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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
火取蛾の恋
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79 フィールドワーク

 穂積と勢司が、小説の話で盛り上がっている頃、相変わらず小田が、さやかに質問攻めにされていた。やはり藤井真幸の事を聞きたがっているが、小田も語れる程親しいわけでもないようで、あまりお互いにとって実のある会話にはなっていないようだった。見かねた谷川が、何度も話題を変えようとするも、そもそも本来の目的が藤井の情報収集であると見受けられるさやかは、しつこく話を振り返し、隣で染香が、白けた顔で酒を煽っている。


「うわあ、ひでぇ有様」


 勢司も、向こうの様子を眺めて苦笑いする。


「さっきの話し振りだと、小田先生より染香さんの方が、藤井代表と親そうなんですけどね。どうして斎木さんは、染香さんに聞かずに小田先生に聞こうとしてるのでしょう?」


 穂積が本気で分からず、首を傾げていると、勢司は小声で答えてくれる。


「そりゃ、女の嫉妬だろう。藤井さんの事は知りたいけど、藤井さんと同年代で、親しそうな美女にマウント取られるのは、斎木さんのプライドが許さない」


「ええ?面倒くさいものですね、乙女心というものは」


「まあ、染香姉さんも、わざわざ答えてやる気もないだろうしね」


「染香さんは、藤井代表とは実際親しいんですか?」


「まあ、親しいだろうな」


 勢司は言葉を濁す。首を傾げる穂積に、うさぎがそっと耳打ちした。


「染香さんは、藤井代表の奥さんです。私の事情も、藤井さん経由で、知ってらっしゃいます」


「え?そうなんですか?」


 驚く穂積に、勢司は苦笑いする。


「なんだ、うさぎさんは知ってたのか。一応、周りには伏せてるみたいだから、あんまり話題にしないようにね」


「はい。お互い、立場のある方々ですからね。気を付けます」


 うさぎが真面目な顔で頷くと、勢司は満足そうに笑う。


「大人だね、うさぎさんは」


「染香さんは、仙台にお住まいですよね?」


 確か藤井代表は、東京在住のばず。新婚だが、別居婚なのだろうか。さすが多忙を極める夫婦。そこまでして結婚するのだから、よほど惹かれあったのだろうか。


「はい。なので、私の事も気に掛けて下さって、引っ越してしばらくの間は、色々世話をして下さいました」


「そうだったんですね」


 確か、穂積の上司である石井は、藤井代表と懇意だったはず。その繋がりで、染香によろしく頼んでいたのだろう。それなら、教えてくれていれば良かったのに。


「ただ、染香さんは、ご多忙なので、中々ZAIYAの活動には、参加出来ないそうです。今回は、私の為に、特別に時間を作って、下さいました」


「そうですよね。社長さんですものね」


 うさぎも、迷惑を掛けていると思い、恐縮している様子である。ここは早く自分がシャンとして、うさぎに安心して執筆活動に取り組んでもらえるように動く必要がある。


「今度からは、僕が自由に動けるように、いつでもスタンバイしてますので、安心して下さい」


「ありがとうございます。すみません、穂積さんのせっかくの休日を」


「大丈夫ですよ!他に休みはありますし、それに、結構楽しいです。ZAIYAの活動!僕、結構性に合ってるみたいで」


「そうですか?」


 うさぎは、ほんの少し頬を染めて、嬉しそうにする。


「そう言ってもらえると、嬉しいわー」


 小田の元気な声が、頭上から落ちて来る。見上げると、ビールジョッキ片手に、小田が移動して来ていた。いつの間にか勢司が向こうの席に移動して、小田を解放してくれていたらしい。向こうのテーブルでは、勢司がさやかに話し掛け、さやかも満更では無さそうに答えている。空気が穏やかになり、谷川と染香も二人で和やかに会話を交わしていた。


「事情があるにせよ、穂積さんに、いやいや付き合わせてたら、悪いなーって思ってたのよ。ねぇ、うさぎさん」


「はい。私のわがままのせいですので」


「いえいえ。僕の仕事にも、少なからず良い経験になると思います。僕はずっと、学生の頃から編集者になる事ばかり考えていたので、こういう学問や世界、或いは、非営利の研究活動がある事自体、考えた事もありませんでした。だから、視野が広がるという観点でも、すごく良い経験になると思います。あと……」


 少し照れたように、穂積は笑う。


「遅れて来た青春って、感じもします。僕、部活動もサークルも、ボランティアとかも、ほとんどやって来なかったので。他の人と一緒に何かするって、すごく新鮮です。活動の後に、こうしてみんなとお酒飲むのとかも」


「確かに、部活動っぽいかもねー。ウチは特に、谷川君や古谷君が、そういう雰囲気作ってくれてるからねー。あ、古谷君は今いないけどー」


「あえて、ですか?」


「そうねー。ウチは特に年齢層も広いし、みんな移動距離も長くて大変だからねー。ちょっとしたお楽しみ混ぜ込みながら、また次の活力になるように、あれこれ気を回してくれてるみたいよー。今回はビジネスホテルだけど、いっつもは安くて良い旅館や民宿なんかを、探して手配してくれたりねー」


「ああ、言ってましたね。今回は、メンバーがなかなか確定しなくて、押さえられなかったって」


「みたいねー。次は期待しておいて。谷川君忙しかったら、アタシが探しとくわー」


ーちょっと、楽しみだな。次も、うさぎさん参加するって言ってくれるといいな。


 穂積は胸をワクワクと高鳴らせる。


ーフィールドワーク、か。


 東北は遠いけど、知らない事が沢山詰まっている、楽しい時間となった。




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