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第一章 第二話 『悪役令嬢と妹好きな兄者の復興途上』(急・前編)

少し遅くなりました。申し訳ありません!!それと、急だけで二万字近くになってしまったので前・後編に分けました。後編は予約投稿で12時に投稿します!では、良い読書を!

『私たちが好む、好まざるにかかわらず、自由には代償が伴います』

〘"流れをくむもの"ジョルジャ・メローニ〙


第一章 第二話 『悪役令嬢と妹好きな兄者の復興途上』(急・前編)


リギンボグエン デクシ地区 義務労働再調整センター 食品加工場前


喧騒から離れたセンターの中心部は異様なほど静かだった。ほんとにここで人が働いているのかな?人通りのない敷地内を一塊になって進んでいく。


「この先の建物が食品加工場だね」

「食品も作ってるの?」


なんかやばいものばっかり作っていると思ったら案外普通のものも作ってるんだ…


「そうだね。麻薬や武器弾薬は高価で大きな利益を生み出すけども需要は限られているんだ」

「……だから、普通の人にも需要があるものも作って利益にしなきゃいけないってことね」

「その通り」


そうこう話しているうちに食品加工場のドアの前に辿り着く。EO社の社員の1人がドアの下に何かを差し込んでいる。細長い…なんだろこれ。


「それは?」

「これ?スネークカメラです。中を覗けるの。見ます?」

「うんっ!」


エリーさんはそう言いながら画面を見せてくれる。1段低くなっている場所にはベルトコンベアーが並び、そこには労働を続けている人達の姿が見えた。貴族らしき人が鞭をふるっているのも見える。そして、その周囲には剣を持って鎧を身につけた人達の姿も見える。


「突入します?」

「うん。全部見てみたいかな」

「そうだね。何か情報の見落としがあるといけない」


フランツ殿下の賛同も得られた事のでエリーさんにこくんと頷いて合図する。EO社の兵士が扉を蹴破る。銃を構えながら突入していった。私達も後から入っていく。


中は私たちの突入で騒然となっていた。近くにいた剣士が兵士に切りかかるが銃で防がれそのまま別の兵士に殴り倒される。


「だ、誰だ!貴様らは!!であえ!であえ!敵襲だ!傭兵ども!排除しろ!!」

「ま、待ってください。敵じゃないです!」

「だ、誰だ!?」


貴族は私にそう誰何してきたので名乗ろうと1歩前に出ると、フランツ殿下に手で制止される。そして、EO社の兵士たちより前に出る。弓を持った傭兵に狙われるが動じることなく名乗りをあげる。


「どうも、ザクエン子爵。王位継承権 第2位 フランツ・R・ホファンブルクです」

「なっ…な?なんですと!?て、抵抗するなよ!フランツ殿下に従え!」

「しかし…侵入者では?」

「ば、ばかもの!王太子殿下だそ!」

「えぇ…」


貴族…こと、ザクエンは泡を吹きながら傭兵達に命令を下す。が、傭兵たちの反応は困惑が大きくどうしようか迷っているようだった。


「傭兵たちって殺さないように無力化できる?」

「ええ。できますよ。お望みとあれば」

「アダルは遠距離攻撃ができそうな弓兵をお願い」

「お任せください。お嬢様」


EO社の兵士達が駆け出し、傭兵たちに殴りかかり無力化していく。フランツ殿下に狙いをつけていた弓兵が弓を放つ。私の異能力で…!

カキンという音と共に矢が地面に落ちる。


「お~、ナイスです!」


ケテテさんの言葉を合図としたようにアダルが瞬時に移動し右回し蹴りで沈めた。一瞬の静寂の後に労働者たちから大歓声が上がる。流石にここまで騒いじゃったら隠密はもう無理かな?みんな喜んでるし、きっと今まで大変だったんだと思う。


「計画を変更しない?この機に皆を助けようよ」


私がそう言うとフランツ殿下は目をぱちくりした後、笑顔を見せた。頷くと、近くにあった台に飛び乗った。


「皆さん!聞いてください!!僕はこの国の王太子!フランツ・R・ホファンブルクです!僕たちはあなた達が不当に使役される現実を憂慮して、その現状を変えにきました!!」


