85 シャマンと最強の戦士
「午後になったら、東北歴史博物館に行ってみますか?」
老人ホームを出た所で、時計は11時40分。もうすぐ集合の時間になる。太郎はメモを振り返りながら、今後の予定を考える。
「そうですね。イシズ塚の詳細を知りたいですね。あまり地元の口伝としては、詳細は伝わってないようですしねぇ」
「アテラ様も、気になりますね」
「老人ホームでも、知る方は少なかったですね」
巫女姫の伝承を知っていたのは、わずか二人。いずれも、あまり詳しくは知らないが、非常に強い霊力を持つ巫女姫として、言い伝えられているようだった。
「面白そうですけどね。シャマンと最強の戦士。どうして今までフィーチャーされなかったんでしょうね?」
太郎の疑問に、穂積も首を傾げる。
「どうしてでしょうね?史実としては、輪郭がぼんやりしてるからでしょうか?」
「もうすぐお昼ですし、小田先生達の意見も聞いてみましょう。何か知ってるかもしれないですし」
「そうですね。うさぎさん、何か気になる事が無ければ、青少年会館まで戻ろうと思いますが、いいですか?」
「はい。大丈夫です」
マグロのリードを握りながら、うさぎは頷く。老人ホームのご厚意で、マグロは足を拭いて、エントランスの暖かい場所で待たせてもらい、入所中のが老人達に、大層可愛がられていた。中には手放した飼い犬を思い出して、涙を流すお婆さんもいて、賢いマグロは、優しく側で慰めてくれていた。
「この地では、昔から犬と馬は神聖なものとして、大切にされていたのよ。狩りをする時も戦の時も、人間の側で、大切な相棒として助けてくれたわ」
そんな事を、老人達はマグロを愛でながら教えてくれた。
「蝦夷の事も、少し詳しく学びたい、です。確か、非常に勇ましい部族で、馬術と弓術に長けていた、と聞きます」
「その辺の事は、小田先生も詳しかったはずですよ」
太郎が誇らしげに言うも、うさぎは首を振る。
「それは分かるのですが、あまり、小田先生達の知識に頼るのは、ZAIYAとしても、良くないと、思います。ここは、小田先生のゼミでは、ないのですから。先生と同じ、在野の研究者として、ちゃんと自分の力で、調べ上げる事も、大切だと思います」
生真面目に言ううさぎに、太郎はパリパリと頭をかく。
「おっしゃる通りですね。自分もここでは、生徒である事を忘れなきゃ。ついつい、甘えてしまってダメですね」
「ダメなわけでは!ただ、私達のやる事は、小田先生達と同じだと、思うんです。古文書が読めなくても、史実を調べる事は、できます。もちろん、読めた方が良いし、私も、読めるように、なりたいのですが」
「分かります。まず自分達は、自分達にできる事を、ですね!」
太郎は拳を握って見せる。うさぎは嬉しそうに頷いて、頑張りましょうと、笑顔を見せた。穂積は、安堵しながら二人を見守る。少し前まで、何となくぎこちなかった二人だが、すっかり打ち解けて、良いチームメイトとなっていた。これ以上親しくなると、古谷が煩いので面倒くさいが、太郎は堀宮萌音に想いを寄せているようなので、あまり心配はないだろう。




