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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
シャマンの戯れ
88/267

88 博物館にて

「大海人皇子は、壬申じんしんの乱の時も、式盤ちょくばんを使って戦の先行きを占ったと言われている。また、一説には、額田王ぬかだのおおきみもまた、有力な巫女であったとされている」


 古谷の言葉に、うさぎは小さく首を傾げる。


式盤ちょうばんとは?」


「天文現象から吉凶を占う道具だよ。真ん中に、北斗七星が描かれている。式占しきせんとも呼ぶ」


「天文現象から……占星術せんせいじゅつって事ですか?」


「厳密には、少し違うかな?おそらく、天文と干支を使って占う六壬神課りくじんしんか。西洋占星術はバビロニア発祥と言われているから、当時日本に入って来ていたのは、中国発祥の東洋占星術の方だろう。所謂、陰陽道のルーツだ」


「なるほど。星占いにも、いくつかのルーツが、あるんですね」


 古谷は笑う。二人で星空を見たのは、夏の事だったか。


「額田王も?巫女だったのですか?」


「一説に過ぎない。ただ、この場合は祭事を取り行う女官、という見方が有力かな」


「額田王は、元々は朝廷勤めの女官だったからね。祭事用の歌人だったとも言われている。さて、優生君、そろそろ戻らないとね。午後のお勤めが待ってるよ」


 七海が時計を見る。古谷は「あー」と首を鳴らした。


「もうそんな時間かー」


「うさぎさん、すまないけど、引き続きマグロを預かってもらえるかい?」


「はい!もちろん。午後は、多賀城の方に、行ってみようと、話してたんです」


「多賀城?」


「はい。住民の方に、東北歴史博物館へ行く事を、勧められました。そちらで、イシズ塚の史料が、いくつか読めるはずだと」


「ああ、なるほど。多賀城冊の事も、一度調べてみるのもいいだろうね。この辺一帯とは、因縁があるだろうから」


 七海も頷く。


「車、マグロ乗せるだろ?俺の車のキー、預けとくか?」


「あ、車は、百瀬さんが出してくれるそうです。マグロも、全然問題ないと、言ってくれてます」


「すまないねぇ」


「わふー」


 七海に合わせて、マグロまで情けない声で鳴く。


「じゃ、青少年会館に戻るか。終わりは4時でしたっけ?」


「ああ、さっきの話だと、個人の都合に合わせるけど、出来れば4時までって感じだったね」


「長いなー。あと3時間か。どれ、頑張るか」


 車から降りて、各々体を伸ばしてると、向こうから歩いて来る太郎と穂積の姿が見えた。


「じゃ、うさぎ達も、引き続き現地調査、頑張れよー」


「はい。行って来ます」




 ※※※※※


 東北歴史博物館は、遺跡からさほど遠くない、多賀城市の中心部に位置する。かなり巨大な施設で、宮城県だけでなく、東北全体の歴史史料を保管する、人文科学系総合博物館である。


「非常に、興味深いです。今度、個人的に来てみます。どうして今まで、ここの事、知らなかったのでしょう。悔やまれます」


 うさぎは、はかはかしながら、館内を眺める。残念ながら、今日は中をゆっくり観覧する時間はない。車にマグロを待たせてもいるし、早々に要件を済ませなければならない。


 うさぎ達は、ひとまず総合案内所で事情を話し、施設の職員に話を通してもらうが、今日今すぐに、関連史料を閲覧する事は敵わなかった。ただ、中から担当職員の方がわざわざ出て来て、話をしてくれた。


「確かに岩森遺跡の史料は、多数保管されてますね。イシズ塚も記録はあります。自分は担当区画ではないのであまり詳しくないけど、担当に少し聞いといてみますね。史料は展示されていないので、見るには予約を取っていただく必要があります。あと、申し訳ないのですが、平日の午前か午後、どちらかでお願いします。土日祝日は、受け付けておりません」


 午前は10時から、午後は16時まで、との事。そうなると、普段学校のうさぎや、東京で会社勤めしている穂積には難しい。


「自分、やりますよ。大学の講義少ない曜日に予約するんで、大丈夫です。予約は、電話でもいいですか?」


「もちろんです。こちらの名刺に番号が載ってますので、直接ご連絡下さい。都合が合えば、詳しい担当者に対応させます」


「ありがとうございます!なるべく早く、連絡します」


 太郎達は丁寧に礼を言って、博物館を後にする。



「博物館の研究員も、憧れるなー」


 うさぎと太郎は、後ろ髪引かれる思いで、広い駐車場を歩く。太郎のぼやきに、うさぎは尋ねる。


「百瀬さんは、研究職、希望ですか?」


「はい。大学院までは、進むと決めていますが、その後大学に残るか、あるいはここみたいに、博物館や歴史資料館などの専門機関に就職するか、迷ってるんですよね。希望としては、大学に残りたいのですが、自分、あんまり論文書くの、得意じゃなくて」


「それこそ、ZAIYAで論文を書く回数を重ねて、練習しては?毎回、小田先生や谷川さんが書いてますよね。あ、この間は、古谷さんでしたかね」


「そうなんですけどねー。苦手意識が強すぎて」


 穂積に言われて、太郎はバツの悪そうな顔をする。


「まあ、苦手な人は、ホント苦手だって言いますもんね。うさぎさんは、文章書く時どうしてます?何か、工夫してる事ありますか?」


 穂積に問われて、うさぎは小さく頷く。


「あ、うさぎさんは、文章書くの得意なんですか?」


得意も何も、本職のプロである。穂積は苦笑いを噛み殺す。


「そう、ですね。参考になるかは、分かりませんが。私の場合、頭の中に出て来る単語や、書きたい事を、単語帳にメモして行きます。そして、それをバラバラにして、構想に合わせてメモをグループ群に分けて、その中でさらに描きたい順に並べて、最後に文章にまとめます。スマホのメモ機能でも、似たような事ができますが、私は単語帳に手書きして、手元でカードゲームの様にまとめて行く方が、イメージが纏まりやすい、です」


「な、なるほど」


 太郎は慄きながら、ゆっくり頷く。


「た、確かにそれなら、文章がとっ散らかり易い自分にも、向いてるかもしれないです」


「どれだけプロットが綺麗に整理できるかで、勝負は決まります」


「勉強になります」


 太郎の隣で穂積が、生真面目な顔で頷いていた。


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