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第三話 『魔壊滅死光』






「…………うう」


 目が覚めると、ベッドの中にいた。どうやら森で魔力を使い果たしてから運ばれたらしい。


「ようやく起きたか」

「わっ!」


 気が付かなかった。人がいたのか。あたりに大量の薬箱やベッドが置いてあることを考えるとここは救護室のはずだから、この教室の担当教員だろう。


「全く、いつまで寝てるんだ。私は暇じゃないし、君の専任の救護員でもないんだがね」


「……介抱してくれたんですね。ありがとうございます」


 なかなか尖った言い方だが、とりあえず角が立たないように人として最低限のお礼の言葉を述べておく。


「君の手当てなんてしたくなかったんだがね。これも仕事。絶対に仕事はこなさなければならない。ああ、なんて煩わしい世の中だ」


「……俺はどれくらい倒れていたんでしょうか」


 このままこの人の話を聞きたくはないので強引に話をそらす。


「君の斃れていた時間? 時計すら読めないとはさすがDクラスだ。そんなこともわからない君に優しくて親切な私が教えてあげよう。3時間だ。これが何を意味するかわかるかね」


「…………わかりません」


 魔力を使い果たした人の倒れる時間としては少々短い方、それくらいしか思い当たることがない。


「わからない? まさか自覚していないのか!?」

「何をですか?」


「この、伯爵家を実家にもつ私の、貴重な貴重な時間を3時間も奪ったんだぞ君は! たかがDクラスの君が! 素直に反省して謝罪するなら受け入れようとも思ったが、まさか気が付いてすらいなかったとは!」


「……は?」


 まさか救護員相手にそんなことを言われるとは思いもせず、何も言えなくなってしまった。


「そういえば君は魔力切れで倒れたらしいね。自分の魔力の残量も考えないとは、さすが私の時間を奪い去るだけのことはある」


「……」


「おお、なんだその目は。反抗的な態度をしていいのか? 伯爵家の権力を使えば後ろ盾のない君くらい簡単に学園から追放できるだぞ?」


 事実だ。

例え俺がどんな高位貴族出身でも、今は後ろ盾一つない。目の前のやつがやろうと思えば簡単に消される。


 だから、ただ歯を食いしばって耐えるしかない。どんなことを言われようと。


「Dクラスというからには、ろくに魔法を使えないんだろう? それなのに魔力切れで倒れるとは。ふふっ。君、栄誉ある我が学園にふさわしくないね」


「……」


「いや、そもそも君如きが魔法を使うなんて無理なんじゃない?」


 ーーもう嫌だ。


 魔法を使うのは、無理。

そんな言葉を何回聞かされたことか。

その言葉が、どれだけ俺にとって負担か。


 俺のゲートが壊れていることを知った時の、あの絶望。


 いつかは俺が魔法を使えるようになると信じて、いつも励ましてくれた母。

 彼女はそれを知った時、道端のゴミを見るような目で俺を見てきた。


 父に至っては激怒して目を合わせるたびに魔法を放ってきた。

 炎魔法を使ってつけられた火傷は今もまだ癒えない。水魔法で窒息させられそうになったトラウマは今も消えない。


 毒を盛られて全身を途方もない痛みが襲ったことも今もまだ覚えている。


 母も、父も、俺が魔法を使えないと知ってからは全くの別人になった。


 毎日が辛かった。


 頑張って魔法を使えるようになりたくて、1人で特訓していると「お前には無理だ」「時間の無駄だ」「奴隷になる勉強でもしとけ」。


 浴びせられた暴言の数々。


 有名な貴族、ベルベット侯爵家に嫡子として生まれた俺はゲートの欠損が発覚するまで可愛がられて育った。

 しかし、10歳の時、初めて魔法を使ってみようと言われて使おうとしたもののなぜか使えなかった。

 不安に思った父が有名な魔法使いに調べさせたところゲートに欠損があることが発覚した。


 この世界において魔法は絶対だ。

強く偉大な魔法を使える者ほどより優れた人物とされる。


 貴族の階級も当主の魔法技術で決まる。

だから両親がこれほどまでに怒っているのだ。

お前のせいでベルベット家が地に落ちる、と。



 そんな言葉をこれまで何度も、何十回も、何百回も聞いてきた。


 そして、今も、また聞かされる。


 俺の心はもう限界に達していた。


 もう嫌だ。

こんな風に罵られて、馬鹿にされて、こんな世界は嫌だ。


 俺はこんな世界にいたくない。


 だから、統一魔法連盟のトップに立って、世界ごと変える。魔法を使えない者も魔法を使える者も、平等な世界。


 それが、俺の夢見た世界だ。


 でも、もう、わかんなくなってきている。

本当にこんな世界に意味はあるのか?


 ルールを変えたところで、そこにいる人間は変わらない。長年にわたって人々の心に染みついた固定観念はたった一度ルールを変えたくらいで簡単には変わらない。


 俺に毒入りの飯を作った使用人

 俺に危険な魔法を狙って打った父

 俺を産まなければよかったと言った母

 俺に蔑みの視線を浴びせ続けた人間


 そして、己の社会的地位に溺れ、か弱い生徒をいじめるこの教師


 クズばっかりの世界。


「おい、無視してんじゃねえよクズ!」


 ・・・・・・クズはお前だろ


 身を取り巻く全てのものに対する不満が込み上げる。


 ーー嗚呼

もう全部、ぶっ壊してやりたい


 いままでの理想の綺麗な新しい世界のイメージが、音を立てて崩れてゆく。


「あは、あはは、あははははっ!」


 どこからか不気味な笑い声が聞こえると思ったが、それが自分の口から発せられていたことに気づいたときにはもう手が動いていた。


「っ!お前なにを!?」


 胸の内に、何か黒いものが芽生え、心を満たす。

心はその何か黒いものでいっぱいになった。


「全部、全部全部全部!ぶっ壊してやる!」


 周囲の魔力を、身に取り込む。

ゲートの無い俺にはできなかった芸当。


 でもこの魔術の発動中は取り込める。

いくらでも、世界中の全ての魔力を、この魔術に。

そして、放てる。まるでクズどもの使う魔法のように。


 

 俺の心を象徴したかのような黒い魔力が掌に集まる。それを小さく小さく、無限の質量を一点に置くかのように、球状にする。


 俺は右手を上げ、黎き真球を掲げる。


「ーー死怨魔術『魔壊滅死光(ディスインフェクト)』」


 俺の手から放たれた黎き真球は、

クズへまっすぐに飛び。抜けた。


 クズの体は真球に飲み込まれ、虚空へと消えた。








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