第一章 第二話 『悪役令嬢と妹好きな兄者の復興途上』(破)
すみません、まただいぶ時間が空いてしまいました。申し訳ありません。ちょっと書き溜めたので三日くらい連続で投稿できます。
『彼らは進んでドイツ人の靴磨きになった』
〘"Chief Flying Eagle"イタロ・バルボ〙
第一章 第二話 『悪役令嬢と妹好きな兄者の復興途上』(破)
リギンボグエン サヌーデル地区 上空
昨日に続いて、また、空に行くことになるとは思わなかった。今度こそ初ヘリコプターなのだろうか?ぶいとる機…。
「そろそろ真意を聞かせてもらってもよろしいですか?カニンガム氏」
兄者は幼いながらも少し声を低くしながらカニンガムさんに聞いた。ドスの効いた声を出そうとしてるのだろうがちょっとかわいいが勝るね、それ。
「僕はただ君たちに見せたいものがあったからEO社に頼み込んで乗せてもらったんだよ」
「EO社の親企業はSRCオイル社で、EMCとは仲が悪いだろう。お父様の依頼にねじ込める時点であなたはただのEMC社員じゃない」
カニンガムさんは兄者の言葉に首を何度も縦にふった。そして、ニヤッと笑うとゆっくりと口を開いた。
「あぁ。ごめん。僕はEMCのCEOなんだ」
「「……なんだと?」ですって?」
兄者とフランツ殿下が同時に驚いた。ジェイソンさんとアダルも目を丸くしている。ええと、CEOって要は社長だよね?
「……それで見せたかったてのはさっきのイギリスの外務大臣の演説映像か?北アフリカで戦争が始まったようだな」
「北アフリカ狂犬大戦。名付けるならこうかな。中央領界とは言っても富を独占してるのは北側諸国ですからねぇ。その分前を巡って殺し合う。素晴らしいことだと思いませんか?」
「頭のおかしい思想を撒き散らしに来たなら降りろ。それか、降ろされるか、だ。」
私の中でのカニンガムさんの好印象メーターがだだ下がりである。乙女ゲームならゲームオーバーだよ。
「あぁ、失礼。まだ降りたくないんだよねぇ」
「だったら、さっさと用件を言え」
「その前に誤解を解いておきたいんだよね。僕のさっきの言葉は頭おかしい思想じゃないんだよね。僕は商人。戦争は大チャンスなんだよ」
「……印象は変わらん。さっさと用件を話さないなら本当にたたき落とすぞ」
「お兄様…落ち着いて。カニンガムさん。えっと…見せたいものってのはなんなんですか?」
兄者のイラつきが目に見えてわかるようになってきたので見かねて口を挟む。
「アデルちゃんはお兄様と違って優しいね。…さて、皆様、右側の窓から下をご覧ください」
カニンガムさんが窓から右を見るように促す。リギンボグエンの街の上に黒い点がそこかしこに南から北に移動している。飛行機?
「リギンボグエン上空 300mに複数の輸送機!イタリャーナのサヴォイア・マルケッティ S.74だと思われます!!」
EO社の社員がベンさんにそう報告した。イタリアの?でも、SNNの加盟国だよね?そういえば、フィリッポさんが行方不明になっているし、捜索しに来たのかな?ん、なんか輸送機から投下してる?
「空挺降下…ですか。我が国の主権などあってないようなものですね」
「黒シャツ隊か?」
「その通り。おそらく、スラム街でイタリャーナのSNN代表を探して始末するんじゃないかな?」
答えながらカニンガムさんはパラシュートを受け取ると機体後部の方へ歩いていく。
「何をする気だ?」
「え、降りるのは待ってって言ったじゃん?」
後部の扉が解放され、光が差し込んでくる。
「ここ何mあるの?」
ベンさんに聞いておく。こんな高いところから降りても大丈夫なんだろうか?
「約4000mです。パラシュートだけで降りるにはちょっと…」
「だそうです。カニンガムさん」
「大丈夫だよ。アデルちゃん。僕は社長だから」
返答になっていない返答をして彼は身を翻し飛び降りた。窓から外を見てみるが、全く見当たらなかった。大丈夫なのかな?
