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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
シャマンの戯れ
93/267

93 三本の腕

 次の日の朝、上機嫌で古谷が出勤すると、異様に重苦しい空気が、職員室内に漂っていた。


「やだー、空気悪いー」


 ぼやく古谷に、同期の葉山風香はやまふうかがこっそり教えてくれた。


「ヤバいわよ、普通に。今日学校運営するか、教頭先生、激悩み中。どうするか、近くのM校に聞いてみるって。ちなみに 当事者の在籍していたS校は2日間休校だって」


「え?何で?犯人はもう出頭してるんでしょ?なら、ウチは大して関係なくない?」


 古谷も小声で答えると、葉山はブンブン首を振る。


「それとは別に、ヤバい案件が上がってるのよ!昨日、 S校生徒の遺体上がったでしょ?その時に、腐敗が酷くて、腕がもげて無くなってたんだって。そんで、その腕捜索してたら、2本どころか、3本見つかったんだって!」


「え?何で増えてんの?」


「知らないわよ!」


 怪奇現象である。つまり、他にも遺体が沈んでると?


「他にも、事件の被害者がいるって事?」


「そう。あるいは、無関係な遺体が、偶然上がったのか。今、警察の方で、出頭して来た子供達に詳しく聞いてるけど、まだほとんど何も分かってないって」


 で、近隣学校であるウチはどうするか、教頭が悩んでると。


「休んだって、しょうがなくね?部活の生徒達は、もう来るわけだし」


「まあね。でも、強行すると騒ぐ保護者も多いしさ」


「だよねー」


 とはいえ、する事も無いし、授業の準備をしないわけにも行かない。何か決まったら呼んでくれと、葉山に頼んで、古谷は社会科準備室へ向かう。朝から天気も悪く、さっきの上機嫌はどこへやら、憂鬱な気分にすり替わる。


「昨日は楽しかったのになー」


 うさぎと一緒にチャーハンを作り、卵を入れ過ぎて怒られながら、楽しく夕飯を食べた。指輪を着けてて欲しかったので、洗い物は全て引き受け、始終下らない話をして、少しの時間を過ごした。おやすみと挨拶して別れ、帰りにコンビニでビールを買って帰り、慌ただしい一日は終わった。実に良い一日だった。


ーま、徒歩で行ける範囲に住んでてくれるのは、ありがたいな。


 何かあれば、すぐに駆けつけられる。いざとなれば、谷川も近くにいる。


ーそういえば、谷川は何か知ってるかな?今回の件。


 市役所勤めの友人なら、また別のベクトルで、情報を持っているかもしれない。後で連絡してみよう。


 教頭先生はオロオロしているようだか、おそらく今日からは、学校も通常運転だろう。昨日に引き続き、下校の引率くらいは、出来ると良いが。そしたらまた、何やかんや理由をこじつてけ、うさぎの家まで着いていく。


「いいなー。同棲したいなー」


 願望を押し隠す事なく、素直に呟きながら社会科準備室の扉を開けると、すでに来ていた日本史の岩渕先生が、びっくりした顔でこちらを見て来る。


「おはようございます、古谷先生。朝からどうしたんですか?」


「おはようございます、岩渕先生。すみません、朝から願望がダダ漏れてました」


「彼女さんですか?一緒に暮らしたいんですか?」


「はい。まだ、空想上の彼女ですが」


「すみません、余計な事聞いちゃいました。いやあ、昨日は大変でしたね。古やん、送迎担当されたんでしょ?」


「いえいえ。自分家の方向の生徒達だったんで、そんな大変じゃなかったですよ。ぶっちゃんは、学校待機だったんでしょ?何時に帰れたんですか?」


「こっちも、大変では無かったよ。一応、保護者の電話対応で、8時までは残ってたけど、心配する程も、問い合わせは来なかったよ。それより、S校はこれから大変な事になりそうだよ」


「え?そうなんですか?加害者も、やっぱりS校の生徒だったり?」


「そう。ウチの甥っ子が、たまたまS校の、被害者と同じ学年でさ。詳しく昨日聞いたんだけどさ」


 岩渕の話では、被害者は、S校でイジメのターゲットにされていて、不登校気味だったそうだ。その事は、教員達も知っていたけど、特に何か手を打っていた訳でもなく、イジメグループは調子に乗って、段々エスカレートして行ったらしい。


「で、海岸に連れ出して、三人がかりでリンチして、堤防から海に飛び込ませたらしい。本人達は、遊びの延長だと主張してたけど、遺体には、酷い外傷が残っていて、ホントはリンチの末に殺害してしまい、証拠隠滅の為に海に落としたんじゃないかってさ。或いは、最初から殺すつもりで、海に連れ出したんじゃないかとも言われているそうだよ。それくらい、加害者はヤバい連中だったらしい。まあ、詳しくは、解剖結果待ちになるだろうけどね」


「なんか、予定より多く腕がみつかったって、聞いたけど?」


「ねー!それ、何なんだろうね?仙台も、物騒になったよね」


 腕の件は、さすがに岩渕もよく知らないようだった。


「それにしても、三人がかりで、海岸でリンチねー。イジメじゃねえだろ、それ。普通に傷害事件だよな。何で、学生ってだけで、犯罪を『イジメ』なんてマイルドな言葉で誤魔化そうとするんだろうな?ガキだって、大罪は犯せるのに」


 古谷の言葉に、岩渕も渋い顔で頷く。


「更生の機会をって言うけどさ。更生するには、まずは自分の犯した罪を、ちゃんと理解できなきゃ、更生すらままならないよね。傷害も殺人も、強姦もセクハラも、モラハラも窃盗も、何もかもいっしょくたに『イジメ』で認識させてたら、いつまで経っても、罪の意識を持たないままだ。よくない言葉だよ、『イジメ』って」



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