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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
火取蛾の恋
76/267

76 夜蛾

 夜7時から宵の踊りは始まり、かれこれ2時間が経とうとしていた。当ZAIYAの女性メンバーは、元気に踊り続けている。町の女性は毎時間五〜七人程度で集まり、一時間ほど踊ると次のメンバーと交代する。


「元気ですねー、ウチの女性陣」


 二時間たってもまだまだ切り上げる気配のない女性メンバーを眺めながら、穂積はイカ焼きを齧る。実は2個目だった。美味すぎた。


「そうだねー。なんやかんやで、お祭り好きだからねー、うちの小田先生は」


 谷川はにこやかに笑いながら、こちらも暇つぶしにたこ焼きを頬張っている。勢司は意外にも仕事熱心で、ずっとあちこち立ち回りながら、撮影を続けていた。ピンクの頭の割に、真面目な立ち振る舞いに、少し意外性を感じる。


「谷川さんは、ZAIYAの活動を始めて、どれくらいなんですか?」


「俺?俺は大学生の頃からだから、6年目くらいかな?」


「大学生からですか?社会人になっても続けるのって、結構大変じゃないですか?」


「そうだねー。基本、休みの日を活動や準備期間にあてるから、結果忙しいかな」


「谷川さんは、公務員でしたよね。そんなに民俗学が好きなら、研究職とかに進めば良かったんじゃないですか?」


 この話を聞いてから、ずっと疑問に思っていた事だ。


「そうだね。小田先生みたいに、大学に残るのも、一つの道だったけどね。でもね、この分野は、思った以上に、狭き門なんだ。大学ですら、研究資金を集めるのに苦労している。利益化し辛い研究だからね、基本的にスポンサーは付かないし、どれほどすごい発見をしたとしても、収益には繋がらない。だから、皆それぞれの仕事を持ちながら、在野の徒として、この荒野に立つ事を選ぶ。後ろ盾はないが、その分しがらみも無く、自由に学問を成すことが出来るメリットもある」


「在野の徒、ですか」


 あまり聞き慣れない言葉だが、その思いはわかる気がした。自分が高校生の頃、出版社の編集者を志し、文学部に進学すると父に報告した時、『そんな何の職にも在り付けない学部、金の無駄だ』と鼻で笑われたのを、覚えている。金になる事が全てなのか?否!断じて違う。


「うちの小田先生も、いつも言ってるよ。学ぶ権利は、生まれたての赤ん坊から、死にかけのご老体まで、等しくあるってね。好きな事を、好きなだけ学べばいい」


「学生だった頃の自分に、言ってやりたいですね」


「今からだって、十分だろ。時間なら、まだまだいくらでも作れる」


「そうですね。無駄ではないと、思います。ちよっと前まで腐ってた自分にも、別の意味で言ってやりたいですね」


 土日、宇崎清流のサポートに入る分、平日の二日間振替休日がもらえる。つまりその期間、通常の業務が出来ない訳で。その分同期達に差をつけられてしまう。そんな焦りで、苛立っていた。中には宇宙工学部や、医学部からこの出版業に飛び込んできた同期もいる。彼等は、それだけでも立派な武器となる。専門的な、高レベルな知識、専門的視野。自分には何も無い、たくさんの書物を読んできた、たったそれだけだ。そんな人間、この業界、掃いて捨てる程いる。自分はここでは、無色透明に等しい。


「今日一日だけで、本を数冊読むのと同じくらいの情報や、感情を得た様に思います」


 作家宇崎清流と同じ体験をし、同じ物を見る。この体験は得難い物だと、今なら分かる気がする。


「なら良かった。せっかく東京から来てるのに、退屈な時間じゃ、もったいないもんな」


「そうですね。とりあえず僕は、東京帰ったら駐車場探して、車買います」


「それだって、新しいアクションだ。人生の変化は楽しい」


「谷川さんは、楽しいですか?ZAIYAの活動は」


「楽しいよ、もちろん。仕事にも、活かせる事がたくさんあるしね」


 太鼓のリズムが変わり、踊り手達が動きを止めて、散り散りに歩きながら輪を外れて行く。交代の時間だ。流石のZAIYAガールズも、帰って来た。キレッキレで踊っていた小田と染香は、息も上がっていた。流石に若いだけあって、うさぎとさやかはケロッとしている。


「楽しかったです。踊りも、覚えやすかったですし、町の人も、親切でした」


「楽しかったなら、何よりです。お腹空いてませんか?何か買って来ますよ」


 穂積が声を掛けると、皆喜んで焼きそばやお好み焼きを頼んでくる。お腹ぺこぺこだそうだ。それもそうだろう。昼もろくに食わず、二時間も踊っていたのだから。


「荷物になりますし、私もご一緒します」


「じゃあ俺は、飲み物買ってくるわ」


 うさぎが同行を申し出てくれて、谷川は飲物を買いに行く。勢司はまだ、周りの撮影を続けていた。


 焼きそば屋は、少し混んでいた。子供達や踊り終えた婦人達が、お腹を空かせて並んでいる。穂積とうさぎもその列に並びながら、ぼんやりと周りを見渡す。


「結構、町の男の人達も、見に来てるんですね。みんな家に引きこもってるんだと、思ってました」


「そうですね。旦那さん達なんでしょうね。お子さん連れが多いですし」


「皆さん、仲睦まじい、ですね。小さな町ですが、自治体として、よくまとまってますし、住みやすそうな町ですね」


 うさぎがそう言うと、屋台の奥にある松明が、バチバチッと音を立てた。


 また、夜蛾やがが飛び込んだようだ。

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