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第一章 第一話 『悪役令嬢と国民の指導者の改革開始』(急)

大分、遅れてしまいました。申し訳ありません。良い読書を!

『信念や価値観を犠牲にして成功してもそれは本当の勝利とはいえません』〘"称えられる改革者、若しくは、抑圧者"アウン・サン・スーチー〙


第一章 第一話 『悪役令嬢と国民の指導者の改革開始』(急)


リギンボグエン サヌーデル地区(下町)

リギン川北部通用橋 騎士団側詰所 付近


オレは地面に転がっている黒づくめの男の覆面を剥がす。彼は既に息絶えており、何も文句を言うことは無い。


「ロシア人だ」

「ラッスィーイスカヤでしょう?」

「…そうだな」


オレの友人である王子は一々訂正してくる。癪に障るがそれどころでは無い。既に妹が最後にここで目撃されてから5時間が経過していた。


「しかし、舐められたものですね。超大国だからって工作員の死体をそのまま放置ですか…」

「ロシア系の国は3つもあるだろ。バレないと思っているんだ」

「ソヴィエスは違うにしても…ラッスィーイスカヤ連党国か、CCCP・ルーシ革命継続国ですか…」

「…正体は後でいい。大事なのは居場所だ」

「そう言うと思って王国暗部に探らせたよ」

「手が早いな。どこだ」


素直に王国暗部の優秀さと暗部とパイプを持つフランツに感心した。クラウドマッシュの金髪をふぁさっとかきあげ、やけにふんぞり返ってるのは気に食わないが、てか、王国暗部が凄いだけでは?


「貨客船 コッコドリッロ」

「今、サヌーデル共同港に停泊してるやつか。あれはイタリアの船だろう?」

「正しくは、ライブリア共和国船籍で船のオーナーは秋日藩帝国人だがね」

「そんなことはどうでもいい。そこにいるならさっさと行くぞ」


するとフランツの野郎はニヤッとした。


「まだそこには居ないよ」


オレはこいつをぶん殴ることにした。



ーーーーーーーーーー


リギンボグエン 某所

ヴェリアの孤児院 過激派左派連合臨時キャンプ



目が覚めた。ここはどこだろうか?


4.5畳程の小さな部屋。西日が差し込むこの部屋には、私が鉄の手枷で繋がれているベット。小さな古びた机。その上に置かれた整理整頓された紙の束などが置かれており、部屋の本来の持ち主の性格を感じさせる。いつの間にか、着替えさせられており粗末なワンピースを着ていた。


外から子供の笑い声が聞こえる。窓から外の様子は見えないが、西日が差し込んでいるので、だいぶ時間が経っているのかもしれない。そんなことを考えると、扉がキィィという音を立てて開かれる。入ってきたのは同い年くらいの活発そうな女の子だった。手にトレイにのせた料理を持っている。髪型は栗色のショートで、表情から優しそうな雰囲気が滲み出ている。笑顔が眩しい。


