8 夢のお告げ
「すごいんだよ、このお堂。あるご婦人達が、寄付で建て替えてくれたんだ」
「え?寄付?個人の寄付でですか?」
それが本当なら、すごい事だ。
神社や御堂の建替えは、普通の家の建替えとは、まったく異なる。神仏専門の技術をもつ宮大工が必要になるし、手作業なので時間もかかる。小さな御堂といえど、数百万は掛かる。
「寄付されたのは、氏子の方なんですか?」
「いいえ。それが、まったくこの土地に縁もゆかりもない、関東在住の姉妹の方々だったんです」
斉藤さんは、自慢げに、ふふんと鼻を鳴らす。どうだ!うちのお姫様すげえんだぞ!と、いうところだろうか。愛らしい信仰心である。
「縁ゆかりもないのに、何故?」
穂積が、身を乗り出して聞いて来る。もはや手は止まっていた。見ると七海が穂積のハサミを借りて、隣でチョキチョキ続きを切り始めた。
「それがねえ、すごいんだよ」
ゴクリと穂積が喉を鳴らした。斉藤さんも、何だか嬉しそうだ。
「夢を見たそうなんだ」
『夢?』
穂積と谷川、そしてうさぎの声がハモった。斉藤さんのほっぺたが、ピンクに染まった。
「ご年配の姉妹で、同じ関東でも、別々に住んでるそうなんだけどね。同じ日に、2人同じ夢を見たんだそうだ」
「2人とも?」
穂積は、正座して身を正して聞き入っている。隣で七海が、慣れた手つきで敷紙を折り始めた。
「そう。なんでも、夢の中で、大変高貴なお姫様が、泣いているそうだ。どうしたのかと聞いてみると、屋根が壊れて、雨漏りしていると。その雨で着物が濡れて、とても寒いから、助けて欲しいと言うのだそうだ。場所は福島、折月町」
「行来姫様が、夢に」
「すごい」
うさぎも、目をキラキラさせて、聞いている。
「そんで、何日か後に、姉妹が会った時、こんな不思議な夢を見たと話したら、お互い全く同じ夢を見ていた事に気付いたそうだ。で、これは只事ではないと。2人でこの地を訪れて、神社ともう一箇所のお堂と、ここを見て、ああ、間違いなくこのお堂だと。夢で見たのと同じだとおっしゃったんだ。んで、ワシらも怖くなって。んな、屋根なんて壊れてねえけどなあって思いながら調べてみたら。ホントに屋根の一部が腐って歪んでて、隙間が開いてて、雨垂れの跡があったんだよ。あれを見た時は、びっくりしたぞー」
「ほら、この掛け軸。今外したけど、正面の壁の、真ん中さ飾ってあるヤツなんだ。ここ見てみれ」
古い掛け軸。何らかの文字と、十二単衣のお姫様が描かれている。その左下、十二単衣の裾辺りに、濡れたシミ後があった。
「濡れてる!」
「着物が濡れてますね!」
谷川と穂積が、興奮気味に叫ぶ。
「これ見つけたのオレだけど、震えたよねー」
松永も、何だか楽しそうに笑う。
「こんな事、あるんだなーって。ほんで、姉妹さんに出してもらうだけじゃ駄目だろうから、氏子も寄付集めて、そん時は、役場の方でも、修繕費いくばくか工面してくれたから、それで全面建て替えたんだよ」
「すご…」
話を聞いて満足気な面々に対して、斉藤さんは更に凄んだ。
「それだけじゃ、ないんだぞい?」