フランツ殿下がこちらに手を差し伸べる。


「さあ、少しだけ喋ってみない?君の言葉で彼らに希望を見せてあげれる?」

「任してください!フランツ殿下」


私は向こうの世界では生徒会長をやった事だってある。話すことは別に苦手じゃない。私は台の上に上がり息を吸う。みんなの目がこちらに向いている。


「はじめまして。私はアデルハイト・ボルクス・スイミットと申します!まずはあなた方に謝らなければいけません。遅くなってごめんなさい」


ざわめきが起こる。私が何を謝っているのかわかってないのか困惑しているようだった。私は静かになるまで口を開かなかった。ざわめきが少しづつ小さくなっていく。


「32年前。私たちが生まれる前、ディアーク王は多くの人を自由にする為に奴隷解放宣言を出しました。ディアーク王の英断で多くの人が自由を掴み取ったのです。しかし、あなた方のように未だに強制労働で苦しめられている人は少なくありません。なぜなら、私たちは支配者たちの軛から未だに逃れることはできていないからです。そして、その支配者は強大できっと私たちだけでは敵わないでしょう。私たちの行動は解放と言えるものではないのかもしれません。支配者たちの報復の口実になるものかもしれません」


私は一旦、口を閉じて周りを見渡す。誰しもが私の話を聞き入っている。私の方をじっと見ている。


「あなた方がこれまで受けてきた苦しみは恐ろしい痛みとしてあなた方の記憶に残っているでしょう。そして、これからあなた方が受けるかもしれない想像を絶する苦しみを理解することは私にはできないと思います。でも、私はあなた方の希望でありたいんです。決して忘れられてると思わないでほしいんです。私たちはあなた方を決して見捨てはしません」


最後に頭を下げる。大歓声が巻き起こる。結構嬉しいな。アドリブとはいえ上出来だったんじゃない?台から降りようとするとフランツ殿下に引き止められる。なんか問題ある感じ?


「あ、アデルちゃん。ここの人達ならある程度ここについても詳しいはずだから…」

「あ、そうだった…」


もう一度、下にいるみんなに振り返ると未だこちらを見ていたので問いかけてみることにした。


「あの…実はここであるものを探してて…すみません。皆さんの中で最もここに詳しい方はいませんか?」


ある程度の人数の視線が1人に集中する。注目を浴びた男はそれを感じとったのか。私の方を見ながら、梯子を上がってくる。


「どうも。俺はロベルト。ここで長いこと働いてる」

「あの…ホワイト・ディペロップについてなにかご存知だったりしませんか?」

「ホワイト・ディペロップだと?」

「は…はい!」

「……それがどこにあるかは知らないが…この牢獄にはヘスリングですら入れない場所がある」

「そ、そんな場所が!?」

「あぁ。ヴィツォークの私邸があるんだ。中はだいぶ広い。もし何か保管したりするならそこが最適だろう」


フランツ殿下の方を見ると大きく頷かれた。


「すぐにでもほかの工場の労働者を解放して乗り込もう。この異常を察知されたら証拠隠滅されるかもしれない」

「そうですね!急ぎましょう!」


ようやく掴んだしっぽを手からするりと逃げださせるわけにはいかない。急がなきゃ!


ーーーーーーーーーー


義務労働再調整センター 外壁内部拠点


「それで…貴方はホワイト・ディペロップの取引には関わっていないと言い張るんですね」


銃声と喚声が響く室内でオレはへスリングにそう問い詰める。部屋の中にはFBMの兵士とジェイソン、そして、EO社のベンが他にいる。


「ええ。私がそんなことをする必要があるとお思いですかな?」

「この世界には嘘をつくと分かる魔法の道具があるらしいじゃないか。貴方はそれを使われても同じ事が言えるのか?」

「……この世界?……まあ、同じ事を言いますとも」


へスリングは落ち着いて受け答えしている。何も問題はない。ここは法律内で適正に運営している施設だとへスリングは表情で物語っている。だが、そんなわけない。ここは真っ黒なはずだ。


「それで、真偽の天秤でも使いますかな?」


へスリングから逆に問われる。だが、高価なそんなものあるわけない。


「………」

「ブラフでしたかな?」

「…」


へスリングは立ち上がると格子がはめられた小さな窓から外を見据える。彼は目を細めて何かを見ようとしているようだ。


「君たちは本当に不幸ですな」

「……他人事みたいに言ってくれるな」

「そんなつもりはありませんとも。哀れんでいるのですよ。我々の方が優れていたばっかりに」

「……オレを怒らせたいのか?何のメリットもないだろう」


へスリングの表情は鉄のように変わらない。


「……これは申し訳ない。……ですが、だいたい言いたい事は変わりませんな」

「…何を言うか次第によってはただじゃおかないぞ」

「はっはっはっ……何もできませんでしょうに」


へスリングの目はこちらをじっと見ている。口元は笑みを浮かべているが本質は鉄のままだ。


「私はラ・フランセーズ共和国に仕える者です。そして、今はSNN協定委員会に属している。決して君たちの国を代表する者ではないのですよ」


へスリングはそう一旦区切る。オレの反応を伺っているのだろうか。黙っていてもしょうがないのでオレも口を開く。


「そんなことはわかってる。別にオレは超大国を排除できるなんて思ってない。それほどまでに深くこの国に貴方たちは関わっている。鉄道利権に、資源利権。十分な利権があるでしょう。これ以上、何を望むんだ」