「あ…目が覚めたんだ!」

「…えっと…ここは?」

「ヴェリアの孤児院だよ!」


孤児院…さっきのテロリスト達との関連性が全く分からない。もしかして、たまたま救助されたとか…?そんなわけないか、手錠あるし…


「お腹すいてるでしょ?食べさせてあげるね」

「…うん」

「ママの手料理は美味しいんだよ!」

「…えっと、その前に名前教えてもらってもいい?」


とりあえず、ここから逃げるには情報が必要だろう。彼女と仲良くなって色々聞き出したい。


「あ、ごめんごめん!私はイザベラ!よろしくね!」

「私は…アデルハイト!よろしく!」

「あ、そうだ!アデルちゃんはお姫様なんでしょ!?」

「あー、公爵令嬢だから違うよ?」

「こーしゃくれーじょー?」


イザベラちゃんはよくわかっていないようだった。料理は芋しか具が入っていないスープだった。イザベラちゃんが木のスプーンでアーンして食べさせてくれる。美味しい。


「美味しい!」

「でしょー?」


そう話していると、扉がバァンと突然開かれ、30代くらいの長い黒髪がきれいな女性が入ってきた。腰まで伸びた髪はすこしバサバサしていた。


「アデルハイトだな?来い」

「ママ!…どうしたの?」

「イザベラ。ここで待っているんだ」


女性は優しくイザベラに声をかけた。そして、私の方を見ると頭にぽんと手を置き、手枷を外してくれる。


「ごめんな。少々手荒だったな」

「あなたは…?」

「私はヴェリア。ここの孤児院の院長だ。そして、【リギンボグエン革命戦線】のリーダーだ」

「なるほど…?」


な に そ れ ?

しかし、変な組織のリーダーをやってるけど手枷外してくれたし、いい人…なのかな?


「…着いてきてくれ」

「はい」


私はヴェリアさんの後ろをついていく。石造りのこの建物は全体的に古ぼけていて、全体的に崩れかけているようにも見える。そうこうしているうちに外に出る。光が眩しい。外には銃や剣を持ったテロリスト達が集まっていた。そのまわりでは子供たちが走り回っている。真ん中らへんにエルドウィンが既に銃を突きつけられた状態で顔を真っ青にして立っていた。


「おい、銃をおろせ」

「おいおい、こいつは貴族の坊ちゃんだぜ?殺さないだけ感謝してほしいんだが?」

「………」


ヴェリアとテロリスト達の関係性は微妙そうだった。あんまり尊敬されてないというか、舐められているというか。


「やめるアル」

「……いいだろ、シュウさん。俺たちは革命戦線の臆病者に従ってるわけじゃない。あんたがいるから協力してるんだ。」

「だったら仲間割れはやめるアル。ここからは我々の大事な作戦アル」

「……」


なんか怪しげな口調の中国人みたいな人がいる。彼は不思議な模様の仮面をつけており、表情は分からないが、どうやら、焦っているのか、しきりに時計を気にしていた。


「秋津洲人とブリテン人の兵士は言った通りちゃんと丁寧に扱ってるアル?」

「もちろんだ。」


どうやら、タナカ三佐とマイケルは無事らしい。後は…リーゼちゃんが…


「シュウさん…超大国のやつらすら傷つけちゃいけないってどういう事だ。俺らはあいつらに苦しめられてる。……後、あんまり言いたくは無いが片方は女だ。気にしている奴もいる」

「何もしちゃ駄目アル。貴族なんかより超大国の兵士の方が価値が大きいアル」


テロリストとシュウの会話は続いている。…エルドウィンと私は貴族だ。そして、シュウ曰く、価値があるらしいタナカ三佐とマイケルも無事。でも、ただの一市民のリーゼは?色々、最悪な考えが頭を巡る。


「リーゼは!?」


私が大声で叫ぶと、シュウはヴェリアの方を見る。ヴェリアさんは少し気まずそうに目を逸らしつつ、教えてくれた。


「申し訳ない。実は彼女の母親は私なんだ。私があの子に頼んで、君たちを連れ出してもらうように仕向けたんだ」

「え?」


エルドウィンが顔を上げて目を見開いている。エルドウィンの方が長い付き合いだ。そこを考えたら受けた衝撃が大きかったのだろう。


「…あんまり、あの子を責めないでくれ。私が無理に頼み込んだんだ」

「どこで私たちを狙おうと思ったんですか?」

「不用心にデモの真ん中を突っ切った貴族令嬢と騎士団の令息が居ると報告があったアル。恨むんなら自分を恨むアル」


…エルドウィンを巻き込んでしまった。私のせいで…ここはゲームとは違うんだ。1度、ミスったら後戻りはできない。


「ごめん…エルドウィン」

「なんで…お嬢が謝るの?」

「…ごめん」


周囲がにわかに騒がしくなる。見覚えのあるオートジャイロが着陸する。黒づくめの兵士がシュウに話しかける。彼のホファンブルク語も訛りが強く、おそらく、外国人なのかもしれない。


