第一章 第二話 『悪役令嬢と妹好きな兄者の復興途上』(序)
久しぶりに書いたので長くなってしまいました。いい読書を!
『日本が、戦後の焼け野原から高度経済成長を果たしたのは、戦争へ行って帰ってきた復員軍人が政界、財界、学界に入り窮乏に耐えて何とか日本を復興しようとの一念に燃え、魂を奮い立たせ、渾身の力を振り絞って努力に努力を重ねてきたからである』
〘"風見鶏から大勲位へ"中曽根 康弘〙
第一章 第二話 『悪役令嬢と妹好きな兄者の復興途上』(序)
開放暦1410年 ディアーク治世歴44年 10月26日
サンスカリア領界 ニテリオロパ大陸
ホファンブルク王国 首都 リギンボグエン
ツァオン地区(貴族邸宅街) スイミット公爵首都邸宅
私の前には見目麗しい女性。つまるところ、私のお母さんこと、アルフリーダ・ボルクス・スイミットが仁王立ちで私を見下ろしている。
「心配したのよ!!!アデルハイト!!!」
あ、これはお母さんめっちゃ激怒してるやつだ。私は全て思い出す前の記憶を思い起こすと、お母さんが激怒している時は、私の名前をアデルではなくアデルハイトと呼ぶ。
「ちょっとちゃんと聞いてるのかしら!?」
「あ、あのお母様?」
「何かしら?」
実のところを言うと八割がた聞き流してしまっている。でもそれは、ずっと気になっている事が頭にチラチラとこびりついているせいだ。なので、その元凶の事をたずねることにした。
「どうしてお父様が天井から吊り下げられてるのでしょうか?」
「貴方の事が心配でコネを使って領地から飛んできたらしいわ。暫くしたら、丁寧に梱包して送り返すの」
「お母様、加減を…」
兄者がお父さんの処遇に手加減を求めている。確かに、お父さんは私を心配してきただけだからここまでしなくても良くない?てか、どうやってここまで来たの。こっから1600kmくらい離れてない?うちの領地。
「…はぁーーーー。今後は無茶はしないでね。アデル」
お母さんの長い長いため息と共に説教が終わった。でも、私にはまだ伝えたい事がある。
「お母様」
「……何かしら」
お母さんは私の目をじっと見つめる。私と同じ青い瞳が全てを見透かすかのように。
「昨日、リギンボグエンを巡って、私は強く思いました。この国をみんなが幸せになるような世界を作る…と。だから、もっと世界を見てまわりたいのです」
「……ほんとにあんたたちって兄妹ね」
「え?」
「もがもがーー!!」
口を塞がれたお父さんの方をちらっと見やった後に、切れ長の目をぱっちりと閉じてお母さんは言った。どうやら呆れているようだった。
「……お母様。オレからもお願いします」
兄者もお母さんにお願いしてくれる。お母さんはその言葉を聞きながら静かに頷いた。
「国王陛下から許可を受けてる…ホファンブルク改革結社の事でしょう?」
「はい、お母様」
お母さんは私の方に向き直った。
「私たちは貴族。上に立つものなのよ」
「………」
お母さんは上から私を見下ろす。私はその目を見つめ返した。
「もがもがーー!」
お父さんうるさいな。静かにしといてほしい。今、めっちゃ真剣な話をしてるんだから。
「上に立っていても…私にはまだ世界が見えないわ」
「………」
「あのね。アデル。レッドが分かってるから大丈夫だと思うけど…世界を見にいくのは構わないわ。世界は広すぎるからここからじゃよく見えないもの」
「はい…」
「でも、まだここに居なさい。まずは周りをよく見るのよ」
お母さんの言いたいことはよく分かった。確かにそうだろう。世界ってのはあまりにも巨大で私が外に行ったところで何もできない。この世界はゲームとは違う、とはいえ、やる事は変わらないのだ。1つ1つ確実にミッションをこなしていく。そうすれば、いつかは。クリア出来るはずだ。
「分かりましたわ。お母様」
「よろしい」
お母さんは深く頷くと私の頭を撫でる。その手は凄く暖かったし、前の世界のお母さんを思い起こした。元気にしてるかな?泣いてないといいんだけど。そう思っている間にお母さんは執事さんを呼びつける。
「ジェイソン!レオを下ろしてあげなさい!!」
お父さん…レオポルド・ボルクス・スイミットが我が家の執事…仮面をつけた素性が一切分からない男、ジェイソンに下ろされている間…ん?よくよく考えてみたら我が家の執事ヤバくない?素顔見たことないし、体格ごついし…幼い頃から遊んでもらった記憶はあるからいい人ではあるに違いない。
「アデルーーーーーーー!!!!!!!!」
「ぐえええ!!?」
また令嬢らしからぬ悲鳴をあげてしまった。お父さんが急に抱きついてきたのだ。別にいいけど、痛い痛い。咄嗟に助けを求めるために、お母様と兄者に助けを求めるが何かを話し込んでいてこちらを見ていない。そうこうしているとふっとお父さんの重圧が消える。
「な、何をするだァァァ!!」
どうやら、ジェイソンが引き剥がしてくれたようだ。お父さんは少し引きづられてよこたえられた。
「あ、ありがとう。ジェイソンさん」
「いえいえ、出過ぎた真似でしたら容赦なくご処罰ください」
「助かったわ」
ジェイソンが一礼して下がっていく。それと交代するかのようにカサカサとお父さんが這い寄ってくる。幼い頃から甘やかしてくれたお父さんの変わり果てように私もドン引きである。
「アデr…」
お父さんの快進撃も私の手前で止まった。兄者との会話を切り上げたお母さんがお父さんの頭を踏みつけたのだ。
「さっさと帰り支度をしなさい?レオポルド?」
「は、はぁい。分かったよ。マイハニー♡」
お父さんは名残惜しそうに立ち上がると私の髪をくしゃくしゃっとする。
「砲撃現場に行くといいぞ。入れるようにしておくから」
「昨日の…」
昨日の情景がありありと蘇ってくる。炎と怒声、そして、漂ってくる煙からは忘れたくなるような匂いがした。
「アデル…辛いならオレがやるから」
「いえ、やれます。やらなくちゃいけないんです」
私は兄者の目を見る。兄者の瞳はまだ迷っているかのように揺れ動いた。
「レッド、アデル。あなたたちも外に行くなら準備してから出なさい。スイミット公爵家の品位を貶めないようにね」
お母さんの忠告で我に返ったのか、兄者は私の頭をぽんと撫でると自身の準備をする為に部屋に戻った。私も準備しよう。
ーーーーーーーーーー
スイミット公爵首都邸宅
部屋に戻った私は、メイドのアダルウォルファに身支度を整えてもらいながら持っていくものをリュックサックに詰めていく。
「アデルお嬢様。そんなに沢山持っていくのですか?」
「うん!何が起きるか分からないからね!」
アダルが心配そうに見つめているが、心配要らない。前世でも今世でも体力には自信がある。
「もし、よろしければ私も同行いたします。荷物を半分持ちましょう」
「いいの?アダル。ありがとうー!」
「私の出身をお忘れですか?スラムに行くのでしたら私が適任でしょう?」
そうだった。アダルはデクシ地区の出身なのだ。私が5歳の頃、屋敷の前をアダルがボロボロにながら歩いているのを見つけ、お父さんとお母さんに頼み込んで屋敷で保護してもらったのだ。今や、私の自慢のメイドである。銀髪にオッドアイ。黒のメイド服が映える抜群のスタイル。ショートスカートから伸びるスラリとした足。うん。かわいい。
「そうだったね。結構、デクシ地区には詳しいの?」
「3年くらい住んでいましたから。あ、髪の毛のセット終わりましたよ」
「何度見ても完璧な縦ロールだね」
「とっても可愛らしいですよ。アデルお嬢様」
私のトレードマークとも言える縦ロールはいつもアダルにセットしてもらっているのだ。この完璧な縦ロール。ルーブル美術館にでも寄贈しようかな。そんな変な事を考えていると扉がノックされる。
「どぞー」
「失礼します。うん。今日もアデルは綺麗だね」
そう言いながらナチュラルに抱きしめてくる兄者。やっぱりシスコン…ん…?髪の毛の匂い嗅いでる…?えぇ…きもちわる…さすがに拒否しておこう。ちょっと押してみる。
「…?どうしたんだい?アデル」
「いや、ちょっとハグ長いかなって」
「いや…そんなことはないんじゃないかな?」
にじり寄る兄者。後ずさる私。ダガーを兄者に向かって構えるアダル。いやいや、やりすぎでしょ、アダル。
「アダルウォルファ…?君とは同好の士だと思っていたのに!」
「黙れ、下郎。アデルお嬢様が拒絶したらノータッチだろう!?」
「ふ…2人とも?」
「「どうしたんだい?アデル」どうなさいましたか?アデルお嬢様」
ふと、兄者が手に大量の紙の束を持っていることに気づいた。なんか文字がいっぱい書いてある。新聞だろうか?
