最終話 ではまた次の物語で
俺は人を、殺した。
やってしまった……。
もうこの学園、この世界に居場所はない。俺の華々しい学園ライフは終わってしまった。友達も、青春の思い出も全てが消え失せた。永遠に。
目の前を改めて見てみる。もう何も残ってはいないが人がいたのではないかという暖かさは目の前に残っていた。
俺はこんな光景が嫌になり、救護室から走って出て行った。泣きじゃくっていたため醜い顔なのは自覚があった。そのためか廊下を走っているとヒソヒソと嘲りの声が聞こえてくる。
もちろん、全てが自分に向けられているものではないとわかっている。しかし他人全てが自分を嘲り笑っているような錯覚に陥った。
直視できないほどの悪意が今、自分に向けられている。
勇気を出して前を見ても真っ暗な闇の中にポツポツと見える赤い獣のような目。
そんな状況に耐えられなくなり渡り廊下を使い別の校舎へ、そして誰もいない校舎の端の端にうずくまるように収まる。
もういっそ、
この世の全員を殺しちゃおうかな……
「大丈夫……?」
俺が悩んでいると一人の女の子が声をかけてきた。
「なんで泣いているの…?」
悪意はない、単純な疑問。しかしそこに悪意がないことをわかっていても今の自分には全てが侮辱にしか思えなかった。
でも、不思議と俺は彼女のことを信頼できる気がした。
「話を、聞いてくれるか?」
「……いいよ」
その後、俺は身の上のこと全てを話した。
家族のこと。
さっき救護室で人を殺してしまったこと。
全ての人が自分を嘲り笑っているように思えること。
そして、この世界なんてなくなればいいと思っていること。
「……そんなことがあったんだ。でも大丈夫。私もこの世界が憎い。滅ぼしたいほどに。でもね……」
ズザッ
「え………?」
「やっと見つけたよゲスが。こんなところに逃げ込みやがって。殺人の罪はそう簡単には消えねえからな」
「……おい、しっかりしろよ。おい!」
気がつくと、目には涙が浮かんでおり視界が再度歪んでいた。目の前で起きたことが信じられなかったんだ。ついさっき出会っただけだが、仲良くなった人を目の前で、しかも殺人の罪を捌きにきた奴が殺した。
こんなの、おかしいじゃないか……。
「なんで、お前は彼女を殺したんだ」
「なんでって、邪魔だったから」
「おかしいだろ!罪を語る奴が、目の前で殺人を犯して。なんでお前は……俺以外のやつは捌かれねえんだよ……!」
「いい加減目を覚ませよ。お前の目の前にあるのはただの肉塊だろ?」
目を覚ましたい。これがいっそ、目を覚ませる夢だったなら。
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「どうですか?被験体922の様子は?」
「順調極まりない。仮想空間に飛ばして一時的に楽観的な物語を見せる。しかしそこには理不尽があったため彼は人を殺してしまった」
「つまり彼は逆らえなかったと」
「ええ、ほかの被験体と同じく殺しに誘導してみたんですが変わらず引っかかりましたね。ではそろそろ現実へ引っ張り出しますか」
ビリビリ
「起きたか?922番?」
「あ……う……ん……」
「意識は完全ではないが残っているな。ではまた別の世界に飛ばすとしよう」
「まって……やめて……くれ」
「なぜだ?君が先程思ったように目覚めることのできる夢の世界であればいいのだろう?」
「思ったけど思っていない!」
「うるさいうるさい。ではまた次の物語でな。さらばだ」