「おー…あの人、協会のリストじゃ、無能力者何ですけどねぇ」
ヌケヌイさんが感心してるのか、困惑してるのか分からない口調で下を見ている。
「あの…ヌケヌイさん。異能力測定って何をするんですか?」
「ケテテでいいよぉ。私の国では名前の方が後に来るんだぁ」
日本と同じなんだ。ケテテって響きがいいよね。かわいい要素しかない。
「あ、じゃあ、ケテテさん!」
「うん、測定の話だよね。測定はねぇ。本来は異能力者協会の支部でやるんだけど…なんかアデルちゃんのお父さんに今日、1日同行してから判断してって言われちゃってー」
さっきから聞いて思ったけど…お父さん顔広くない?朝の痴態からは想像できないんだけど…
「えっと…なんかごめんなさい…」
「いやいやー、私も実戦形式の方が判断しやすいから」
私とケテテさんが話している間に、兄者とフランツ殿下はベンさんと何事かを話していた。ややあって、話が纏まったのか私たちに呼びかけてくれる。
「SNN工場がテロリストの攻撃を受けているらしい。そこに着陸して援護しようと思う」
工場って…強制労働の…うーん。まあ、でも、労働者たちもいるだろうし…反対する理由もないよね。
ーーーーーーーーーー
リギンボグエン デクシ地区 義務労働再調整センター
私たちはSNN工場の中庭に着陸すると、兵士たちが沢山出てくる。さすがに警戒しているようだ。ベンさんが先頭に出て兵士たちに説明してくれているようだ。暫くして、建物からにこやかに笑みを浮かべた青い軍服姿の中年男性と媚びた笑みを浮かべる煌びやかな服装の中年男性が出てくる。
「アデル、フランツ行くぞ」
「はい!「了解ー」」
「フランツ殿下!レッドモンド公爵令息様!アデルハイト公爵令嬢様!ど、どうなさったのですか!?ここは危険ですぞ!テロリストどもが大挙して押し寄せてきて!!」
キンキンと頭に響く声で煌びやかな服装の中年男性が間近で怒鳴ってくる。ええと…誰なんだろう。
「ヴィツォーク伯爵。お噂は聞き及んでいますよ。なんでも、センターの生産効率を向上させたとか!」
フランツ殿下が煌びやかな服装の伯爵と握手しながら彼を褒めたたえているが、明らかに目が笑っていない。まあ、強制労働やってるセンターにいる貴族の時点でやばい人なのは間違いないから対応としては間違ってない。
「お褒めの言葉、誠に光栄でございます!」
そんなので褒められて嬉しいのだろうか。
「皇太子殿下とスイミット公爵家のご子息、ご息女ですね?私はフェルディナン・ヘスリング。義務労働再調整センターの外部副所長の職務に就いています」
青い軍服の男性の方はそう自己紹介した。この人はホファンブルク人ではなさそうだった。そんなヘスリングに兄者が説明を始める。
「お父様…いえ、スイミット公爵がここの防衛に手を貸すようにと」
「センターの防衛をですか?」
へスリングは少し訝しんでいるのか、私たちの目をじっくりと見つめる。彼の目はきっと何も信用していない。
「そうです」
「テロリストどもは大した武装も持っていませんぞ?大多数は弓とか剣とかで持っていたとしてもAKくらいなものです。フランツ殿下の手を煩わせるまでもありませんぞ?」
ヴィツォークはフランツ殿下に媚びるように捲し立てる。小物感が凄い。でも、確かにお父さんはなんでここに向かわせたんだろう。
「先程、黒シャツ隊がデクシ地区に降下しました。もしかしたらここも攻略目標の可能性があります」
兄者は先程、空で見たイタリア軍の事をへスリングに明かす。というか、黒シャツたちの目的はフィリッポさんを見つけ出して始末する事じゃないの?