「シュウ。そっちはどうだぁ?」

「上出来アル」

「ふぅん、それなら構わないがぁ」

「……」


シュウは黒づくめとの会話を切り上げると、周囲に号令を出す。


「さあ、諸君。出発しようじゃあないか…アル」


ーーーーーーーーーー


サンスカリア領界 ボーワトピア大陸

オランクトヴァール連邦自由国 首都 フレイ=フォンテン ファルトリア15番街 日本神聖神州皇国秋津洲連邦 大使館


私はウキウキで歩いていた。見覚えのある中年男性を見かけるまでは。


「うえぇ…なんで近衛閣下…こんなところに?」

「今、僕の顔を見て露骨に顔を顰めましたね?」

「いえいえ、そんなことはありませんよぉ?」

「たまたま近くに寄ったからね…それに事件も起きてるだろう?まあ、君に対応は任せるよ」


こいつは無能だ。すぐに人に責任を押し付け、生き延びてきた。なんでこんな人間が我らが母国の代表を務めれるのか謎でしかない。


「ホファンブルクのですね?まだ犯人からの要求がないので様子見ですが。あんまり派手に動いても内政干渉ってどっかから言われますからね」

「なるほどー、できる限り早く解決してね。本国の選挙も近いから」

「心得ております。近衛閣下」


首相はメガネをくいくいっとすると、そのまま歩き去っていく。手でシッシッと追い払うジェスチャーをしていたら、近衛首相は振り向いてきやがった。


「藤堂君…君、もうちょっと考えてから行動しようよ…」

「私は何もしておりません。近衛バッカ」

「……僕がここにいるってことは内緒ね」

「わかりました」


今度こそ首相は去っていく。私も前を向いて本来の目的地の扉をあける。そこには百戦錬磨のひとつの世界を牛耳るプレイヤーたちが既に着席して待っていた。


「皆様、おまたせしました。新しく着任された方もいらっしゃるので自己紹介させていただきますね。私は藤堂 明音 と申します。日本神聖神州皇国秋津洲連邦 サンスカリア領界方面軍の司令官です。本日はSNN4ヶ国協定委員会+1の会合にお越しいただきありがとうございます。」


参加者の品定めするかのような視線が刺さる。1番、見てきているのは+1として参加している快活なヤンキー青年といった感じのアメリゴ合衆国の代表だった。


「皆さん。はじめまして。私は、エイドリアン・D・キャンバー。アメリゴ合衆国 サンスカリア専任外交員という職に就いています。以後、お見知り置きを」


彼が自己紹介する様子を冷ややかな様子で見ているのはやや年嵩の男性のラ・フランセーズ共和国の代表だ。


「…どうも、ラ・フランセーズ共和国 西ヘルーザ駐留軍 総司令官のトマ・シャールだ」


彼の隣に座るグレートブリテン島及び英連邦構成地域連合帝国の代表はその様子をにこやかに微笑みながら見ている。その後、紅茶で口を潤してから口を開いた。


「大英帝国のアン・ホームズです。」


見目麗しい彼女を見てステレオタイプのイタリャーナ人が口笛を吹く。


「いいねぇ、今度の日英の代表は。やっぱ老舗の超大国はいい人材が揃ってる。ども、イタリャーナ代表、サンスカリア宣教委員会 委員長のフィリッポ・デ・ホーエンシュタウフェン。よろしく☆」


露骨にシャール氏が顔を顰めている。アンさんはにこにこして平静を保っているが、フィリッポのやつをどう思っているのだろう。私も平静を保てているだろうか?