「そこまで分かっているのなら…お分かりでしょう。我々は拡大し続けなければ死ぬのです。利権はいくらあっても足りないのですよ。活用されてない資源は我々が使う。それが嫌なのであれば立ち向かって奪い返しにくるべきですな。ブラフではなく本気で」


へスリングはオレを見下ろした。子どものこの身ではフランスの恰幅の良い将軍はだいぶ大きく見える。威圧感。超大国という存在はこれほどのものか。


「……オレらは諦めませんよ」

「楽しみにしておきますな」


今の言葉は本心なのだろうか。へスリングは椅子に座る。そして、こちらをもう一度、見つめる。


「話は以上ですかな?」

「いえ、最後に一つ。この件にロロ・ゲーブルは関わっているのか?」


へスリングの瞳がはじめて揺れた。これを聞けただけでもだいぶ収穫だろう。


「ほう…?ブリテンの外務大臣が何故、ここで出てくるのですかな?」

「質問に答えていただきたいな。関わっているのか、いないのか」


へスリングは暫く沈黙した。十分答えみたいなものだが…


「関わっている…とは言える」

「なるほど…ありがとうございました」


オレが席を立とうとすると扉がバァンと開かれる。ここの職員なのか武装は腰から下げている拳銃以外にはなさそうだ。


「た、大変です!さっき来た貴族の令嬢と王太子殿下に労働者が扇動されてヴィツォークの私邸へ向かっています!それで…外部副所長が…」

「なんだと?」


フランツは何をやっているんだ?へスリングも驚いてるし、オレも驚いた。へスリングはすぐに何かを思ったのか、近くにあったライフルを手に取るとこちらに向き直った。


「あなたの妹さんは優秀ですな。我々はここを失うやもしれませんぞ」

「……」

「一緒に行きますか。ここでは私は穏健派なのですよ。外部副所長は外交というものを考慮しませんからな」

「あぁ。ジェイソン、ベン。行くぞ」

「はっ。「分かりました」」


妹が心配だが、状況は確かに動いている。早く会って褒めてあげなきゃな。


ーーーーーーーーーー


リギンボグエン デクシ地区 義務労働再調整センター 施設内大通り


「えっと…この先?結構、ここって広いんだね…」

「数千人規模の人間がここで働かせられているからな」


私の問にロベルトさんが答えてくれる。数千人…


「ごめんなさい…遅すぎて…」


ロベルトさんの方を見ると、目をぱちくりした後に私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。


「ははっ、子どもにそんなことを言わせちまうなんてな。お前さんは悪くない。悪いのはここを運営している連中とお前さんにきっかけを貰うまで行動しなかった俺らだ」


アダルの目つきがちょっと鋭い。これは怒ることじゃなくない?


「アデルお嬢様。先程まで、銃口を下げていた狙撃手たちがこちらを狙い始めました」

「え…?狙われてるの?」

「はい。間違いなく」

「王太子が居てもお構い無しですか。驚きましたね」


EO社の兵士たちも周囲を警戒している。緊張の糸が張り詰めている。労働者の方々も少しざわめきが大きくなる。


「前に誰かいるみたいですよ」


EO社のエリーさんがそう言った通りに前から誰か歩いてくる。……和服?薙刀?日本の人?


「あれは…外部副所長の河奈義…」

「来ますっ!!」


アダルがそう言ったと同時に、ロベルトさんの目の前にその件の河奈義外部副所長の薙刀が迫ってくる。彼を守ろうと手を伸ばすと、狙い通りその刃が届くより前に小さな半円状のバリアが出現した。


「うおっ!…お?」

「ナイスです~。アデルちゃん~」

「あらー?」


後ろに尻もちをついたロベルトさん、マイペースに褒めてくれるケテテさん、言葉では驚いているものの余裕の笑みを崩さない河奈義外部副所長。そんな中、いち早く動いたのはアダルだった。


