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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
シャマンの戯れ
92/267

92 今夜は冷凍餃子です

 間も無く、うさぎの住むマンションへ到着する。これまで何度も送ってもらった事があるので、古谷は場所を熟知している。なんなら、部屋に上がってお茶を飲んで行った事すらある。


「着いちゃいましたね。ありがとうございます」


 一応、礼を言うが。古谷は玄関ホール前から、動こうとしない。


「先生?」


「寒いですし、上がってお茶でもどうですか?と、誘われるのを待っている」


「ええ……あれ?でも、学校に戻らないとなんですよね?」


「そんなの嘘に決まってるだろ。見ろ、この荷物。帰宅する気概しか感じないだろうが」


「え?そうなんですか?」


「戻るとでも言わなきゃ、一番家が近いうさぎを、最後に送って行くの不自然になるじゃん?」


「……大人って」


「てな訳で。いつもより早く帰宅できて、俺はルンルンなの。分かった?」


「はあ。では、お茶でも、飲んで行きますか?」


「よし!」


 ここでグダグダしていて、他の住民に見られても面倒なので、さっさと古谷を連れてマンション内に入る。高い所があまり得意でないうさぎは、3階の部屋に居住していた。角部屋なので、気に入っている。


「あー、寒かった」


「今、エアコン付けますね」


「おー、サンキュー。うさぎさあ、石油ストーブ買ったら?あれあったかいよ?灯油なら、俺買って届けてやるし。ウチの隣ガソリンスタンドだし。今度の休み、一緒に買いにいく?」


「流石に、そこまでしてもらうのは、悪いです。それに、コタツもあるので、今のところは大丈夫ですよ」


 言いながら、コタツの電源も入れる。流石に東北の冬は寒いが、何とかエアコンとコタツで凌いでいた。


「そうかー?ウチで余ってるの持って来てやろうか?欲しい時は、いつでも言って」


「はいはい。コーヒーか紅茶しかありませんが、どっちが良いですか?古谷さん」


「あ、俺淹れるよ。うさぎは、手を洗って、アレ着けて来てちょうだい」


「アレ、ですか?」


「そう、アレ」


 うさぎは頬を染めながら、脱衣所で手を洗うと、鏡の前に置いてある指輪を手に取る。シンプルだが、美しいダイヤの付いたプラチナの指輪だ。


『無理です!受け取れません!こんな高価な指輪、着けてる高校生なんて、いません!』


 クリスマスイヴ、戸惑ううさぎに構わず、古谷は自らの手で、うさぎの指にその指輪をはめた。かなり強引に。


『なら、家の中だけでいいよ。帰って来たら、着けて』


 そんなやり取りの後、指輪を受け取ったうさぎは、約束通り家でのみ、その指輪を着けている。夜、執筆をする時も、常に。


 その指輪の意味を、古谷は決して語らないけれど。軽々しい意味で無い事は、分かる。


『必要無くなったら、ちゃんと俺が回収するから、気軽に受け取ってよ』


 そんな事を、冗談っぽく言いながら。




「うさぎもコーヒーで良かった?」


 うさぎがリビングに戻ると、丁度ケトルのお湯が沸き、古谷がドリップ式のコーヒー豆を準備している所だった。いつぞやの、古谷の手土産だ。コーヒー専門店で買ったそうで、とても香りが良く、うさぎも気に入って飲んでいる。


「はい。大丈夫です」


 古谷はうさぎの指に光る物を確認し、満足そうにニヤける。


「あ!テレビつけて。今日の事件、やってるだろうから」


「はい。どのチャンネル見ます?」


「OH!バンデスにして」


「あ、はい」


 テレビをつけて、ミヤギテレビを選択する。地方番組で、丁度、明日の天気予報が終わる所だった。コーヒーの良い匂いが漂い、部屋も少し暖かくなって来た。先にコタツに入って待っていると、コーヒーカップを二つ持った古谷も、コタツに入る。


『続いては、先程からお伝えしております、仙台市内沿岸で発見された、若い男性の遺体の件で、続報が入りましたのでお伝えします!』


 テレビのアナウンサーが、いつもより少し早口で、手元に届いた資料を読み上げる。


「あ、丁度、このニュースですね」


『つい先程、時刻にして17時15分、仙台泉警察署に、事件に関与したと思われる未成年者3名が、保護者に伴われて出頭したとの発表がありました。繰り返します』


「お?犯人見つかったのか?」


 17時15分頃というと、丁度うさぎ達が、図書館エントランスに集合していた時間帯だ。


「なら、明日の休校は免れそうですね」


「だな。泉警察署か。近いな。やっぱりS校の生徒だったのかなー」


「そうですね。やはり加害者被害者共、未成年者のようですので、詳しくは報道されないみたいですね」


 ニュースでは、出頭して来た未成年者3名に、詳しく事情を聞いているとの事で締めくくられていた。


「こういうのは、SNSの方が、早いですかね」


 うさぎはスマホを覗いてみる。事件についての呟きは、すでに乱立していた。


「 S校の男子生徒っていうのは、間違いなさそうですね。1週間前から、失踪していたみたいです」


「まあなあ。他にも、市内で失踪している高校生が、いるみたいだな。そっちはどうなった事やら」


「そうですね。あまり、気にした事、無かったですけど、未成年者の失踪って、よくある事なんですかね?」


「んー、そうねー。日本の年間行方不明者数は、だいたい8万人だったかな。で、うち10代は1万5千人くらいだったから、全体の18%くらいか?まあ、多いわな」


「そんなに、いるんですね。身近にいなかったので、あまり実感が、無かったです」


「まあなー。出頭して来たのも、若い奴らみたいだし、虐めの因果か、何か少年犯罪にでも巻き込まれたか。どちらにせよ、碌なもんじゃないわな」


「怖いですね」


「……不安なら、今夜は泊まって行こうか?」


「いえ、けっこうです」


「もう外行きたく無い。コタツから出たく無い」


「あ、雪降って来ましたね。どうりで寒いわけです」


「今日の晩御飯、何?」


「え?今日ですか?冷凍餃子を買って置いたのでそれと、余ったご飯でチャーハンにでもしようと思ってます」


「俺、中華、好きー」


「もしかして、あつかましくも、食べて行こうと、してます?」


「俺、中華、好きー」


「もー!食べたら、さっさと帰って下さいよ?」


「やったー」


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