「ここに集まったのは、お互いの顔を品評する為ではないのでしょう?トードー代表?」


アンさんの発言を皮切りに空気が変わる。それぞれの国の利権と威信を守るために、新植民地主義の犠牲者であるホファンブルクを蚊帳の外に置いて会議が始まる。


「はい、その通りです。我々、SNN4ヶ国協定委員会及びアメリゴ合衆国が利権を有するホファンブルク王国で貴族令嬢と騎士団長の息子がホファンブルク反政府勢力によって拉致されました。その際に、我が国の兵士と英国兵が反政府勢力と交戦し、それぞれ1名ずつが捕虜になりました」

「なんで都合よく日英軍がいる」


シャール氏から至極真っ当な指摘が入る。そんなこと言われてもとしか言いようがないが…シャール氏の機嫌を損ねたくはない。この会議でまっさきに警戒するべきは英国代表のアンさんと米国代表のエイドリアンだ。


「はい、確認できている情報によると、件の令嬢と騎士の子息はたまたま騎士団詰所を訪れていたそうです。日英両軍の兵士がその後、詰所に向かった際に武装勢力に襲撃されました」

「……そうか、とりあえず、相手の要求次第だろう。今、我々にできることは無い」


シャール氏はあまり納得はしてなかったようだ。しかし、本国の方針なのか、シャール氏個人の考えなのかは分からないが慎重論を提示する。好都合だ。おそらく、強硬論を主張するエイドリアンを抑えてくれるだろう。


「本当にそうだろうか?」


思った通りだ。エイドリアンはシャール氏の言葉に反発した。流れを掌握できる。きっと。


「我々には空爆の準備が出来ている。ホファンブルク王国の許可さえ貰えれば30分で行ける」

「正気では無いな。人質の命が最優先だ」

「生きてるかどうかも分からないのに待つ必要はないのでは?犯行声明も未だないんですよ」

「後進国だ。まだ6時間しか経っていない」


シャール氏とエイドリアンは互いに譲ろうとしない。素晴らしい。そろそろ、止めに入ろう。議長の役割は果たさないといけない。


「落ち着いてください」

「失礼しました。マドモアゼル」


シャール氏は謝ったが、エイドリアンは無視した。私を無視するとはいい度胸だ。


「まあ、シャールさんの言う通りすよ」

「まあ、まだ何も分かりませんからね」


フィリッポとアンさんも慎重論か。まあ、悪くは無い。とりあえず、この場では何も決めたくはない。我々の利権を守り、更に得るためには。


「では、情報を精査しつつ、状況を注視していくということでいいですね」

「我々は…我々の対応をしますよ。それがあなたがたの反感を買おうとね」


驚いた。エイドリアンは席を立ってそう宣言した。空爆されるのは困るんだけどな。


「いい協力関係が水の泡ですね?」


アンさんが皮肉たっぷりに去っていくエイドリアンの背中に投げつける。


どうやら、忙しくなりそうだ。


ーーーーーーーーーー


リギンボグエン サヌーデル地区(下町)上空


まさか、初めてのヘリコプターが異世界になるとは思わなかった。いや、オートジャイロだからノーカン?


「どこに行くんですか」


エルドウィンが不安そうに隣のヴェリアさんに聞く。ヴェリアさんは口に指を当ててしぃーというジェスチャーをする。ふと、前に目を向けると、何故か一緒に乗ってきたイザベラちゃんが俯いてブツブツと言っている。それを見たヴェリアさんは少し悲しそうに目を逸らした。


「イザベラ…?」

「あははは…なんでなんで…どうしてみんななくなっていくの?ねぇ、お母さん。お母さん。どこにいるの?」


明らかに様子がおかしい。イザベラちゃんは身体を掻きむしって震えている。私はそれ以上声をかけることができなかった。それを見たシュウが私に嘲笑いかけながら喋りかけてくる。