指の間に挟んだ投げナイフを素早く河奈義外部副所長に飛ばしていく。それを見た彼女は距離を取りつつ飛んでくるナイフを一薙ぎで弾き飛ばした。


「素早い反応ですねー」


彼女は和服のホコリをパサパサと払う。戦闘中だと言うのに念入りに時間をかけて。


「あ…あの…?」

「どうしましたかー?」

「とりあえず武器を置いて話し合っていただけませんか?」

「んー?どうして?」

「どうしてって…私たちは言葉が通じるんですよ!」

「それはー、言葉が通じ合わなければ殺しあってもいいってこと?」

「そ、そういうわk…」


彼女は私が口どもっていると瞬で距離を詰める。そして、気付いたら目の前に居た。


「え…?」


右腕を浅く切られる。血がパシャっと吹き出した。痛い。初めて見た。ここまで、血を。


「っあぁぁああぁ!!」

「アデルお嬢様!!」


苦悶からの悲鳴にアダルが心配そうに駆け寄る。その間にエリーさんが銃を撃ち込むと河奈義外部副所長はまた、ぱっと距離をとった。


「A surprise attack, a Jap speciality. Cowards.(ジャップお得意の奇襲攻撃か。臆病者め)」

「あらー?白人に跪いて利益を啜る黒ん坊が何か私に言うことがあるんですかー?」


EO社の兵士が吐き捨てるようにそう言うと、河奈義外部副所長は嗜虐的な笑みを浮かべ薙刀についた私の血をぱっと振って払う。


「『痛ましい傷の彼女に微かな癒しを』サナ!」


彼らが会話している間にアダルが私にリーゼちゃんも使ってた回復魔法をかけてくれる。が…


「な…治らない!?」


アダルの驚きの通り、回復魔法は傷口を塞がなかった。さらに言えば、血はとめどなく溢れてくる。


「そんなことが?『Sworn in the name of the King. I will use this magic power to heal the souls before me.(王の名のもとに宣誓する。この魔力をもって我が前の魂を癒す)』ヒーリング」


エリーさんも駆け寄って、なんか石のようなものを砕きつつ、魔法?を唱えてくれるがこちらも効果がないようだった。


「あ~…ありました~!彼女は河奈義 紫陽花。異能力者協会のリストによれば…彼女の能力系統は【治癒障害】えーと、詳しい情報は…」

「異能力者協会の方もいるとはー…驚きましたー。ホファンブルクの貴族と、大手PMC、異能力協会。何しに来たのですかねー?あぁ、情報は言わなくていいですよ。教えてさしあげますー。私の異能力の要点は4つ。1番大事なのは自然治癒力、魔法による治癒は無効化するという事。次に大事なのは私の能力の効果範囲内は半径1kmという事。3つ目はその効果は私が敵だと認識した者に適用されるという事。最後に私は強いという事。合ってますね〜?【対向消滅】のヌケヌイ・ケテテさん?」


ケテテさんの目が一瞬、泳いだ。が、すぐに河奈義外部副所長を見つめ直した。


「はい。合ってますね~」

「じゃあ、もう始めましょうかー」


彼女が手を叩くと、どこからともなく現れた全身黒装束の…って忍者!?痛みも少し忘れるくらい驚いた。さらに、ローマ字でHOUTAと書かれた車両に乗ったトラックや車が工場の後ろの路地から次々と出てくる。


「待ってください」


薙刀を構えた河奈義外部副所長にフランツ殿下が立ち塞がる。あ、危なくない?少し頭がクラクラする。失血の影響だろうか?


「アデルお嬢様。失礼します」


アダルが白い布で私の傷口を圧迫止血する。

しかし、結構まだ血が出てくるので出血箇所より心臓側に近い腕の部分を強く縛る。ああ、そういえば外的要因による止血は効果の範囲外なのか。


「僕はホファンブルク王国 第2王太子のフランツです。我々の目的はヴィツォーク伯爵の私邸の捜査です。あなた方の行動は国際問題になります」

「時間稼ぎのつもりですかー?へスリング外部所長は確かに我々の計画の賛同者じゃないですよ?でも、来る前に決着をつけてしまえば誰も文句は言えませんよー?国際問題?ご冗談を。我が祖国はかつて世界を二分していた超大国です。一時の利益の為に私を切り捨てはしません。ですから、私の前では言葉も、地位も問題になりません。等しく血に溺れてくださいー」

「では、せめて…後ろの労働者を巻き込まないように退避する時間をいただけませんか?」

「……分かりましたー。30秒だけあげますねー。さんじゅー、にじゅきゅー」

「ロベルトさん!労働者の皆さんを連れて退避を!」

「お、お前さんたちは?」

「戦います!貴方しか労働者をまとめれる人が居ないんです!」

「…分かった。みんな、落ちついて下がれ!!!前の人を押すなよ!」


「じゅうにー、じゅういちー」


「フランツ殿下も戦うのですか?王族がけがしたら…」

「心配しないで大丈夫。僕とて鍛錬を積んでるからね。そして、何より王族だからこそ前に出なきゃいけない」


その言葉を言い終わらないうちにフランツ殿下の横にマルハレータさんが姿を現した。ええっと、王国暗部の人だよね?