「お兄様。その紙は新聞ですか?」
「そうだ。これはホファンブルク中央新聞、こっちはリギン日報、これが旧都新聞、この3つが日本の産金新聞と旭日新聞、東日新聞、こっちの2つがアメリゴのWarmer・NPとウィリアックス・ニュース・ペーパー、こっちが大英帝国のブリテン報道協会紙、最後のこれが世界最大の報道機関のWtAPのだね」
すごい勢いで捲し立てられた。なんでこんなに新聞を抱えてるんだろう。ひとつで良くない?
「なんで…そんなに?」
「あぁ。各メディアによって報道の仕方が違うからね」
とりあえず、ホファンブルク中央新聞を手に取ってみる。ええと、一面には…?
『テロリストが陣取る郊外地区に砲撃』
『市民を巻き込んだ事にSNN報道官が謝罪と保証を決定』
本文には、テロリストによる大きな被害を避ける為の仕方のない処置だったという論調が書かれている。SNN四ヶ国協定委員会の砲撃を正当化するようなコラムまで掲載されていた。新聞紙がくしゃりと歪む。あの騒動を仕方ないで済ますのは明らかにおかしい。次はリギン日報を手に取る。
『SNN艦隊、デクシ地区砲撃。死傷者多数』
『SNN四ヶ国協定委員会は責任者を処罰せず』
こちらはSNN四ヶ国協定委員会が責任を取っていない事を批判する論調だった。こちらの方が受け入れやすいが、不思議なことに対外的な事しか書いていない。まるで、意図的に王権に触れるのを避けてるように。
とりあえず、国内の新聞の最後、旧都新聞を手に取った。
『リギンボグエンで反政府勢力が居座る地区をSNN艦隊が砲撃』
『SNN報道官が保証を確約、反政府勢力のメンバー数人を逮捕』
旧都新聞は旧都ホファーナ、王国東部の新聞。私の故郷の近くで発行されてるやつだね。内容はさっきの2つより中立的で、砲撃の問題よりも反政府勢力の活動に焦点を当てているようだった。1番、信頼できそうな感じがある。
「どの新聞も王権には触れてないんだね」
「廃刊に追い込まれるからな。だから、批判の矛先は排外、SNNの方に向いている」
「旧都新聞の方はそこまで感情的には見えませんね」
アダルが新聞を覗き込んでそう言った。屋敷に来た頃は全く文字が読めなかったけど、すぐに覚えたんだよね。今度、英語も教えてみようかな?
「お兄様は日本語と英語がわかるのですか?」
兄者も日本語がわかるってことは…まさか?
「いや、ジェイソンが読んでくれている」
「そうなのですか。ジェイソンはすごいのですね!」
ジェイソンについての情報が増えた。いつか、私にも色々話してくれる日が来るのだろうか?とりあえず、日本の新聞とアメリカ、イギリスの幾つかの新聞には目を通しておこう。盗み見だからあんまりみれないけど。
まずはアメリカのWarmer・NP。
『Emoitic Republic, the key city in the south, Doramiia, has fallen?(エモイト共和国 南部要衝 ドラミイア市 陥落か?)』
『Ghazala Territory Continental war on the Chroma continent is more war-torn.(ガザラ領界 クロマ大陸での大陸戦争はより戦局が悪化)』
見たこともない聞いたこともない国での戦争。前世の時のニュースもそんな感じだった気がする。
次は日本の旭日新聞。
『反日武装勢力が満鉄を襲撃。政府の対応は未定』
『満州地域の権益を脅かす反動中華賊徒を粉砕せよ』
そういえば…シュウって人は中華系っぽい人だった気がする。今、どうしてるんだろ。
最後はイギリスのブリテン報道協会紙。
『Minister for Foreign Affairs, Commonwealth Affairs and Development Lolo Goedel, referring to the North Sea exercise incident.(外務・英連邦・開発省 大臣 ロロ・ゲーデル氏 北海演習事件について言及)』
『He commented, "It's hard to overlook the fact that the Royal Navy, the French Navy and the German Navy, the navies of the major powers in the EU, face off against each other with their own logic."(「EU域内の大国の海軍であるロイヤル・ネイビー、仏海軍、独海軍がそれぞれの理屈で対峙するのは看過しようがない」とコメントしている)』
大きい艦が写っている。戦艦かな?また、エルドウィンに指摘されそう。なんかすっごい平べったい。
「どうした?写真が気になるのか?」
兄者が怪訝そうな顔で私を覗き込んでいた。私が日本語や英語が分かるのは内緒にしといた方がいいだろう。
「いえ、なんでもありませんわ」
「そうか。そろそろ出発しよう」
「アダルも一緒に行ってもいいでしょう?」
「もちろんだ。ジェイソンも連れていく」
ジェイソンも来るなら護衛としては十分だね。本来、貴族の外出はもっと警備がいるのだと思う。私みたいに唐突に飛び出していくのは論外。軽率な行動は慎まなきゃ。
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スイミット公爵首都邸宅
「みんな、ちゃんと準備出来たの?ちゃんと確認しなさい」
「大丈夫だよ。マイハニー♡」
そういうとお父さんはお母さんにそっと口付けをする。子どもの前でこんなことをするくらいには仲がいいんだよな。
「レオ…今はダメよ」
恥ずかしがりながらお母さんはお父さんを引き剥がすと私たちに向き直った。お母さんかわいい。
「気をつけなさいね。ジェイソンがいるから大丈夫だと思うけど…危険だと思ったならすぐ逃げるのよ。デクシ地区も今は騎士がいっぱいいるとは言えども危険なのは変わらないわ」
「わかっております。お母様」
私も首を縦に何回も振った。お父さんも真剣な目でこちらを向いている。
「レッド。アデルを頼んだぞ」
「はい、お父様」
お父さんはそれを聞くとレッドと拳を付き合わせると手をひらひらさせて…なんかよくわからないヘリコプターみたいなのに乗り込んだ。待て、なんだこれ?