「知らなかったんだろう?この国が如何に蝕まれているかを。見せてやろう。我々の復讐を」

「………」


オートジャイロの高度が下がっていく。朝見た貨客船が見える。目的地はどうやらあそこらしい。


「着陸するぞ。ヴェリア。使え。ホワイト・ディペロップを」


ヴェリアはイザベラちゃんを抱き寄せる。そして、白い錠剤のようなものを飲ませた。イザベラはそれを飲み込むと…すくっと立ち上がると高らかに笑いだした。


「あははははははハハハハハハ!!!!」


そして、オートジャイロからイザベラちゃんは飛び降りる。貨客船の上に展開していた兵士に飛びかかると首を掻き切る。よるの闇の中で血が噴水のように吹き出す兵士の亡骸に、動揺したのか不明瞭な言葉が悲鳴として聞こえる。


「なんでさぁ!!私をいじめるの!」


兵士の命がまた1人潰える。兵士たちは銃弾をイザベラちゃんに叩き込んだが、撃ち込んだ先には既にその姿がない。


「強いからって何でもしていいわけじゃないんだよ!!」


また1人、また1人、命が失われていく。


「ねぇ…返してよ!!どうして返してくれないの!」


オートジャイロが着陸する頃には貨客船は静かになっていた。


イザベラちゃんが甲板の端っこで蹲っている。私はそれを見て、走って駆け寄る。


「イザベラちゃん!」

「あははぁ?ママァ?だれぇ?見てたァ?侵略者を皆殺しにしたよぉ?褒めてぇ…」


「化け物め…」


そう声が聞こえた。イザベラの隣に転がっている兵士がそう言ったのだ。


「化け物はおめぇだよ。英国人」

「チャイニーズが。後進国の味方になって正義ヅラか?」


いつの間にかに近くまで来ていたシュウが拳銃を兵士に向けている。


「わかっていないな。俺がどうしてここにいるか」

「なんだ?国内を血で塗り絵してるチャイニーズが、ここでもお絵描きしn…」


兵士の言葉は最後まで聞くことが出来なかった。


「ばかやろう。国益の為だよ」


ーーーーーーーーーー


サンスカリア領界 ニテリオロパ大陸

ラクフ共和国 首都 クスクマリア

ロアド米陸軍飛行場


「おい、どうなった?」

「啖呵を切ってきましたよ」


電話口から聞こえてきたのは無能な外交官の敗北宣言だった。


「はぁ?それは…やっちゃダメってことだろ?」

「いや、いいですよ。無許可でやっても誰も文句は言えない。SNNの連中はアスチュ大陸の戦争で忙しい。我々を阻めるものはいない」

「責任取れよ?」

「嫌です」

「ちっ…」


俺は時間を無駄にするつもりはない。電話を叩きつけると部下を呼ぶ。


「おい、アンナ!!」

「はっ。なんでしょうか?」

「攻撃だ」

「どこに?」

「…ホファンブルクの例のアレだ」

「許可は?」


めんどいな、こいつ。俺も責任取れねぇよ。


「ない」

「……飛ばなくてもいいんすよね?」

「…俺らの赴任地であるラクフは内陸国だ。その物流の多くをリギン川に頼っている。おそらく、チャイニーズのバカどもは、ルーシ人のバカどもと共謀してリギン川を閉塞しようとしている。先手を打たなければどちらにせよ首だ」