「マルハレータ。日本の諜報員の方を頼む」

「わかりました」


マルハレータさんは手袋の手首の部分を引っ張ると手に三本の爪状の武器を装着する。か…かっこいい…


エリーさんやEO社の皆さんも準備万端のようだ。近距離戦用なのかナイフや拳銃を持っている。


「さぁーん、にー、いーち、ぜーろ」


そう言い終えたが敵は襲いかかってこなかった。トラックや車両から降りてきた兵士は展開しつつあったが、そのうちの1台から担架に乗せられて1人の男が運ばれてくる。彼は酷くボッーとしていて目が虚ろだった。敵兵は彼に何かを飲ませると、彼の身体は異常に筋肉が発達し、そして、目をギラつかせた3m近い巨体にめりめりと変化していった。


「な、なんなんですか…あれ」

「…おそらくホワイト・ディペロップのせいだね」


フランツ殿下がそう言い終わると変化し終わったその哀れな彼は咆哮をあげるとEO社の兵士の方へと向かっていく。


「うぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

「Shoot!!」


エリーさんの号令と共にEO社の兵士たちが銃を撃つ。巨体にバシッバシッと当たり、一瞬敵は立ち止まった。が、すぐにその緩慢な動作を再開した。


大きく拳を振り上げて兵士を殴ろうとしていたので左手を前に出してその前にバリアを展開する。


「あらー、よそ見はいけませんよー?」


私のすぐそばに河奈義外部副所長が間合いを詰めてきていた。


「同感ですね」

「アデルお嬢様に二度と触れさせるものかっ!」


フランツ殿下は腰に下げていた細い剣で河奈義外部副所長の胴を貫いた。さらに、アダルがナイフを後ろから突き立てる。


「あらー、なかなかやるんですねー。エストックとナイフですかー。でも、これくらいじゃ私は死にませんよー?」

「強がりを!」


だが、アダルがそう言った直後にまた鋭い痛みが走った。な、何も見えなかった。痛い!


「うっ…くぅ……」

「っ…」

「うぐ…」


気づいた時には倒れているみんなと薙刀の血を払う河奈義外部副所長の姿があった。


「この程度ですかー?」


血がだらだらとアスファルトの上を混じりあって流れていく。彼女はぴちゃぴちゃと血を踏みしめながら私たちを見下ろす。


「人間は血液の5分の1を失ったら死ぬのですよー。大人だったら1Lくらい。あなたたちくらいの子どもなら少なくても300ml、多くても600mlくらい。後、どのくらいですかねー?」

「まさか…わざと致命傷を避けて…いるんですか…」


彼女はフランツ殿下の問に答えることなくただ微笑んでいる。薙刀を血の中をつーっと走らせてちゃぱちゃぱしている。アダルが立ち上がろうとすると薙刀をスイングして再度、アダルの身体を地面に転がす。


「アダル…!!」

「申し訳ありません…お嬢様…」

「無駄に足掻くのは止めた方がいいですよー?少しでも長く生きたいのでしたらー」


足に力を入れる。腕にも力を入れる。傷口からさらに血が噴き出してくる。頭が朦朧とするが立ち上がらなければならない。


「あらー、死を早めたいのですかー?」


薙刀を振りかぶり、地面を蹴って私の方へ向かってくる。


視界の端に水色のものが映った。


それを認識したのか、河奈義外部副所長は薙刀をそちらに向ける。ぱっと黒い球形のものが出現し薙刀の刃の部分を消し去る。


「あ、あらー?異能力者協会が介入なんかしていいんですかー?」

「はい~。もちろん。いいんですよ~」


ケテテさんがそう答えると、間髪入れずに細長い尖った棒のようなものを投げつける。ケテテさんは少し首を傾けて避けるもののそれは頬を少し傷つけた。


「わざと当たったんですかー?」

「そうですよ~。アデルちゃん。あなたの異能力は任意の地点に大きさを問わずに障壁を出すというもの。あなたには河奈義 紫陽花の異能力を無効化できる力があるの~」


無効化…?河奈義 紫陽花 の異能力は傷口を塞がせないというもの。そして、これは止血帯法などの外的要因による止血は問題なくできる。私の異能力はバリア…それも、破壊できない。


つまり…こうすれば!