「VTOL機…!?」
レッドが驚いていた。なんなんだろコレ。機体にはEOと書かれている。お母さんは悠然と手を振ってるけど…とりあえず、さっさと行こう。
昨日の地獄をもう一度見に。
「行ってきます。お母様」
「行ってらっしゃい」
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首都 リギンボグエン サヌーデル地区(下町)
架設 リギン川通用橋 大英帝国 陸軍 管理ゲート前
「The area is currently sealed off.(現在、この地区は封鎖されています)」
私の前に立ちはだかる英国兵士はにべもなくそう言った。それを聞いたジェイソンが鞄から1枚の紙を取り出して兵士に見せる
「Kingdom of Hofanburg Bureaucratic Headquarters Permit from the Head of Department. Have you received any communication?(ホファンブルク王国 官僚本部 本部長の許可証です。何か連絡を受けていませんか?)」
「No. The following information is available. No specific contact has been received.いいえ。特に連絡は受けておりません」
お父さん…聞いてた話と違うんだけど。ジェイソンも困って肩を竦めている。兵士は目の前の不審な仮面の男の奇妙な動作に顔がひきつっている。
「困りましたね」
「おそらく…お父様が話を通したのは間違いないだろう」
「どうして?」
兄者はそう言ったが、兵士が嘘をついているようには見えなかった。周囲の兵士たちもこちらを警戒する様子もなく、雑談していたりしている。
「この人たちは英国の正規軍だが…」
そう言いながら兄者は奥の方を指差す。ゴテゴテの重装備に身を包んだ歩兵が数人歩いていた。ゴテゴテの車も一緒だ。1人だけ軽装な兵士がいてこちらを見つめているようだ。
「正規軍じゃないの?」
「PMCだな」
「ぴーえむしー?」
兄者が訳の分からない単語を言ってくる。もっと分かりやすく言ってほしいな。私たちがその奥の兵士について話しているのを見た英国兵士さんがこっちに近づいてきた。え、怒られるのかな
「 Those are mercenaries.(あれは傭兵だよ)」
親切なだけだった。言葉が通じないことがわかっているのに…にこやかに笑いかけている。通せんぼしてる兵士さんだけど悪気があるわけじゃないというのは確かにそうかもしれない。
「傭兵だよって言ってます」
ジェイソンが通訳してくれた。結局、PMCってのはなんなんだろう。傭兵の類義語?何かしらの頭文字を取った言葉なんだろうけど。
「民間軍事会社ですか。物騒なものを雇ってますね」
「ロジスティクス担当や軍と共に前線で戦う連中もいるが…こいつらは特殊作戦用だな。おそらく、汚れ仕事の」
民間軍事会社…private military companyって事か。アダルの言い方じゃあんまり良くない人たちなのかもしれない。少しアダルの目が怖い。
「なんて言う名前の企業なんですか?って聞いて貰えない?ジェイソン」
「分かりました。Can you tell me the name of the PMC?(PMCの名前を教えていただけませんか?)」
「PMC Fight By Mistake」
変な名前。ゴテゴテの兵士たちもこちらに気づいたのか。何か喋っているようだがよく聞こえない。英語ではなさそう。そんなことを橋の前でゴタゴタやっていると、スポーツカーと乗用車がそれぞれ1台ずつ橋に向かってやってくる。
「ちょっと待たせちゃったかな?ホファンブルク改革結社の皆様ですよね?」
車から顔を出した男がそう声をかけてきた。なんかチャラい感じの男が出てきた。ウェーブのかかった茶髪で無精ひげ。ステレオタイプのイタリア人みたいな感じ。
「どーも、SNN四ヶ国協定委員会、イタリャーナ代表!サンスカリア宣教委員会のフィリッポ・デ・ホーエンシュタウフェン☆レオから話は聞いてるよ!」
「えっと…?」
「レッドモンド・ボルクス・スイミットです。レオポルド・ボルクス・スイミットの息子です」
「そちらの娘がアデルハイトちゃん?うん、将来有望だね!10年後くらいよろしく☆」
落ち着いて?よく分からない偉い人。兄者とアダルがとんでもない顔してるから。ジェイソンさんも早く押さえて?飛びかかるよ?この2人。
「お?いい魔力だ。君かわいいね?僕のメイドにならない?」
「アデルお嬢様。こいつをリギン川に沈めてもよろしいでしょうか?」
「お、落ち着いて!?あ、あのフィリッポさん!?ここ入れるんですよね?」
とりあえず、本題に戻す。兵士さんも目の前で何が起きてるのか分からず目を白黒させているようだ。
「そうだね。それは置いといてねえ、メイドさん。名前はなんて言うの?」
「貴方に教える名前はありません。ゴミクズ野郎」
「はっはー、きついねぇ。そうだ。こんどお茶でm…!?」
「申し訳ありません。皆さま。」
スポーツカーから降りてきたイタリアの女性兵士がフィリッポを殴って謝罪を口にする。偉い人なんだよね?乗用車から降りてきた数人のイタリア兵もフィリッポを見る目は冷たく、さっさと話を進めてあげた方がいいかもしれない。
「フィリッポさん…」
「あー…そろそろ行きましょうか」
フィリッポさんも反省したのか、大人しくなった。フィリッポさんは兵士たちにスポーツカーを運転するように言うと、自身は公爵家の馬車に乗り込んできた。
「変な人…みたいだね?」
「だが…話は進んだ」
ーーーーーーーーーー
リギンボグエン デクシ地区(スラム街)
砲撃現場跡地
瓦礫と死臭。場を支配しているのはこの2つの要素だった。PMCの兵士たちが町のあちこちに屯している。近くには貨客船コッコドリッロが座礁しており、その周囲ではホファンブルク人や元々この辺に住んでた人たちが黙々と謎の箱を運ぶ重労働に従事していた。
「あの人たちは?その…粗末な服装というか、兵士たちに監視されて労働してる…」
「義務労働従事員だな」
「義務…?」
「そうだ。ホファンブルクの憲法では、労働は義務とされている」
憲法って…中世にあっていいものなのだろうか?そもそも憲法ってよく聞くけどなんなんだろう。
「事実上の奴隷制度ですわ」
「奴隷…?でも、この国にはそんなものいないんじゃ…」
「その通りだ。アデル。32年前のディアーク国王陛下の奴隷解放宣言でこの国からは建前上は奴隷がいなくなった」
アダルは奴隷制度だといい、兄者は奴隷はいなくなったと言っている。そして、2人ともに共通して言っているのは奴隷のようなものは残っているって事。
「義務労働従事員は強制労働させられているって事ね」
「実際の奴隷よりかは遥かに待遇がいいですよ?」
