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神花の契り  作者: 廃人仙女
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神花縁奇書

 永聡が崩御した十日後、永池は天界の新たな主として星運閣(せいうんかく)で即位した。星運閣は、秋桜閣の右隣に位置し、即位の儀など天界におけるあらゆる儀式を行う場所だ。二刻にわたる儀式で、永池は無事何事もなく儀式を終えると、永聡の帝神であった散華から帝神の任を解いた。


 散華は空咳をしながら神花楼へと戻った。

 楼内にはやはり渓月だけがいて、彼女はまさに瞑想している最中だった。彼女の両手に宿る霊力には、底知れない力があり、今の散華では近づくことのできないほどだ。

(この霊力は並大抵なものじゃない。でも、これこそがやはり主の命となるための霊力にはふさわしい)

 密かに師として誇らしく思いながら、散華は神花湖の水を手ですくって飲んだ。神花湖の水に力を回復させる効能があるため、二口飲んだだけで散華の空咳は止まった。

 渓月はまだ目を開けそうになかったので、散華は何も言わずに神花楼の二階に向かう。

 神花楼の一階には湖と、神花域の中にある竹で簡単に設えた机と椅子が二脚あるだけだが、二階には、壁全体の書棚と、中央に長椅子が一脚、その隣に机と椅子が一脚ずつ設えられている。いずれも、神花域の竹林にある竹で作られたものだ。

 散華は今まで数えるほどしか近づいたことのない書棚から、ある書物を探していた。しかし、それが一向に見つからない。あと一段分で全て探し終わる、と言う時に、階段を上る足音がした。

「渓月。瞑想は終わったのですか?」

 渓月はまるで瞑想などしていなかったかのように、爽快な表情で、散華の隣に優雅に歩いてきた。

「ええ。先ほど。ところで、何かお探しですか? わたくしにできることであればお手伝いいたしますよ」

「ありがとう。実は、ある書物を探しているのです」

「書物?」

 散華ははっきりとうなずいた。

「ええ。『神花縁奇書(しんかえんきしょ)』と言う書物です」

「『神花縁奇書』? どこかで聞いたことがありますね。確か、秋碧帝神が実用的では無いから、と隠し書棚にしまったと言う書物でしたよね?」

 言うや否や、渓月は散華が既に「探し終えた」書棚に飾られていた、水仙が活けられている藤色の花瓶を右に回す。すると、たちまちその書棚がくるりと回転し、秋桜閣にも劣らないほど書物がぎっしりと詰まった書棚が現れた。

「渓月、この棚......」

「師匠は存じ上げないのですか? 先帝は以前おっしゃっていたのですが、神花楼の隠し書棚には、天界の禁書が収められているのです。そして、師匠がお探しになっている『神花縁奇書』もまたそのうちの一冊です」

「なぜ、その書物は禁書に? わたくしが修行していた......ごほっ......時は、まだ禁書ではなかったはずですが」

 渓月は隠し書棚の右端一番下の段に積まれた書物から、一番上の書物だけを抜き取った。それは、まさに散華が探していた『神花縁奇書』だった。

「この書物が禁書になったのは確かに最近です。先帝によると、先帝がご成婚された時に禁書になったそうなので、およそ三十年ほど前ですね」

「なぜ禁止になったのでしょう?」

「......先帝曰く、師匠が花開いたからだそうですよ」

「?」

 渓月は『神花縁奇書』を散華に渡し、再び花瓶を今度は左に回して書棚を元に戻した。

「聞くところによると、永雨天君は長く安寧の世をもたらすために、強力な力を持つ神花を咲かせようと、生まれながらにして帝神並みの強力な霊力を持つ神花を咲かせる帝花種を作ることはできないか、と日々研究されていたそうなのです。自らの霊力を帝花種に送り込んでみたり、神花湖の水に一晩つけてみたりして」

「......それで?」

「最終的に、永雨天君が思いついたのが、一度帝花種に雷を打たせることでした。それは、『神花縁奇書』に、強力な力を持つ神花を咲かせるには雷に打たせるべし、と言う記述があったため。そして、それを永雨天君は実行され、雷に耐えた唯一の帝花種を秋碧帝神に植えさせたそうなのです」

「その結果、生えてきたのがわたくし?」

「ええ。実際、戦いの日に雷が鳴ったそうですが、師匠はそれに耐え抜かれたのでしょう?」

 散華は黙ったまま頷いた。

「でも、師匠の場合は、雷には耐える力があるものの、花を咲かせる前に打たれた雷で本来持つべきだった霊力の半分以上を失ってしまったわけなのですが」

「しかし、雷鳴の轟いていたあの日、わたくしは全身を神花湖の中に入れていました。だから、あの日はわたくしが雷に耐えられるのではなく、神花湖の水がわたくしを守ったのでは......?」

 散華は当時の状況を細かく思い出すも、渓月は力なく、首を横に振るだけだった。

「師匠、神花湖の水には、霊力を回復させる効能はあっても、雷からばってくれるような効果はありませんよ」

 窓から入ってくる光が橙色から葡萄色へと変化していく中、散華は絶句していた。

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