「……やりますよ。やればいいんすよね?」

「そうだ」


アンナは面倒くさそうに部屋を出ていった。俺は大きくため息をつくと、椅子に深く腰掛ける。


「あーー、もっと可愛げのある副官が欲しい」


ーーーーーーーーーー


リギンボグエン リギン川 貨客船コッコドリッロ


貨客船は制圧されてしまった。私たちはブリッジで縛られることになり、船は出航しているようだ。あれだけ暴れていたイザベラちゃんはすやすやと眠っていた。


「閉塞作戦開始」


シュウが号令を下すと、船は岸に向かって突進していく。何をしようとしているのかは分からない。ただ、船を壊そうとしてるのはわかる。


「でも、この船ではリギン川を塞げないのでは?」

「その通りだ」

「では、どうするのですか?」

「川を塞ぐ…?」


つい、ヴェリアとシュウの会話に口を挟んでしまった。シュウは優しく説明してくれる。


「SNN4ヶ国協定委員会の大動脈として使われているリギン川を塞げば、奴らはそれにマンパワーを取られる。好機ができる。このイカれた国を滅ぼす…な」

「………そんなことはさせない」

「…ほう?貴様に何ができるんだ?後進国のひよわな貴族が?」


私は視界の端に動く影を捉えた。それがあの人ならば、もしかしたら。


「私には無理です」

「そうか、ならば大人しくしてろ」

「私には…無理です」

「…?」


シュウは首を傾げるも、あまり気にすることでは無いと思ったのか目を背ける。 そして、船が岸に衝突した。


「それで…どうするんですか?」


ヴェリアが再度、聞くとシュウは得意げに種明かしをし始める。


「ここより上流にスラムと下町を繋ぐ橋があるのは知っているな?」

「はい」

「あれを爆破する。その瓦礫がここまで来れば船に引っかかって川が閉塞されるわけだ」

「どこにそんな爆薬があるんですか…というか、別働隊の役割はそれだったのですか」


そういえば、ヴェリアさんに突っかかっていたテロリストさんの姿がないし、あれからリーゼちゃんにも会えていない。


「シュウさん…諦めてください」


私はシュウに語りかける。彼は私を見ると鼻で笑う。心底、軽蔑しきった声で返事をする。そして、私に銃を突きつけた。


「ははは、貴族というのはどこまでもバカなのだな…もう貴様に存在価値はない。もう誰に攻撃されても手遅れだからな」

「なら、そんな貴族に殺られるお前はもっとバカだな。オレの妹に銃口を向けるな」


そこには私の兄者であるレッドモンドが立っていた。そのまま、剣を振るい、銃をバラバラにする。


「兄者!!」

「あにじゃ…?」


あ、しまった。兄者って呼んじまった。


「君の妹、変な人なんだねぇ」


メガネをくいくいしている金髪の優男…攻略対象のフランツ王子までいる。どうして…?そんなことを考える暇もなかった。シュウが大声で笑い始めた。


「ガキが2人増えたところでなんになる!!どうせ、橋の爆破はとめられんよ!」

「何を言ってるんですか…あなた方が爆薬を持ち込んでいないことは確認済みです」


フランツ殿下がシュウを見下す。


だが、シュウは余裕の笑みを崩さなかった。まるで勝ちを確信しているかのように。


「……問題ないさ」

「その通りだな」

「おや、日本兵。分かっているのか」

「悪趣味だな」

「貴様らに言われたくない」


タナカ三佐だ。いつの間にかに逃げ出したのか、ブリッジの入口に立っていた。


「タナカ三佐!どういう事ですか!」

「……リーゼロッテには魔法で術式が埋め込まれている…我々はそれを嗅ぎつけて君たちに接触したんだ」

「術式…?」


タナカ三佐は悲しそうに告げる。タナカ三佐の説明をシュウが補う。


「そうだ。彼女の魔力が0になった時、自爆する。彼女は治癒魔法が使えるからな。誰かが苦しめば、きっと使ってしまうだろうなぁ。」