フィリッポさんが制度を支持するかのようなそんな口ぶりで会話の間に入ってくる。兄者はそれを聞いて、ため息をつくと窓の外を眺めながらそれに返答する。
「超大国や先進諸国の人権意識の向上によって奴隷解放の潮流が来ていることは確かだが…それでも世界の8割の国家では未だに奴隷制が続いている。先進諸国の強制労働も含めれば完全に廃止できた国は存在しない。我が国も農奴制や義務労働従事員が無くならない限りこの問題は終わらないんだよ」
少し早口で明らかに兄者はフィリッポさんに怒っていた。フィリッポさんのコミカルさで忘れていたが、彼はこの国を牛耳る親玉のうちの1人なのだ。
「ここの様子は十二分に調査できました。フィリッポさん、ここまでで大丈夫です」
「どーも。またなんか困った事があったら直接呼んでもいいよ?SNN会館か、大使館にいるから」
フィリッポさんはにこやかに馬車から降りると一礼してスポーツカーの方へと歩いていく。
「ありがとうございました!!」
「君たちの夢想がいつか現実の日になる事を願ってるよ。じゃあね。アデルハイトちゃん」
私は馬車の窓から顔を出してフィリッポさんにお礼を言う。その声で振り返ったフィリッポさんの顔は少し困ったような顔をしていた。
ーーーーーーーーーー
リギンボグエン サヌーデル地区(下町)
リギン川岸道路
「よろしかったのですか?ホーエンシュタウフェンさん?」
「彼女たち、いい顔してたねぇ…」
「話聞けや」
私は思わず、代表をぶん殴ってしまう。仲間たちもさもありなんという顔の為、間違ったことじゃないなこれ。
「ちょ…痛い…やめて…暴力は良くない」
「あの貴族たちとて弾除けくらいにはなるでしょうに。黒シャツどももホファンブルクの大貴族ごと貴方を撃ち抜く事を避ける分別くらいあるでしょ」
イタリャーナの派閥政治は同じくらい荒れる秋津洲のそれを軽く凌駕する。「おはよう。今日の首相は誰?」は有名なジョークでこの国の政治を端的に表している。
「果たしてどうかな?僕はあの子たちを危険には晒したくないよ」
「……言ってる傍から来ましたよ」
「君たちには迷惑かけるね。神の御加護を」
代表がニタっと笑った瞬間、車がドリフトする。車体側面からバシィという音がする。私が飛び出すと乗用車の方からも仲間たちが降りてきて近くの車両を盾にして射撃体制を整える。我々の乗ってきたランボルギーニのウラカンとフィアットのドブロは防弾仕様に加工してある。いい盾にはなるだろう。
銃声がガンガンと頭をつついてくる。見た感じ黒シャツどもは近くの建物を占拠してそこから射撃しているようだ。私達もそこに向かって応射するが、黒シャツ隊の連中の練度もなかなかのようだ。仲間の1人であるフランチェスカがFucile d' Assalto 57というシュヴィーツ製アサルトライフルを持って身を乗り出す。
「無茶をするなよ!?」
「分かっていm」
瞬間、フランチェスカの頭が周囲に飛び散る。びしゃっと彼女の1部だったものが顔にこびりついた。
「対物ライフルだ!リシト商会と書かれた4階建ての屋上の右端!マッテオ殺れるか?」
「D`accordo(了解)」
マッテオの銃はG43 ZFとよばれと呼ばれるドイツのスナイパーライフルだ。この距離なら間違いなく撃ち抜ける。
ーーーーーーーーーー
「無風、距離313m、3ノッチ。スナイパーよ」
和服と言われる秋津洲の伝統衣装に身を包んだ少女は私にそう告げた。
私は引き金を引く。
「Amen」
私の着るキャソックが、聖印が、揺れる。
人を殺める私の心は全く動かないと言うのに。
ーーーーーーーーーー
マッテオの持つG43の乾いた発射音と共にマッテオの右腕が吹き飛ぶ。
「マッテオ!?」
「ぐっ…申し訳…あり…ません。外し…ました…」
血がだらだらとアスファルトに染み付いていく。私はG43を手に取ると敵スナイパーの方に向ける…が、既に移動したようだった。
「Vaffanculo!(クソくらえ!)」
「あのスナイパー…」
「何かご存知なんですか?」
「アレッサンドロ・デ・ストラミジョーリ。十字教の神父だ」
「神父が…対物ライフルですか」
「オーストリアのIWS2000。変人だから銃も変なものを使ってる」
私は代表と話しながら敵に応射し続ける。何人目かを殺し終えた所で黒シャツ隊は撤退を開始した。おそらく、イタリア人ではなく黒シャツ隊の外人部隊だろうが、無闇に命を奪う必要は無い。
「しのぎましたか…」
「……彼らの魂に救いと安寧を」
代表が散っていったフランチェスカや、ミルコ、ヤニックに祈りを捧げる。そして、黒シャツ隊が立て篭もっていた方へも目線を向けた。
「車はまだ動きそうですね」
「中心部に行けばさすがに襲撃してこないでしょう」
「マッテオ。すぐに医務室に向かう」
「ありが…とうございま…す。コルテー…ゼ隊長…」
私たちは3人の遺体をドブロに収納する。マッテオも運び入れようと代表に声をかけようとしたその時、マッテオの身体が突如として燃え上がった。
「マッテオ!!?」
瞬く間に炭化した彼の耳に私の声が聞こえたかは分からない。だが、そんなことを気にしている暇はなかった。私の身体が熱を帯びる。間違いない。異能力者だ。とりあえず、飛び退いて距離を確保する。熱がすっとひいていく。どうやら、敵の発火の能力は座標に作用しているのかもしれない。
「代表、川へ飛び込んでください!!異能力者です!」
代表は黙って頷くとリギン川へと向かって走っていく。私たちはもう3人しかいない。黒シャツ隊が引き上げたとはいえ、新手の数は分からない。
「ルカ!!お前も川に飛び込んで代表を護衛しろ!マルコとエマニュエラは私と共に迎撃するぞ」
「「D`accordo(了解)」」
ルカも川の方へ走っていく。とりあえず、異能力者の効果の範囲内に入らないように走り続ける。後方から剣や弓を装備した時代遅れの野盗どもが追いかけてきている。弓兵から優先して撃ち殺していく。
「先進国の連中じゃないな。貴族の雇った傭兵!?」
「分かりませんが…おそらくヴァース家の手のものではないかと…」
「ホファンブルクの五始家のひとつ…ね。何か情報があるの?」
エマニュエラが敵の正体の予想を伝える。ヴァース家はホファンブルク王国の5つある公爵家のうちの1つである。保守派して知られているヴァース家がこんな荒くれ共を雇っている理由が分からない。
「英国高官と数日前に接触したと情報が入っています」
「英国が…?ファシストどもと関わってんのか?」
マルコが疑問を口にするが、その通りだろう。黒シャツ隊の親玉である我らがドゥーチェと英国との繋がりが見えてこない。そうこうしている間に走ってきていた敵は少なくなっていた。銃を持っていない敵相手なら一方的なものだ。
「コルテーゼ隊長!!敵の異能力者!あの馬車の陰です!」
