表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
姫君の鬼胎
9/267

9 姫神の加護

 話は、御堂を建て直した一年後に移る。


「お堂を建て直したのは、2010年の3月。その一年後っていうと、何があったか、覚えてるかい?」


「地震」


 東日本大震災。2011年3月11日。


「正解。そして、福島といえば、もう一つの悲劇が起きた」


「原発事故」


「そう。事故があった福島原発から、ここまでおよそ50キロ離れてる。にも関わらず、地形と風の流れの影響で、ここまで高い放射線が届いた。あの時の絶望感といったらなかったさ。この辺は農業地帯。汚染されれば、生活は壊れる。土が除染されるまで、何年掛かるかも分からないと言われた。死ねと言われた様なもんさ。そんな最中、国の指示で、各大学や医療機関が、各地の放射線量を綿密に測るってんで、色んな人達が放射線量測定器を持って、防護服着てあちこち線量を測って回る様になったんだがね。みんな口を揃えて、驚きながらこう言うんだよ。ここを境に、一気に数値が下がるって」


 ここ、とは。

 斉藤さんは、横にある道路を指差している。東に伸びる県道。さほど広い道でもなく、片側1車線で、歩行者がいるとやや手狭に感じる程度。古谷達も、来る時はひたすらこの道を登って来た。道に沿う様に、穏やかに沢が流れる。川の向こうは、山の断面が迫る。人の立ち入りを許さない、険しい山だ。


「この県道は真っ直ぐ東に伸びている。山を登り、越えていくと、やがて海に着く。この先の山の山頂に登ると、天気が良ければ海が見えると言われている」


 海。太平洋。その海岸沿いに件の原発はある。


「俺らが子供の頃は、車なんて滅多に無かったから。この道を自転車でずっと走って行けば、海に辿り着けるなんて、夢見てたもんだよな」


「今じゃ、自転車で行けなんて言われても、死んでも嫌だけどな」


「いや、実際ジジイじゃ死んじゃうよな」


斉藤さんと松永さんの、ジジイトークである。


「ま、そんな道だからさ。真っ直ぐ山から下って来てるし、別にここが谷間な訳でもない。どう考えても、ここで風の流れが変わる訳ないのさ。それなのに、まるで見えない壁が、ここに。このお堂の位置から壁が生えているかの様に、線量が変わるんだそうだ。偶然でも、故障でも無さそうだった。何故なら、他の研究機関の連中が、違う測定器持って来て測っても、同じ結果になる」


「日付が違っても、ですか?」


「そう。みんなバラバラに、いろんな日に来てたし、風向きも毎回違ったと思う。だから、測ってる研究員や役所の人達が、こぞってびっくりしたんだろうな」


「その話は、初めて聞いたわー」


 小田も、驚いた様子だった。


「この、側道からの風、とか?」


 うさぎも、小首を傾げる。

 柔らか風が、丁度県道に向かって吹いた。黒髪がふわりと靡く。


「だとしても、立派な神風だな」


 古谷も珍しく、迷信じみた台詞を吐いてしまう。


「分からんけどねー。もっと科学が発展したら、いつか解明されるのかも、しれんけど」


 でもね、と松永さんは続ける。 


「俺らは、行来姫が助けてくれたんだと、思ってる。こうなる事を知っていたから、力を蓄える為に、姉妹に助けを求めたんじゃないかなー、なんてね」


この小さな町は、姫神様の加護の元、今もささやかな営みを、続けているのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