ケテテさんの頬の傷にすごく薄い半円状のバリアが貼られる。


「さすがです~。アデルちゃんは優秀だね~」

「さっきまでそんなことは出来なかったはずー!?」


河奈義外部副所長が驚いているが関係ない。周りの傷ついたみんなに貼り付けていく。


「いいね~。アデルちゃん~」


ケテテさんが褒めてくれる。いつの間にかアダルもフランツ殿下も立ち上がってそれぞれの武器を河奈義外部副所長に向けている。しかし、フランツ殿下は少し血を失いすぎたのかふらふらしていた。


「休んでてください!フランツ殿下!」

「だめだ。君も戦うのに僕だけ寝てるわけにはいかない」


フランツ殿下の優しい瞳がキリッと前を見据える。かっこいいけど…心配なのは変わらない。私の異能力じゃ応急処置にしかならない。早く医者に見せてあげないと…


「傷口が塞がったからと言ったって私の攻撃は防げませんよー?」


既に平静さを取り戻した河奈義外部副所長はただの棒になった薙刀を構える。


多分、本気で来る。


ーーーーー


side マルハレータ


私の目の前には2人の諜報員。日本が言うところの忍者がいる。片方は鎖鎌君、もう片方は小刀君。既に何回か打ち合っているがそんなことをしていたら、護衛対象のフランツ殿下がボロボロにされていた。これ後で上から怒られるだろうなぁ。


早く決着をつけよう。


互いに喋ることは無い。向こうもプロで、私もプロ。視線が交錯する。


鎖鎌で足元を絡め取ろうと足元を這うように振るってくる。それを楽々、ジャンプで躱すと小刀君の方がそこめがけて突いてくる。それを右の爪で退ける。そして、小刀君と同時に着地する。


1呼吸を置く。


小刀君の方へ距離を詰める。間に鎖鎌君が割って入る。鎖部分で右爪の方を防ぐ。すかさず、左爪を突き刺そうと動かすが、鎖鎌君は膝蹴りの要領で左爪を防いだ。カキンという金属音が響いた。何か仕込んでたようだ。


金属が削れる音がする。互いに力を込めて押し合う。鎖鎌君の背後で小刀君が跳躍して、上から小刀を頭に突き立てようとしている。こちらの両手を塞いだあとのこの攻撃。いい連携だ。私は冷静に左手の爪をボタンを押して爪を捨てる。そして、小刀君の華奢な腕を掴むと、引っ張って地面に叩きつける。


「うっ…ふぐぅ…」


思ったより可愛い苦悶の声が聞こえた。どうやら、小刀君ではなく、小刀ちゃんだったらしい。その小刀ちゃんを蹴り飛ばす。


「がっ…はふっ!」


鎖鎌君の方は体制を整えて私の方へ鎖鎌の分銅の方を投げつけてくる。それを避け、爪を顔目掛けて突く。鎖鎌君は鎖で私の爪を巻き取ると顔と顔が触れ合うくらいの近距離まで身体を寄せる。


「ここまで密着しちゃうとそこで転がってる彼女さんが嫉妬しますよ?」

「黙れ…雑兵が…」


結構、年季の入っている渋い声だ。プロ中のプロ。これは一筋縄にはいかないかな。


ーーーーー


side エリザベス with EO社兵士


困りましたね。最初のうちはあの依頼主の娘さん…アデルハイトお嬢様の援護があったからいいものも向こうで河奈義とかいう日本人に追い込まれてからはこちらも辛くなってきた。幸い、なんだか知らないけどアデルハイトお嬢様の異能力で傷口は塞がっている。既に本社のコマンダーからは1人が生命信号ロスト、1人が微弱と伝えられている。3人が敵兵を相手にしているのでこのデカブツを相手にできるのは私含めて5人。状況は最悪ね。


「トム!隙を見て柔らかそうなところからヘッドショットを狙ってください!」

「はっ!」

「ボホム!リンディウェ!右側に回ってください!私は左に行きます!」

「「はっ!」」

「ミシェル!煙幕弾を適当なタイミングでデカブツの顔近辺に撃ち込んでください!」

「はいっ!」


命令を出し終わると自然と私たちは散開した。デカブツは私に目をつけたのかその拳を振り下ろす。それを飛び退いて避けるとデカブツは大きく体勢を崩した。その隙に両側から射撃を浴びせてみますが私の持っているベクターR4やAK-47くらいじゃどうにも筋肉に阻まれているようですね。


2人いたからか、AKの方が痛かったのか、体勢を建て直したデカブツはボホムたちの方を振り返り、そちらに拳を向けた。リンディウェが避けきれず、まともに食らうも個人用防御魔法札が防いでくれたようだ。上手くいかずイラついているのかデカブツは大きく口を開けて咆哮する。