「ふざけるな!!そんな話聞いていない!!」


ヴェリアさんがシュウを怒鳴りつける。だがシュウは一向に気にすることなく開き直った。


「国益の為だ。悪く思うなよ」

「我らが砲艦頼みか。不確定な要素にすがるのは良くないぞ」

「アメリゴの空爆、ホファンブルク騎士団の強襲、なんでもあるぞ……さっそくお出ましか」


爆音と共に見上げると航空機がこちらに向かってくるのが見える。


「ハハハハハハ!!!全てを破壊しろ!アメリゴォ!ヤンキーはそうじゃなくちゃなぁ!!」




航空機が迫る。私は願った。皆を守りたいと。


『その願い叶えてやろう』

「だれですか」

『私か?調整者だ。バランスを取らなければならない』

「私は何をすれば?」

『簡単だ。君は守りたい人間を守ればいい。そうすれば、君は血に濡れる。バランスが取れるんだよ』


目が覚めた。ブリッジは吹き飛んでいない。航空機は飛び続けているが、皆生きている。皆、驚いて私を見ていた。


「貴様、異能力者か」


シュウが絞り出すように言った。私は首を振る。視界の端で航空機が橋の方へ向かう。目を瞑ってしまう。…再び、目を開けた時、橋の周囲が半円状のシールドで覆われていた。


「A級クラスの実力か?唐突に発現したというのか…」


タナカ三佐は困惑しているようだった。


米軍機が引き上げていく。攻撃しても無駄だと思ったのか。ただ、私は呆然とするしかない。


「終わりだな。砲艦も砲撃を控えるだろう」


タナカ三佐がシュウに告げる。シュウは膝から崩れ落ち、両手をあげた。


「ここまで…か」


私の転生初日の大冒険はこうして終わった。


ーーーーーーーーーー


リギンボグエン サヌーデル地区(下町)

リギン川北部通用橋 騎士団側詰所 付近



「心配したんだぞ!!!」


兄者の声がめっちゃ煩い。いや、反省はしてますよ。こんなことになるとは思わなかったんだ。


「まぁまぁ、反省してるようだから許してやりなよぉ」


フランツ殿下ナイスです。もっと庇ってください。


とりあえず、事件は収束した。シュウやヴェリアさん、イザベラちゃん、リーゼちゃんは騎士団に拘束されている。エルドウィンも騎士団長に回収された。


「…まあ、それもそうだ」

「それはいいけど…今後、どうする?課題増えたけど?」

「…課題?」


兄者とフランツ殿下が顔を見合わせる。というか2人知り合いだったんだ。私の推しのウィリアム殿下を紹介して欲しい。


「実はね、僕らはこの国を変えようと思ってるんだ」

「…変える?」

「おい、アデルを巻き込むな。ぶち殺すぞ」

「君のお兄さん…いや、兄者って僕に対する扱い酷いよねぇ」

「え…あ、はい…それより、詳しく聞かせてくれませんか?」


フランツ殿下はメガネをくいっとあげると、少し口角を上げる。


「いいよぉ」

「待て、オレが説明する」

「別に…いいけど」

「…アデル。この国はいろいろな問題を抱えている。ニテリオロパの地域大国として力を持っているが、実際はSNN4ヶ国協定委員会の新植民地主義の影響下に置かれている。貧富の差は広がる一方で、近年は重い税負担も問題になっている。これはガレオシア帝国の勢力伸長も原因ではあるが…」

「待って…待って…」


いっぺんに言われてもわかるわけが無い。というか兄者ってもしかして頭いいのかな?全然、分からないんだけど。ただのシスコンではなかったらしい。


「すまない…とりあえず、当面の目標は4つだ」

「…4つ」

「そうだ。1つ目は、違法薬物ホワイト・ディペロップの規制、2つ目は、国内の識字率の上昇、3つ目は、今回、擱座した貨客船の撤去、最後に、アデルの処遇だ」

「私の処遇?」


なんかとんでもないワード出てきたんだけど?私なんもしてないんだけど…エルドウィン連れ出したのがやばかったのかな?