見たところ、ヨーロッパ人じゃない。ホファンブルク人だろうか?年は16歳くらいだのまだ幼さの残る少女だった。腰まで届く金髪のツインテール。キッとこちらを睨みつけている。彼女が指をこちらに向かって指さすと周囲の車が燃え上がった。どうやら私たちを直接狙うことを諦め、周りに狙いを付け始めたらしい。
「敵の数は減らした!反転して敵の能力者を仕留めるぞ!!」
「「D`accordo!!(了解!!)」」
私たちが敵の方に振り向いた時、何かが視界を横切った。痛み。右腕に鈍器で殴り付けられたような、痺れた痛みがはしる。目をあけるとそこに、私の右腕はなかった。
「うぐぅああああああ!!!!」
「コルテーゼ隊長!!?」
痛みを忘れる。目の前にはすらりと銀髪の美少女シスターが立っていた。ホファンブルク人の十字教徒?彼女の手にはモーニングスターが握られており、そこから血が滴り落ちていた。
「doleo.(ごめんなさい)」
彼女は国際連合貿易共通語で謝ってきた。訳が分からない。言葉は分かるのに彼女の言動の不一致を私の脳が理解を拒んでいる。
「Creamus 『The depraved world』(堕落した世界を創るのです)」
彼女が1歩踏み込む。次の瞬間にはエマニュエラの腹部にモーニングスターがめり込む。エマニュエラはよろけつつも咄嗟に拳銃を取り出すと、銀髪の少女に向けて撃ち込む。
「やったか!?」
弾は当たったかのように見えたが、銀髪の少女はエマニュエラにもう一度モーニングスターをぶつけて川に落とすと、マルコの方へそのまま距離を詰める。
「doleo.(ごめんなさい)」
鉄と鉄が擦れるような音。銃を捨てたマルコは軍用ナイフで銀髪の少女のモーニングスターを軽々とはじいた。
「おいおい、嬢ちゃん。君の見目麗しい顔を傷つけたくないんだ。謝って投降したら、許してやるよ。俺の仲間を殺したことも、傷つけた事も」
「……」
少女は一旦後ろに飛び下がると、マルコと相対する。モーニングスターはだらりと地面に垂れていたが1歩1歩進む事に引きずられていて分かり合えない事を示していた。
「俺はマルコ・ロッシ・シメオニ。イタリャーナ軍 上級伍長。君は?」
おそらくイタリャーナ語は通じないだろうが、少女は名乗ったことを理解したのか、彼女自身も名前を口にする。
「ベアデ・リューター」
「ベアデちゃんね。よろしく」
瞬く間にベアデは距離を詰める。上段からモーニングスターを振りかぶるベアデに対してマルコは冷静に僅かな力でモーニングスターを逸らす。その隙をマルコは見逃さなかった。
「さっきの弾丸かすってたんだな」
「くぅ…」
マルコは彼女の腰あたりに軍用ナイフを突き立てる。エマニュエラの拳銃はしっかりと当たっていたようだ。
またしても、距離を取るベアデ。彼女の腰からは血が滴り落ちて近くに転がっているモーニングスターについていた血と混じり合う。
ふっとモーニングスターを引き上げるとぶんぶん頭上で振り回す。
「さあ!!来い!」
「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
雄叫びと共にモーニングスターがマルコへとめり込み…はしなかった。マルコは楽々飛び上がってかわすと、モーニングスターの球部分を足場にして、そのまま、ベアデの肩へと軍用ナイフを突き刺した。ベアデはバランスを崩して背中から倒れる。マルコはモーニングスターの持ち手を蹴飛ばすことも忘れない。
「うぐ……」
「ベアデちゃん、降参しない?」
拳銃を突きつけてにこやかに勝利宣言をするマルコ。しかし、視界の端にはあの異能力者がマルコに向かって手を伸ばすのが見えた。
「マルコ!!!避けろ!!」
「あ…まずi」
マルコから炎があがる…が、起き上がったベアデがマルコを炎の範囲外に蹴り飛ばした。
「が…うがぁぁぁ」
「あら…何をしてくれてるのかしら。遠くからしか吠えることの出来ない外来種を駆除し損ねたじゃない?どーゆーつもりかしら?」
「申し訳ありません。ズザンネ様…」
「やっぱり……外来種が信じてる邪教を信じてるのがいけないのかもね」
ホファンブルク語だ。やはり、彼女たちはこの国の人間らしい。
「まあ、いいわ。能力の訓練がてら2人纏めて焼き殺してしまいましょう」
「………」
ヴァース家のご令嬢は嗜虐的な笑みを浮かべると、私たちに手を向ける。ベアデは紫の瞳を濡らしながら目を逸らしただけだった。何とか逃れようと後ずさるが頭を蹴り飛ばされる。
「惨めね?でも、私の猟犬たちを遠くからぺちぺち殺したもの。許されないわよねぇ?」
「やめなさい!ズザンネ!!」
「あら、パパ?どうしたの?」
出てきたのはヴァース家の現当主だった。壮年のいかにも苦労人というような顔で少しやせ細っていた。
「その2人は捕虜として確保するんだ。ズザンネ」
「なんで?こいつらはイタリャーナの代表じゃないよ?」
「逃げられただろう?この人たちを使っておびき寄せるんだ」
「私が絶対に見つけ出すの!要らないわ!」
「それは看過できませんな」
意外な人物が口を挟んだ。
ーーーーーーーーーー
リギンボグエン サヌーデル地区(下町)
リギン川岸道路
義務労働再調整センターの外部副所長であるフェルディナン・ヘスリングがそこに立っていた。
「フェルディナン…ヘスリング!?」
思わず声をあげた私にフェルディナンはにこやかに語りかける。
「すみませんねぇ。友邦イタリャーナの方に怪我をおわせてしまうとは。フランシーアを代表して謝罪致します」
「どうして…貴方が?」
彼…というか義務労働再調整センターはいい噂を聞かない。低賃金でホファンブルクの人々を使役して様々な物を生産しているらしい。
「ホーエンシュタウフェン氏のせい…とでも言ってさしあげましょうかー」
「貴方は…センターの外部所長の…」
「河奈義 紫陽花と申しますー。以後、お見知り置きをー」
センターの関係者がそろい踏みしている…?それでも、ヴァース家との関係性は見えてこない。ヴァース家はホファンブルク内でも排外主義的な傾向の貴族として知られている。最も過激で排外的な五始家はいるにはいるのだが、現当主の穏当な性格も相まって、多くの貴族がヴァース家の派閥に属している。
「ヘスリング閣下!!撤収準備完了致しました。ヴァースの無能どもが散らかしすぎたせいで時間がかかり…」
「ご苦労」
ホファンブルク側のセンターの責任者 ペーター・ヴィツォーク伯爵もいた。彼は明らかにヴァース家と対立している派閥の出身であるはずだ。
「不思議な取り合わせだろう?」
フェルディナン副所長が疑念に満ちた私の顔を覗き込んで言った。すごく愉快そうに。
「我々はあのお方の下で結びついているのさ。たった一つの目的が合致してるから。もし、あのお方がいなければ我々は殺しあっていただろうな」
「…あのお方?」
「ああ。そうだ。わたしがいつか殺す相手だ。もし、ホーエンシュタウフェンが協力してくれるなら教えてあげてもいいが…」
「あなたにもわかって欲しいのですが…」
対物ライフルを背負った神父がフェルディナン副所長にそう話しかけた。こいつが…まさか…!