「うォォォォォォォォォ!!!!!!」

「今ですよ!」


私の合図とともにデカブツの口に発煙弾がぶち込まれた。途端にむせ込むデカブツ。どうやら呼吸器系は強化されている訳では無いようだ。


「ご…うぐぉぉ!ごほぉ!!っぐ!!」


デカブツは両手を地面についてむせている。それを見たトムがAK-47を持ってデカブツの股の間の方へ向けてスライディングをしながら数発撃った。おそらく、彼の撃った弾丸はデカブツの鼻を通り抜け、脳へと貫通したはず。デカブツは沈黙したようです。一件落着ですね。


ーーーーー


VS 河奈義 紫陽花


河奈義外部副所長はまっさきに私を狙おうと棒を振りかぶりつつ、こちらへ向かってくる。咄嗟にバリアをはる。しかし、そのまま、河奈義外部副所長は後ろから迫ってきたアダルに棒を打ちすえる。


「くっ…」

「あらー?反応速度が遅いですねー?そんなんじゃあなたの異能力って何の価値があるんですかー?」


だったら…!


河奈義外部副所長は次に迫ってくるフランツ殿下に向けて棒を振りかぶる。私はバリアをフランツ殿下の前に展開する!


河奈義外部副所長の棒は私の目の前でバリアに阻まれていた。


「ま…まじですかー?突然、3枚同時に展開できるようになるなんておかしいじゃないですかー…」

「驚いている暇があるのですか?」

「散々、お嬢様を傷つけてくれたな?命があると思うな!」


河奈義外部副所長は2人がそれぞれ突いてきた武器をサッと飛び退き避ける。次の攻撃が始まろうとしたその時


「そこまでですよ。諸君」


さっき聞いたような気がするおじさんの声が聞こえた。


「フェルディナン・へスリング外部所長…」


河奈義外部副所長がそう言う。声がした方を見るとへスリング外部所長と兄者が立っていた。


「あに…お兄様!!」

「あぁ…アデル!!大丈夫か!!」

「ええ。私は大丈夫です!それより、フランツ殿下が!」

「大丈夫だよ。僕は。ははは。ごめん、レッド。功にはやりすぎたみたいだ」

「…言いたいことはいっぱいあるが…今はいい。ヴィツォークの私邸は自由に捜査できる。後は俺がやるから休んでていい」


ここまで来てほっぽり出すなんてできない。私はフランツ殿下の方を見る。彼の決意も固いようだ。


「いえ、ここまで来たのなら私は最後まで行きます」

「もちろん、僕も最後まで行くよ」

「…フランツ。お前にはやってもらいたいことがある。外の反政府派とここの労働者をEO社の兵士とともに市外に誘導してくれ。市外にポルスカ軍、リエトゥヴォース軍から成るEU部隊が展開してる。そこまで誘導してくれ」


フランツ殿下は暫く黙ると絞り出すように返答する


「……それは確かに僕にしかできないね。…アデルちゃんも連れていった方がいいかい?レッド」

「もちろん。お前と一緒に行動させるのは割と嫌だが…私邸に行くよりは安全だろう」

「お兄様!私は絶対に最後まで行きますわ!」


「レッドモンド君。私は彼女を連れていくべきだと思う」


いきなり、口を挟んできたのはへスリング外部所長だった。この人って別にヴィツォークとか河奈義外部副所長とかとあんまり関係ない人なのかな…センターの所長だし、悪そうではあるんだけど。


「……ずっと俺の後ろにいろよ」

「はいっ!お兄様!」


へスリング外部所長のおかげで行けることになった。そうと決まったら早速行こう!


「アデル、フランツ。まずは治療を受けろ」


た、確かにそれは正論だ…見ればアダルとかも軍服を来た医者とか看護師の治療を受けている。聖職者も出てきて回復魔法をかけてくれてるようだ。私の傍にも女性の看護師の方が来て傷口を消毒してくれる。少しヒリヒリする。ふと、気づくと私の目の前にフェルディナン・へスリング外部所長が片膝立ちをしていた。結構、シワが深く目付きが鋭いせいで怖く見える。


「アデルハイト嬢。これは既に貴女のお兄様には話したのですがな」

「は…はい。なんでしょう…」

「河奈義外部副所長の罪を追求しないでもらいたいのです」


消毒がしみていて少し頭がぼうっとする。罪を追求しない?ここで亡くなった人もいるのに?シスターが近づいてきて回復魔法をかけてくれる。痛みが和らいでいく。


「…でも、亡くなった人もいるんですよ?」

「分かっております。もちろん、交換条件はありますとも」

「交換条件…?」

「はい。センターの運営にホファンブルク改革結社の意思を反映させましょう。おそらく、解任されるであろうヴィツォークの後任の任命はあなた方にお任せしましょう」

「お兄様はなんと?」

「お兄様自身は了承してくださいました。しかし、貴女の決断に従うと」

「私の決断に…?」


なんで兄者は私の決断に任せたんだろう?ここで少ない人が死んでるし…おそらく、河奈義外部副所長は悪い人だと思う…でも、センターを改革できるなら…この話は受けるべきだと思う。