「異能力のことについてだよ」

「えっと…それって何?」

「授業で習わなかった?」

「……」


やばい、2人に呆れられてる気がする。


「異能力ってのは、稀に特異な力を発現して、それを使用することができるんだ。一昔前までは彼らは英雄と呼ばれ、戦場ではより多くの異能力者を用意すれば勝てると言われていた」

「じゃあ、今は違うの?」

「その通りだ。アデルのようなA級や、S級ならまだ可能性はあるが…魔法や科学の発展によって戦場の勝敗を決するのは異能力者ではなくなった」

「…なるほど?そのAとかって誰が決めるの?」

「異能力者協会。これが1番厄介なんだよねぇ」


フランツ殿下が大きくため息をついた。異能力者協会となんらかの因縁があるのだろうか?そんなことを話しているうちに馬車が到着する。


「…とりあえず、今日は一旦お別れだね。もし、僕やレッドの活動に興味を持ったら…いや、持って欲しいなぁ」

「でも…私たち子供だよ?」


ふと、川の方を見ると次々と砲艦が到着してきていた。色とりどりの旗。彼らが私たちを支配しているという実感が湧かない。あんな大冒険をしたのに心が動かなかった。いっぱい人が死んだし、気になることはいっぱいあったけど…どこか遠くのことのように感じる。


私は馬車に乗り込んだ。明日からどうしようかと。


ーーーーーーーーーー


リギン川 日本神聖神州皇国秋津洲連邦 海軍 砲艦 躑躅 艦橋


「時間だ。無線封止解除。僚艦に連絡を取れ。テロリストを殲滅する。砲術長、自身の判断で攻撃を開始しろ」

「はっ」


砲術長が部下たちに命令を下している間、私は電話をかける。受話器がカタカタとなり、自身の手が震えていることに気づいた。


「もしもし、躑躅 艦長の菱野です」

「始まりました?」

「はい」


「撃ぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


砲術長の号令が飛んだ


ーーーーーーーーーー


リギンボグエン サヌーデル地区(下町)

リギン川北部通用橋 騎士団側詰所 付近



砲声が轟く。


私は振り返った。町が燃える。スラムでまた爆発が起こる。次々と砲艦たちは砲弾を叩き込んでいく。嘘だ、みんなまだ橋の上にいるよね?


「何が起きているんだ…」


兄者も愕然としていた。事件は終わったのに、何が、起きて…?橋の方を見るとこちら側に捕まったテロリスト達を連れて騎士団員たちが逃げてくる。それを狙おうと砲塔が旋回していく。


「待って!ダメ!!」


発火炎が見える。私が再び目を開けた時には橋の上に半円状のシールドが張られる。守れたと思った…が、橋は無情にも崩れていく。砲弾は橋脚を貫いたようだった。


たった数分でスラムは廃墟となり、橋も崩れ去った。シュウが言ったように瓦礫が貨客船の残骸に引っかかり、川が詰まっていく。砲艦たちが砲撃で更に粉微塵にしている為、完全に塞がるということはなかった。


兄者は何か考え込んでいる。フランツ殿下も険しい顔をして、近くにいた騎士に被害報告をするように命令していた。


「お兄様…」

「帰って休め、今は何も考えるな」

「いいえ、私は…」


涙がポロポロと流れ落ちる。何も守れてなかった。何にもできない理不尽さと恐怖が襲いかかる。それでも、私は諦めたくなかった。


「この国を変えます」


そうはっきりと兄者に告げる。兄者は私の真っ直ぐな瞳を受け止めて、小さく頷いた。


「……地獄を沢山見るぞ。現実は甘くない」

「分かっています。…いえ、分かってないかもしれませんけど…分かるつもりです。そうあるべきです」


町が炎で赤く染まる。国が血で赤く染まる。そんな理不尽と恐怖に誰もが苛まれる日がもう二度と来ないように。


私は歩き始める。

お読みいただきありがとうございました!今回はおまけはお休みです。次回はキャラ紹介や用語解説をします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公がこれからどんな活躍をするのか楽しみです。 [気になる点] 4話ほど読みましたが、新しい単語が毎回のように出てきているのでしっかりとした解説が欲しいです。
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