「おや、アレッサンドロ神父は冗談がお上手ですな。あのお方のユーモアを受け継いでらっしゃる」
「本気ですよ?」
アレッサンドロ・デ・ストラミジョーリ。あのスナイパーが立っていた。怒りで拳が震えるが…立ち上がれないし、無謀だろう。
「イタリャーナの兵士君」
「フェデリカ・デ・コルテーゼです。フェルディナン副所長」
「コルテーゼ君。あの神父があのお方に近しい」
「それで…?何が言いたいのですか?」
「我々はあのお方の手の上で踊る道化にすぎない。それでも、私は踊るのをやめないとも。その方が楽しいのだから。君もせっかくだから踊るといい。そのうちに彼の顔が見えてくるだろう」
フランシーア人のわけの分からないポエムを聞きながら私とマルコは黒シャツ隊の兵士に拘束される。そして、トラックに乗せられどこかに運ばれるようだった。
ーーーーーーーーーー
リギンボグエン 某所 黒シャツ隊トラック
車内には未舗装の道路をタイヤが踏みしめる音と車内前方に座っているベアデとアレッサンドロの喋り声しか聞こえない。このトラックに乗っている黒シャツ隊の多くはイタリャーナ人ではなく植民地や同盟国から徴兵された兵士だろう。ホファンブルク語を理解しているようには見えない。
「ベアデ。イタリャーナの兵士を救ったそうですね」
「………申し訳ありません」
アレッサンドロが静かに首を横に振る。
「いい事ですよ。敵とは言えども、彼らにも生きる権利があるのです。それに、彼らは私の同胞ですから…」
「…はい」
「コルテーゼ先任准尉。申し訳ありません。暫く、我々と行動を共にしていただきます」
「デクシ地区再開発計画を阻止するまで…ということですか」
代表が自慢げな顔で語っていたことを思い出す。議会や教会の支援は取り付けたと、後はSNNで承認を取り付ければ実現できると言っていた。デクシ地区に住む住人たちを救う為、様々な問題を一気に解決できる案がデクシ地区再開発計画…らしい。
「デクシ地区再開発計画の阻止がフェルディナン副所長を含めたあなたたちの目的なのね」
「その通りです。あのお方はそれを過程だとみなしていますが…」
デクシ地区再開発計画なんて些細な話だ。黒シャツども…もとい、我らが偉大なる頭領や議会、教会…左派。イタリャーナの権力争いの数あるうちの1件に過ぎない。そこにわざわざ対外勢力がこんな辺境で口を出すのかが分からない。本土ならまだしも、ここで幾ら工作したところでイタリャーナに影響は行使できない。そうなると…ホファンブルクでの権益拡大…?にしては、フェルディナン副所長は大仰な反応をしていた。
「とんでもない事になりそうね」
ーーーーーーーーーー
リギンボグエン 王城
ホファンブルク改革結社 作戦会議室
私たちは王城にあるというホファンブルク改革結社の作戦会議室に向かうことにした。兄者が言うにはホファンブルク改革結社というのは兄者とフランツ殿下の2人が王様に掛け合って立ち上げた組織らしい。
「王城かぁ…」
「そうか。アデルは初めてだったな」
中世的な街を超えるとそこには想像していたお城とは違う代物があった。きらびやかなシンデレラ城のようなお城ではなく質実剛健というような石造りのお城だった。馬車は門をくぐると、見事で広大な庭園を城とは逆方向に向かっていく。
「お城に行くんじゃないの?」
「作戦会議室は庭園の端のサロンにあるんだ」
そうこうしている間に到着したようだ。サロンはこじんまりとしていて綺麗なお花たちに囲まれていた。こちらも石造りで御伽噺に出てくるような小屋。
「やぁ。収穫はあったかい?」
「それなりに…な」
フランツ殿下が扉を開けて出迎えてくれる。彼は私を見ると微笑みかけてくれる。さすが、攻略対象。改めて見ても顔がいい。馬車を降りる私の手を握ってくれる。兄者…睨まない…
「お兄様!と、とりあえず報告しましょう」
「…まあ、そうだな。ジェイソン、アダルウォルファ。馬車で待っていてくれ」
「「かしこまりました」」
「中にパンケーキとお茶がある。だいぶ早いけど軽い昼食にしないかい?」
「是非!」
私は勢いよく返事をして、部屋に入る。パンケーキの甘い匂いが広がる。しかし、部屋の雰囲気はその甘い匂いにそぐわない程、雑然としていた。内装や調度品こそ、王城の庭園にある小屋に相応しいものだったが、幾つか変なものが置いてあった。まず、目に付いたのは部屋の真ん中に置いてある地球儀のようなもの。SFっぽく青く透き通っている。しかし、半分はほぼ黒く塗りつぶされている。その周囲には資料のようなものが散らばっている。部屋の奥にはこの国とその周辺諸国の地図がある。日本の形もそうだけど…ホファンブルクの形にも自信はなかった。そして、壁の近くにはブラウン管のテレビが置かれていた。この世界にテレビって存在したんだ…でも、家にはなかったから高級品なのかもしれない。
「テレビ…?」
「そう!テレビジョン!よく知ってるね」
「……ラジオは上流階級でだいぶ普及してきたが、まだテレビはなかなかだな」
「この地球儀みたいなのは?」
「それは、ホロトラス・グローブル。略してロローブルって言う。こうやって任意の地点をタップすると…」
兄者がロローブルの一部分に触れるとブォンという音と共にロローブルの上の何も無い空間にウィンドウのようなものが表示され、そこに見たことない地図が映し出されていた。ウィンドウの下部にはガザラ領界 クロマ大陸と表記されている。兄者が更にタップすると、ウィンドウが増えて映像が流れ始める。中世の村のようなところで大量の兵士たちが大砲の周りに群がっている。大砲は時折、火を吹いては、村から見える城壁都市に次々と弾を撃ち込んでいた。
「この大陸も元々は我々と同じような文明レベルだった」
「……どうしてこんなに技術格差があるの?日本やアメリカ、イタリアなどの超大国とホファンブルクやクロマ大陸の国みたいな中世レベルの国と…あまりにも文明に差が…」
私の言葉に2人は少し奇妙な反応をした。兄者の方は少し俯いて机の上の資料の方に目を向けた。そして、フランツ殿下は上を見上げた後…私に向き直って微笑む。
「蛮族の大侵攻って知ってる?」
フランツ殿下の問いに私は記憶を探ってみる。前世の事を思い出す前の頃に聞いたことあるような…
「確か…3000年前に世界各地で蛮族が侵攻して来たんだよね」
「そう。その際に誰が、何の意図を持ってやったのかは分からないけど、世界は巨大嵐を生み出す魔法によって隔絶された。領界の境に壁のような嵐が出現したことで、各領界の交流は途絶え、蛮族が跋扈する暗黒時代が始まったんだ」
巨大嵐…このロローブルの半球が黒いのはそれが原因なのだろう。
「領界ってのはいくつかの大陸を一纏めにした領域のことだよね」
「そうだね。その暗黒時代を一足先に抜け出したのが中央領界。今の超大国の殆どはここにある」
スタートはほぼ同じだったはず。蛮族によって平等に痛めつけられた人類は苦しい時代を生き抜いた。そこから、何かが差をつけたのだろう。何かは私には分からないけど。
「…アメリゴ合衆国に現れた異世界転移者…アメリゴ・ヴェスプッチ。彼の異能力によって嵐は消え去り、中央領界の各国は新天地へと舵をとり、開放時代が始まった」
兄者が説明の後を継ぐ。異世界転移者…この世界ところどころでファンタジー要素出してくるじゃん。
「僕らは足踏みしてて、彼らは歩き続けてたって訳」
「その結果として歪なこの世界は出来上がった。超大国に富が集中し、その他の国はそれを生み出す為に虐げられる」
「…これもどうにかできないかな」
「そうだねー。だからこそまずは、報告お願い」
フランツ殿下が報告を促す。確かに、話がだいぶ脱線してしまった。
「あ、ごめんなさい。だいぶ話が逸れてしまって…」
「いやいや、むしろせっかく揃えたから触れてくれて嬉しいよ」
フランツ殿下はそう優しく言葉を返してくれる。いい人だなぁ。フランツ殿下。
「見に行ってみて気になったのは3つ。1つ目は、英国系のPMCが居た事。2つ目は、センターが関わっている事。3つ目は…おそらく、SNN4ヶ国協定委員会も一枚岩ではない事」
兄者が要点を纏める。すごく頼りになりそう。
「英国系のPMCねぇ。何て名前だい?」
「Fight By Mistakeだ。大手じゃないな」
フランツ殿下は机に目を落として資料を漁る。そして、一枚の資料を手に取った。資料を覗き込むと【ホファンブルク国内で活動している民間軍事請負業者一覧リスト】と書かれていた。企業名は…英語とホファンブルク語が併記されている。
「これですね。Fight By Mistake。戦いは過ちだった…ですか」
兄者も資料を覗き込んで指でなぞる。
「英国系のPMCなのはいいとして…ホファンブルクに来てるのは陸上部隊が1000人…戦闘機が30機に、爆撃機が5機だと?空軍まで持っているのか」
「見てください。設立者が大英帝国のSAS出身。さらに、大英帝国高官が関わってますね。彼らの肝いりですよ」
兄者とフランツ殿下はそれぞれFight By Mistakeについての話をしている。私はその間にリストをもうちょい見ておくことにした。EXILE OUTSIDER…桑葉連合警備保障…Black Well The DOORS。めっちゃリスト長い…来すぎじゃない?