「レッドモンド公爵令息様!?どういうことですか!!彼らがセンターを!?味方のはずでは!?」
へスリングが兄者に捲し立てるヴィツォークを手で制すと、ずずいと身を乗り出した。
「なるほど。そう主張なされるということは何か根拠があるのですか?」
「イタリャーナ軍の行動は我が国の許可を得たものではなく勝手な軍事行動です」
兄者はへスリングの子ども相手でも容赦のない質問に間髪を入れずに答える。へスリングは兄者の肩をぽんぽんと叩くと満面の笑みを浮かべる。
「勝手な軍事行動だからなんだと言うのだ!イタリャーナ軍は我々の味方なのだ!!」
「ヴィツォーク伯爵。外の戦況が気になるな。見に行ってきていただけないだろうか」
「え?しかし、フランツ殿下の応対は私めが、適任でしょう!」
「行ってきたまえ」
「…は、はいぃ」
へスリングの笑顔が少し引きつっている。ヴィツォークの相手はみんな疲れるのだろう。
「あなた方の忠告。確かに受け取りました。黒シャツ隊が来た時の為に、あなた方が連れてきたPMCは温存させていただきます。それでよろしいですか?」
「わかりました。どこで待機すればよろしいでしょうか?」
「大会議室がありますのでそちらに案内させましょう」
兄者とへスリングの話はトントン拍子で進んでいった。ややあって兄者は話を終えてこちらに向き直ると私の頭をぽんぽんと撫でた。
「フランツと一緒にしばらく待っているんだ」
「お兄様は?」
「少し周囲の状況を見てくる」
「でも、戦闘してるし危険じゃない?」
「大丈夫だ。心配はいらない」
兄者は私を安心させたいのかぎゅっと抱きしめた。……長いね。そろそろ離してほしい。
「レッドー?みんなざわざわしてきたからそろそろ離してあげて」
フランツ殿下がそう促すとやっとのことで兄者は離れてくれた。うーん。どうにかして矯正できないかな。兄者とジェイソンさん、ベンさんは数人のEO社の兵士を引き連れて私たちとは違う方向へと向かう。
皆が慌ただしく動きはじめる。喚声と銃声がこだまする強制労働施設の中は居心地が悪かった。
ーーーーーーーーーー
義務労働再調整センター 正門前
「どんどん撃ちこめや!!」
蝋燭と血色 の幹部さんが吠えている。ここにいるほとんどの人がどこかしらに傷を作っていた。昨日の砲撃はデクシ地区の多くの人を肉体的にも、心情的にも痛めつけた。私も…
「リーゼちゃん。ここは危ないから下がっていなさい」
カタリーナさんが私を気遣って下がるように言う。でも、首を横に振る。私は、私の役目を果たさなきゃいけない。
「マンフレートさん。撤退してください」
「さっさと帰れ…」
にベもない。彼の目には今は敵しか写ってないのかもしれない。今や、凄惨な光景が広がりつつある正門前に目を向ける。土嚢と焼け焦げかけた木材を高く積み上げて、その構造物を幾つも作り、その後ろで攻撃を凌いでいた。
「正面!個人防御魔法札が切れかかってる!魔法隊!火力を集中しろ」
「了解!『炎よ!我が敵を燃やせ!』フラマ!!」
「『炎に精霊の力を!邪悪なる敵を打ち払え!』フレンモ!!」
壁の上からこちらを打ち下ろしていた機関銃兵は炎を浴びて、個人防御魔法札が尽きたのか、体に燃え移ってこちら側の地面に落下して鈍い音を響かせる。
幾人かの味方がとどめを刺すために飛び出していき次々と撃ち下ろされて倒れ伏していく。
「くそ!侵略者どもめ!!今に見てろ!」
近くにいたマンフレートさんとは別の 蝋燭と血色 の幹部が大きな弓を構えて撃ち下ろした兵士に矢を放つ。しかし、個人防御魔法札が発動して阻まれてしまった。
「臆病者め!出てきやg…」
「狙撃手だ!頭を出すな!撃ち抜かれるぞ!!」
死臭がする。あまりにも無意味な死闘だ。だから、私は説得をやめるつもりは無い。今はここを襲ったって無駄でしかない。そのことを説明する為に。