「分かりました。絶対に約束を守ってください」

「ええ。もちろんです。我が祖国の名に懸けて」


そうこうしているうちに皆、準備が整ったようだ。フランツ殿下はマルハレータさんやEO社の半分の兵士とともにぶいとる機に乗って内部の労働者たちと外の反政府派を市外に誘導してくれる。ロベルトさんも着いていくみたい。私と兄者はアダルやジェイソン、ケテテさんと一緒にヴィツォークの私邸を捜索する。EO社の兵士たちと、FBMの兵士も着いてきてくれる。


ようやく初めての改革が終わりそう。最後まで頑張らなきゃ!

読んでくださり、ありがとうございます!感想、募集してます!後編はようやくヴィツォークが倒されたり、あのキャラの幼年期が登場します。12時に投稿するのでぜひ、見てください。今回のおまけはアデルとケテテさんによる異能力についてのお話です。




ーーーーーーーーーー


ケテテ「わ~い。アデルちゃんとおしゃべりだね~」


アデルハイト「やったね!ケテテさん!今回は異能力についていろいろ聞いていこうと思うよ!」


ケテテ「は~い。じゃあ~、まずはこちらの図をご覧ください~」


ーーーーーー

異能力者協会の能力等級


Un級:世界全域に影響を与える異能力

アメリゴ・ヴェスプッチ 【領界開放】

(アメリゴ合衆国 連邦政府特務エージェント)

ユーリィ・ガガーリン【宙光一撃】

(世界革命評議会 宙の革命戦士)

SS級:複数領界に影響を与える異能力

S級:領界に影響を与える異能力

A級:大陸に影響を与える異能力

B級:1つの国家に影響を与える異能力

ヴェロニカ【壁面透視】

(国際連合 特殊部隊 パンドラ・ボックス メンバー)

アデルハイト・ボルクス・スイミット【即抗障壁】

(ホファンブルク王国 ホファンブルク改革結社 メンバー)

C級:戦争の趨勢を変える異能力

河奈義 紫陽花 【治癒障害】

(ホファンブルク王国 義務労働再調整センター 外部副所長)

D級:1つの戦場の趨勢を変える異能力

ミア 【異空収納】

(国際連合 特殊部隊 パンドラ・ボックス リーダー)

E級:複数人に作用する異能力

F級:単体(個人)に作用する異能力

ズザンネ・ボルクス・ヴァース 【定点発火】

(ヴァース家 公爵令嬢)

Us級:日常で便利な異能力


アデルハイト「あれ…この表って思いっきりネタバレしてる?」


ケテテ「あ~…そうかも~」


アデルハイト「ま、まあ、これくらいなら…でも、なんで私がB級:1つの国家に影響を与える異能力なの?後編で覚醒して国一つ守れるようになったりするの!?」


ケテテ「そうかもしれないけど~。実はその基準は第一次世界大戦のころの奴だからあんまりあてにならないんだ~」


アデルハイト「あ、そうなんだ!?今はどういう基準なの?」


ケテテ「アデルちゃんを例に出すと…アデルちゃんは実質、河奈義外部副所長に勝ったでしょ~。だからそれと同等か、上にしてって感じ~。後は、その人がどういう立場なのかって事や~…これまでの経歴、性格を参考にして決められるの~」


アデルハイト「立場って地位、身分ってこと?異能力関係ないじゃん!?」


ケテテ「まあ、実際、技術の進歩で戦場が様変わりした以上、その人がその人自身によってどのくらいいい戦場を整えられるか~、とか、その人の性格でどんなことをするのか~、とかも重要だよ~」


アデルハイト「た、確かに~!あ、そういえば、魔術師ギルドと仲が悪いって書いてあったの見たんだけどホント?」


ケテテ「そうだよ~。代理戦争するくらいには仲悪いね~。一次大戦以来の因縁だからね~」


アデルハイト「確か…魔術師ギルドと仲が良かった連合諸国と迫害されてた異能力者が集まってできたアンホーリィっていう国の戦争だもんね」


ケテテ「今はどっちもそこら辺の国よりでかい巨大組織だし、間に冒険者ギルドとかもあるから表立って殺し合いとかはないよ~」


アデルハイト「魔術師ギルドから命狙われることとかはなさそうで安心したよー。あ、結構喋りすぎちゃったね!そろそろタイトルコールを!」


ケテテ「は~い!」


アデルハイト・ケテテ「第一章 第二話 『悪役令嬢と妹好きな兄者の復興途上』(急・後編)!!」

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