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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
シャマンの戯れ
89/267

89 完全なモノ

 少女は、眠る様に死んでいた。

 

 温かい湯船ゆぶねの中に身をひたしているので、死人とは思えぬほど血色けっしょくがいい。だだ、おびただしい量の血が手首から流れているので、せるような悪臭が浴室内を満たしていた。手首の血は絶えずシャワーで流しているというのに、この臭いだ。


「美人でも、臭いものは臭いのね。なんか、がっかり」


 浴槽よくそうのへりに腰をおろしながら、ナタニアはぼんやりと、もの思いに耽る。


 でも、もうすぐ人ではなくなり、『完全なモノ』に成る。そうすれば、永遠の愛が得られる。それは、この少女が望んだモノでもあった。


「上手く、切れるかな。この子、思ったより、太い首してるのね」


 手にした注射器を、丁寧に新聞紙に包んで捨てる。試した事は無いが、風呂で体温を上げてから注射すると、凄まじい高揚感を得て、痛みや恐怖を感じなくなるという。実際、少女は自ら手首を切っても、動揺する様子も無く、ぼんやりと流れる血を眺めていた。そして、眠る様に死んでいった。彼女が望んだ死に方だ。


 ここから先は、私の望み。


「切れるかなー」


 ネット購入したノコギリしか、道具は無い。


「始めよっか」


 ナタニアは、永遠の恋人に微笑み掛ける。


「綺麗に、切ってあげるからね」


 でも。


ー首から下は、どうしよう。要らないのよね。


 ノコギリの調子が良ければ、四肢も切って、海に捨てて来よう。


 それにしても、臭い。


 何とも形容し難い、生臭さ。どれほど時間が経っても、この臭いに慣れる事は無かった。

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