやめたほうがいいですよ」
軽く頭だけ下げ、渓月は緒明の隣を通り過ぎた。緒明と話していると、なぜか頭痛が起こってしまうせいで、足息を吐き、こめかみを揉みながらではあったが。
渓月は神花楼へ戻ると、まっすぐに二階へと向かった。そこには散華もいて、どこから持ってきたのかもわからない、水がなみなみと入った甕が文机の上に置かれている。しかも、その隣には水を入れるように作られたらしい竹の盃まで用意されていた。それも、二つ。
「渓月、お帰りなさい。天君は何と?」
散華が甕の水を盃に一人分だけ注ぎながら言う。それを悲痛な面持ちで見つめながら、渓月は長椅子に座った。
「主君からは許可を得ました。ですので、わたくしは今すぐにでも禁書を調べる予定ですが、……師匠、大丈夫ですか? 霊力がどうかしたのですか? それから、その水は神花水の湖でしょう? 常備しなければならないほど力が弱っているのですか?」