「でも、そのFight By Mistake…FBMが居るとなんかまずいの?」
私は気になったことを聞いてみる。確かに、国内によく分からない武装勢力が居たら確かに嫌だけど…こんなにPMCがいるのに今更な感じはする。
「まあ、まずくはないが…俺が気になったのは外側に正規軍が展開して、内部をPMCが警護していた事だ。内部で義務労働再調整センターが強制労働をさせている様子を正規軍に見せない為にも思えるが…何か他の理由があるように思える」
「なんか荷物を運んでたヤツ?」
「そうだ。2つ目に関係していることだが義務労働再調整センターはSNN4ヶ国協定委員会が実質運営している強制労働施設だ。主に武器製造が行われている」
「武器なら隠したりする必要ないよねぇ」
武器じゃないなら…
「ホワイト・ディペロップ?」
「そうだな」
兄者は私の言葉をあっさりと肯定する。
「超大国が違法薬物をばらまいているって事!?」
「一部の連中だがな。3つ目にあげたとおり、4ヶ国協定委員会内でも派閥争いがある。ばらまいている連中もいれば…それを暴きたい連中もいる」
「ちょっと待って…?あの荷物が貨客船コッコドリッロに載ってたって事でしょ?で、センターはデクシ地区にある…」
「……そうだな」
「あの中国のシュウって人が起こしたテロ行為って超大国は事前に気づけないの?」
「ホファンブルクの暗部…諜報員は察知できなかった。でも、超大国なら事前に知ることは出来ると思う。今までも何度か暗部経由で事前に警告することがあったから」
フランツ殿下は目線を右上にずらしてそう答えてくれる。つまり、シュウは超大国の諜報部に利用されて、あの事件を引き起こしたのだろう。そして、砲艦たちはそれを名目にあの惨状を引き起こした。
「あの砲撃はホワイト・ディペロップの闇を暴く為に行われたって事なんだね」
「…アデルは賢いな」
事実上の肯定だろう。兄者も同じ考えにたどり着いたんだと思う。つまり、事件の真相を暴くという事は、デクシ地区を灰にした何者かの思い通りになるという事になる。
「そんなことをしなくても…どうして…町を燃やしてまで…」
「燃やしてまで…じゃないね。燃やしても困らないからやったんだと思うよ」
「え?」
フランツ殿下は決まり悪そうに目を逸らし続ける。それを横目に兄者が言葉を続ける。
「超大国は僕らの事を人とはみなしていない。ホモ=サピエンス…賢い人。彼らは自分たちの為なら何をも犠牲にするだろう」
サピエンス…って人間の学名だっけ?彼らってことは私たちは違うの!?
「砲撃を指示した人は予想が着いているんですよね?」
「あぁ。おそらく…SNN4ヶ国協定委員会 イタリャーナ代表のフィリッポ・デ・ホーエンシュタウフェン…だろう」
「フィリッポさん!?」
私がそう言うと共に天井から何か降ってきた。え、何、めっちゃ美人な女の人!?ていうか、ちょっと体のラインがよく見える黒いタイツのようなものを着ている。ちょっと教育に良くないよ!?見れば2人とも全く驚いていない。誰なの!?
「殿下。城下の暗部から緊急の連絡です。SNNのイタリャーナ代表が何者かに襲撃されたそうです。現場からは3人のイタリャーナ兵の遺体が見つかっており、代表は行方不明です」
「なるほどねぇ。襲撃したものの検討はついてる?」
「不確かな情報ですので…」
「いいから。教えて?」
「おそらくですが…ヴァース家と黒シャツ隊が手を組んでいるようです」
「ヴァース家と黒シャツ隊が…?なんでよりにもよって彼らが…?分かった。マルハレータ。SNNの方の対応も探ってきて」
「はっ。」
天井から降ってきたマルハレータさんはサッと敬礼すると窓を開けると飛び出して行った。なんでドアから出ないんだろう。てか、ヴァース家…?確か同じ公爵家だよね?黒シャツ隊ってのはよく分からないけど変な名前だなぁ。
「ヴァース家ってうちと同じ公爵家だよね?」
「そうだ。ホファンブルク五始家の1つ。超大国の内政干渉に抵抗している保守派だな。大きな貴族の派閥も形成してる。現当主のコンラート・ボルクス・ヴァースは穏当な方なんだが…」
「じゃあ黒シャツ隊ってのは?」
「イタリアの準軍事組織だ。シビリアンコントロールから外れていてイタリアの頭領の命令を聞く」
「シビリアンコントロール…?頭領?」
また訳の分からない用語が出てきた。兄者も私にわかりやすい言葉で喋ってよ…
「文民統制…つまり、軍隊ってのは軍に属していない人の命令を受ける方がいいって事だ。軍隊の暴走を止める為に必要な事なんだが…」
「さっき黒シャツ隊はそれから外れてるって言わなかった…?」
もしかしてなくても…やばい組織?
「まず…イタリャーナの政治を解説してあげないと…」
フランツ殿下がそう言うけど私、社会の授業は嫌いなんだよね。自慢じゃないけど、私、社会系統以外ならテストの点よかったから。
「…そうだな。まず、イタリア…イタリャーナは幾つかの民主主義国家と同様に間接民主制で議員内閣制、三権分立の国だ。まあ、これは今は分からなくていい」
兄者が気を使ってるのか、あんまり用語の解説はしないようだ。確かに、これ以上よく分からない単語を連発されたら頭をもう一度地面に打ち付けるところだ。
「イタリャーナには二院制の議会が存在して彼らの代表が閣僚評議会議長…つまり、事実上の首相だな。今の首相はピエロ・バドーリョ。イタリャーナの国粋同胞 に所属している」
「そのイタリャーナの国粋同胞ってのは政党?」
「そうだ。イタリャーナの議会は今は右寄りの傾向が強い。だからこそ、頭領の思惑が通りやすいんだが…」
「ドゥーチェってのは?」
「大統領みたいなものだ。首相任命権や議会解散権を持ち、最高司法評議会というのを主宰したりする」
ともかくドゥーチェってのは偉いらしい。しかも、ヤバそうな集団を率いているみたい。
「この人だよ」
フランツ殿下がロローデルをタップして上にウィンドウが表示される。そこには目の下にくまができているやつれ気味のスーツ姿のおじ様とその隣に黒い軍服?のようなものを着た少女がいる。2人はちょっと小高い丘のようなところから少女と同じような軍服を着用した兵士たちを見下ろしていた。ドゥーチェの隣の子は娘さんなのかな?ハーフアップが可愛らしい。
「へー…このおじ様がドゥーチェ?思ったより苦労してそうな顔だね」
兄者とフランツ殿下が顔を見合わせる。
「ふふっ。違うよ」
「え?」
「そのおじ様はイタリャーナ閣僚評議会議長…ピエロ・バドーリョだ」
「え、じゃあ、この女の子なの!?」
た、確かに…映像ではやけに誇らしげに黒い軍服集団を眺めている。この黒いやつらが黒シャツ隊なのだろうか?
