天宮への帰還
永池は戸惑いを隠さずに渓月らを迎え入れる。
渓月らは皆神花楼に足を踏み入れるや否や、彼に厳かな拝礼をする。
「ちょ、ちょ......。師匠、師母。これは一体どういうことなのですか? お二人とも、早くお立ちになってください」
しかし、永池の訴えに対し、渓月は一切動く様子を見せない。
「殿下。天宮にお戻りください」
何の説明もしないまま、散華はただそれだけを言う。しかし、永池は当然動こうとはしない。彼は救いを求めるかのように、渓月の前に座った。
「師匠、これは一体どういうことなのでしょう? 皆わたしを殿下、と呼んでいます。人違いをしているのでしょうか?」
しかし、渓月は無気力に首を横に振った。
「いいえ。人違いではありません。皆、間違いなく殿下のことを殿下、と呼んでいるのです。なぜなら、あなた様は天界の後継者だから。ですのでどうか天宮にお戻りいただけませんか」
「でも、師匠......」
「あと、先程は言い忘れておりましたが、どうかわたくしのことを師匠、とお呼びになるのはやめていただけませんか。わたくしには、弟子はおりませんので」
渓月はいると、額を音を立てながら床につける。
永池は額づいている渓月を無言でただじっと見つめていた。初対面の時から変わらない、彼女を見るたびにはやる鼓動を感じながら。
(どういうことなのかわからないけど、師匠はわたしが入らなくなったんだな。わたしは師匠ともっと多くの時を共に過ごしたかったのに)
永池は渓月らに背を向けて、涙を二筋だけ流した後、すっと立ち上がって宣言した。
「よし。では、君たちと戻ろう」
永池が散華や兵士らと共に天宮へ到着してから、まず最初に向かったのは大殿だった。
大殿には神官は一人もおらず、玉座に永聡が寝転がっているだけだった。
「主君。永池殿下をお連れしました」
と、散華が告げると、永聡はただ永池をしただけだった。
「うん。ご苦労様です。渓月は? 一緒に来なかったのですか」
「はい。渓月には霊力を蓄えてもらえるように、神花楼で修行させています」
「わかりました。で、その者が例の......?」
「その通りです。ひとまずお話しされますか?」
永聡は寝転がったまま、首を横に振った。その動作自体も、どこか倦怠感に満ちているようだった。
「いや。永池は俗境にいたせいで記憶を失っているのでしょう? それなら、今話したとしても、父子としての会話はきっとできないでしょう。それに、わたしも話すのが辛いですし」
「わたくしの配慮が足らず、失礼いたしました。そういうことなら、殿下は先に寝所へ案内いたしますね」
「案内は兵にでもさせなさい。帝神に話があるのです」




