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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
シャマンの戯れ
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96 ナタニア・グラス

「私も、学校の資料を探してみたのですが、やはり中央政権側の記録ばかりで、蝦夷を主体とする記述や記録は、極めて少ないです。特にこの地域は、蝦夷による大きな反乱も少なく、比較的平和に大和政権側に移行していった経緯もあり、記録が少ないのでしょう」


「やっぱり、そうなりますよね。てなると、どうしても小田先生達が今必死に読み解いてる、土地の記録頼みですよね。何か有力な手掛かりが、出てくると良いんですけどね」


「それは、大いに期待したい、ですね」


「やる方は、大変そうっすけどね」


 軽く世間話を交えながら、うさぎは太郎が論文にまとめて行くのを手伝う。そうこうしている内に、多目的ホールに人が集まって来て、騒がしくなって来た。


「発掘調査チームの、休憩時間ですかね?片付けて、場所を空けたほうが、良いでしょうか?」


「そうっすね。先生達も、そろそろ休憩になるでしょうし」


 うさぎ達が資料を集めて片付けていると、若い女性二人に声を掛けられた。


「ここのテーブル、使っても良い?」


 やや特徴的な訛り。外国の人だろうか?二人とも、黒髪だが彫りの深い顔立ちで、目の色がグレーだった。


「はい。大丈夫です」


 うさぎが答えると、髪が長い方の女性が微笑む。


「ありがとう。あなた、綺麗ね。古文書調査の人?」


「いえ、フィールドワークで、地域調査してる者です。同じメンバーが古文書調査に参加していますので、それを待っていました」


「そう。発掘調査には入らないの?」


 彼女は隣の席に座って、手に持っていたビニール袋から、おにぎりを取り出す。連れの女性は、無言で座って、手にしていたお茶を飲み始める。


「興味はありますが、素人ですので、参加は難しいですよね?」


「あら?未経験者でも、知識ある人と一緒なら、参加できる。一緒にやる?楽しいわよ?」


「え?出来るんですか?」


 うさぎは驚いて、太郎の顔を見る。


「でもうさぎさん、午後は解読作業の見学するんですよね?」


「あ、そうでした」


 先程、主催者の了承を経て、解読チームと合流し、午後は古谷達の作業を見学する事になっていた。


「なら、来週来たら?来週の土曜日も、私達、ボランティア参加するよ?」


「ホントですか?」


 うさぎは発掘作業にも、かなり興味があった。太郎をもう一度見ると、太郎は困った顔をしていた。


「すみません、自分も興味はあるんですが。流石に来週は大学の課題やらないと、進級の危機です」


「あら、あなた大学生?どこの大学?」


「自分ですか?自分は東弘大学です」


「じゃあ、私の後輩!私、東弘大卒業生。今は、T大学に入り直して、考古学勉強してる」


「T大学ですか?すごいですね」


「日本に留学して、日本の古代文化に興味出たの。隣の彼女も同じ。ごめんなさいね、彼女、こっち来たばかりで、日本語まだちょっと苦手。英語かヘブライ語なら、オッケー」


「ヘブライ語、ですか」


「そう、私と彼女、イスラエル出身」


「へえ、そうなんですね。何故留学先に、日本を選んだんですか?」


「みんなと一緒。日本文化、面白いから興味あった。アニメとか、日本映画とかで知って。私はナタニア。ナタニア・グラス。あなたは?」


「私、うさぎです」


「うさぎ?ラビット?おう、珍しい、ね?」


「よく言われます」


「こっちの彼女は」


 ナタリアが紹介しようとすると、彼女はにっこり笑って自分から名乗ってくれた。


「私は、ダリア。よろしくお願いします」


「はじめまして」


「あ、自分、百瀬太郎です」


 太郎も、ぺこりと頭を下げる。


「おー、モモタロウみたい!よろしくね」


 ナタニアとダリアは、食事をしながら、発掘調査の事を色々教えてくれた。基本は、丁寧に土を掘り返して行く地味な作業なので、近くに出没物を確認してくれる人がいれば、素人でも問題なく、むしろいくらでも人手は欲しいそうだった。


「古谷さん達は、来週もここで古文書調査でしたよね?一緒に来て、その間発掘調査に参加したら良いんじゃないですか?」


「そう、ですね。とても、興味あります」


 うさぎが目を輝かせるのを、ナタニアとダリアは、嬉しそうに微笑んで見ていた。



「お待たせー。ご飯食べに行きましょー」


 ようやく、小田達が戻って来た。よほど棍を詰めているのか、三人共疲労の色が濃い。


「では、ナタニアさん、ダリアさん。来週9時頃ここで待ち合わせで、大丈夫ですか?」


「オッケー。一応、私の電話番号、これね」


 ナタニアは、素早くメモに番号を記して、渡してくれた。


「ありがとうございます。では、また来週、です」


 礼を言って、振り返る。古谷と目が合った。古谷は珍しく、眼鏡をしていた。


「何?今日知り合ったの?」


「はい。来週の土曜日、発掘調査に誘って頂きました。興味があるので、参加してみようと、思います」


「ふうん。発掘調査って、すぐそこのだよな?」


「はい。もちろん」


「なら、大丈夫か。来週も俺らと一緒に来て、同じ時間に帰る感じで大丈夫?」


「はい。それで、お願いします」


 古谷の了承も得て、うさぎは上機嫌だった。


「発掘調査って、誰でも参加できるの?」


 谷川に聞かれて、先程ナタニアに教えてもらった事を伝える。


「慣れてる方が同行すれば、大丈夫だそうです。とても人手が必要だと、おっしゃってました」


「だろうねー。根気のいる作業だ」


「はい。でも、楽しみです。良い経験に、なりそうです」

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