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義務労働再調整センター 大会議室
ここにいてもまだ銃声は聞こえる。しかし、そんなに中でもEO社の兵士さんたちは動じずに談笑したりトランプをしている。しかし、数人の兵士たちは扉や窓の付近に立っており警戒姿勢を崩していない。
「大丈夫かい?怖くない?」
フランツ殿下がそう声をかけてくれる。
「だ、大丈夫です!」
「戦争は怖いねぇ~」
ケテテさんが頭を撫でながら微笑みかけてくれる。なんかすごく子ども扱いされている気がする。まあ、実際子どもなんだけどさ。
「ねぇ…今のうちに中を見て回れないかな?」
「確かに敵の懐に入れた訳だもんね」
私の提案にフランツ殿下が賛同してくれる。ここにホワイトディペロップの証拠があるのであればそれを見つけたいよね。とりあえずここにいる皆に伝えてみよう。
「あの…皆さん。実は私はこの場所で探したいものがあるんです!」
EO社の兵士たちの顔が一気に集中する。殆どの兵士たちが黒人さんだ。そして、1番、手前でポーカーをしていた女性黒人兵士がこちらに向き直る。
「探し物ぉ?何さ、こんな変なところで落としたって言うのかい?どんなものか教えてみな?探してきてやるからさ」
彼女はホファンブルク語で喋ってくれた。他の兵士たちは見つめているだけなのできっとホファンブルク語は分からないのだろう。
「その…私たちがここに来たのは、知りたいことがあったからなんです」
「知りたいこと?この強制労働施設の実態を暴いて世間に知らしめてやろうとか、そんな感じかい?やめときな。SNNの連中とてバカじゃないんだからさ。お偉い貴族様や王子様でもできないことだってあるんだよ」
「それに近いんですけど…ここで、ホワイト・ディペロップが製造されているんじゃないかって思って…」
「それ、ほんとかい?あの世界中で流通してる例の薬物が?」
「私たちの予測によれば…」
「はぁん…な る ほ ど ね。そうと決まればさっさと行こう!」
「あ…えーと、そうだ。お名前は?」
「私?エリザベス。皆からはエリーって呼ばれてます」
「よろしくね!エリー!」
「ええ。よろしくお願いしますね。アデルハイトお嬢様」
エリーさんは私の話を聞くと兵士たちに命令を出してくれる。その様子を眺めているとアダルから肩をぽんぽんと触られる。
「アデルお嬢様」
「どしたの?アダル」
「お嬢様は危険と分かっていても飛び込むのですよね?」
「もちろん。ここまで来て引き下がれないよ」
「分かりました。アデルお嬢様をこのアダルが如何なる危険からも守りましょう」
「うん!お願いね!」
きっとこの場所にホワイト・ディペロップの情報があるはずだ。必ず見つけ出さなきゃ。そして、絶対に解決してやるんだから!
読んでくださり、ありがとうございます!感想、募集してます!次回は視点がだいぶ変わり、黒シャツ隊を迎え撃つ国連の特殊部隊の幕間になります。戦闘シーンが長くなったので三分割しました。ということで今回のおまけはアデルと次回の中心キャラである 国連 特殊部隊の隊長 ミア による次回予告です。
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ミア「えっと…まだ出会っていないのに?」
アデルハイト「細かい事は気にしちゃ駄目だよー?」
ミア「まあ、それもそっか」
アデルハイト「じゃ、次回はどんな感じになるの?」
ミア「私たちが列車に乗ってるんだけど、そこに黒シャツ隊が襲撃して…殺し合い、ドンパチって感じ」
アデルハイト「だ、だいぶ、大雑把だね」
ミア「ま、私と仲間が大活躍するから見ててよ」
アデルハイト「うん!がんばってねー」
アデルハイト・ミア「次回!第一章 第二話 『悪役令嬢と妹好きな兄者の復興途上』(幕間1/3)
!!」