「ベアトリーチェ・ムゼッティ。彼女こそがイタリャーナを統べる独裁者さ」
「レッドモンド様!!アデルお嬢様!!大変です!!」
ジェイソンさんが扉をばぁんと開け放った。
フランツ殿下の前でも仮面外さないんだ…不敬罪とかにならないのかな。
「なんか大企業の社長と異能力者協会の人が!!」
「「は?」」
ーーーーーーーーーー
扉の外には朝方、飛び立っていたはずのぶい…とる機?が居た。でも、型番が違うみたいだし違う機体かな。相変わらず側面にはEOと書かれてるけど。兵士がぞろぞろと降りてくる。黒人の方だ…
「やっぱり、EXILE OUTSIDER…か」
「私はEXILE OUTSIDERのHR3号案件担当者のベン・ダヴェンポートと申します。スイミット公爵をクライアントとして行動しています」
ベンさんは高身長の黒人の方だった。完全武装でFBMの兵士と似たような感じでゴテゴテしている。
「どういうことだ。父上が君たちをここに送ったのか?」
「そうです。レッドモンド様。父上は我々にあなた方をデクシ地区に送り届け、そこでの護衛を我々に依頼しました」
「まだるっこしいね、君たち」
「まあまあ、落ち着いてください。彼女たちに会えたのはレオポルド様のお陰なのですから」
スーツ姿のくせっ毛金髪の青年をふわふわの青髪ロングヘアーの女性が宥めている。
「どーも。はじめまして。EMCのロディ・カニンガム。以後、よろしく」
「私は、異能力者協会のヌケヌイ・ケテテと申します。本日は異能力測定をさせていただけるということで…」
「待て、EMC?EDEN MEGA COOP?」
「そうですよ」
兄者がつっかかる。何それ?てか、それよりも私はヌケヌイさんの方が気になる。ファンタジー世界にあるまじき金髪のオンパレードだった世界に初めて異世界っぽい髪色の人が現れたのだ!しかも!かわいい!!
「EMCはセンターの運営に携わっているだろう」
「そうですよ。でも、あなたたちの敵じゃない。僕は商人ですから」
「レッドモンド様。申し訳ありません。レオポルド様との契約では後、3分後には出発しなければいけないのです。こちら、レオポルド様の直筆のサインです。国王陛下の許可も取ってあるのでフランツ殿下もご一緒にお願いいたします」
「分かった。話は後にする。ロディとやら。なんでここにいるか機内で教えろ」
アダルがどうやらお母様に連絡しているようだし…乗るべきなのかな。お父様ってよく考えたらいつもこんなことしてくるよね。朝話す時間あったんだからコミュニケーション取ってよ。
「お待ちください」
そう言ったのはEMCのロディさんだった。勝手に小屋に入っていく。
「え?」
「おい、待て。何をする気だ」
彼はテレビをつけた。
「WN.BREAKING NEWS.」
テレビからちょうど緊急速報が流れ出した。
ーーーーーーーーーー
中央領界 アフリカ大陸
フート・カア・プタハ=アラビーヤ尊重国
アレクサンドリア ラス・アル・ティン宮殿
「親愛なる大英帝国臣民の皆さんに呼びかけます。先程、リビヤ人民ジャマーヒリーヤ国にて共産主義勢力を主軸とする反政府勢力が武装蜂起しました。彼らはCCCP・ルーシ革命継続国などの超大国の支援を受けていると思われます。既にリビヤ東部は制圧され、リビヤ政府軍と大規模な衝突が繰り広げられています。リビヤはイタリャーナの勢力圏であり、我々はリビヤに対しての防衛上の責任を持っていません。しかし、リビヤ反政府勢力は我々の友邦にも牙を向きました。それが、ここ。フート・カア・プタハ=アラビーヤ尊重国です。危機が迫っているのです。皆さん。彼らはスエズを奪取し、我々の生活を脅かそうとしています。スエズの死は我々の死を意味するのです。今、動かなければ我々は死ぬのです!友邦と我々の為に戦わなければならない時が来たのです。幸いにもルーシはほんの少しの義勇軍を送ったのみです。更に、ルーシの陰に隠れて反政府勢力を使嗾する一部の超大国など恐るるに足りません。我々は自由を守る為に!一時的に共通の敵を排除する為に!イタリャーナ十字架連合政権とリビヤ人民ジャマーヒリーヤ国と手を組み、それらの思惑を打破する。アフリカ北部、フート・カア・プタハ=アラビーヤ尊重国の命運は我々、グレートブリテン島及び英連邦構成地域連合帝国が勝利する事で保証される。中央領界に共産主義という腐った思想は必要ない。3年前、最後の共産主義者が中央領界から追い出して以来、我々は民主主義を守ってきた。それらを忘れた者たちによって今一度、悪夢が呼び起こされようとしている。我々は戦い続けるのだ。世界の団結を取り戻すまで」
拍手の中、ロロ・ゲーデルは頭を下げた。戦争が始まったのだ。この世界は常に戦争をしている。平和だった時なんてない。しかし、大英帝国にとって本国の少し近くで、本格参戦する戦争は久しぶりだった。結局は権益の為に戦うという事実は変わらないのだが。だが、多くの大英帝国臣民とは違い、ロロ・ゲーデルにとってはいつもの戦争とは違う事が始まったのだ。恒久的な平和はすぐそこにある。
読んでくださり、ありがとうございます!感想、募集してます!次は三日後に投稿します!では、おまけです!
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アデルハイト「第四回!用語解説のコーナー!」
レオポルド「ああ。アデル。今日もかわいいな。一緒の空間にいれて幸せだぞ」
アデルハイト「もしかして、今までリーゼちゃんやタナカ三佐に無茶苦茶やってたばちが当たったのかな」
レオポルド「アデルかわいいいいいいい」
アデルハイト「意思疎通できるのかな…今日の用語は『PMC』です。private military company。直訳すると民間軍事会社だね。」
レオポルド「アデルは賢くてかわいいな!!!ちなみに民間軍事請負業者とも言うぞ!」
アデルハイト「…しんどくなってきた。PMCは戦闘、要人警護、警備任務、兵站などのサービスを国家や軍事組織相手に提供しているよ!」
レオポルド「ホファンブルクではEXILE OUTSIDER、桑葉連合警備保障、Black Well The DOORSなどのPMCが活動しているぞ!」
アデルハイト「お父様も雇ってるんでしょ?」
レオポルド「そうだぞー。家族を守るために奮発したんだぞ!」
アデルハイト「それならいいけど…」
レオポルド「ほんとだぞー!!かわいいアデルの為なんだ!!!」
アデルハイト「…うん。じゃ、タイトルコールを!」
アデルハイト・レオポルド「『赤色に染まった私 ~悪役令嬢に転生した私は反プロレタリアート的なので断罪されるそうです~』!!今後ともよろしくお願いいたします!」
次回!第一章 第二話 『悪役令嬢と妹好きな兄者の復興途上』(破)
VTOL機に乗ったアデル一行。上空から黒シャツ隊がデクシ地区に降下していくのを見つける。始まったスラム街の戦争でアデルは黒シャツ隊にどう立ち向かうのか。異国の戦争を見せつけてきたEMCのロディと異能力者協会のケテテはどう関わるのか!