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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
火取蛾の恋
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 ZAIYAみちのくのメンバーは、胸焼けする程キャラが濃かった。穂積は己の個性の無さに、生まれて初めて焦りを抱いた。この中にいたら、自分は最早、空気どころか無に近い。


 小田ちなみ。東邦大学文化人類学民俗学研究所の准教授。ZAIYAのリーダー的存在。なんと年齢は、42歳との事。准教授という肩書きを鑑みると、非常に若い。


 谷川颯太たにかわそうた。仙台市役所職員。26歳。背が高く、モデルのように脚が長い。鍛えているのだろうか、体つきも良かった。健康ドリンクのCMにでも出てそうな、爽やか好青年である。


 勢司了せじりょう。人気YouTubeチャンネル『おかるチャンネル』を手掛けるかたわら、ZAIYAみちのくと関東の映像記録及び編集を担っている。派手なピンクゴールドの髪で、カチューシャをしている。


 斎木さいきさやか。東京の私立大学に通う19歳。そこそこの美人で、本人もそれを自覚しているようで、女優の様に澄ました振る舞いを見せる。


 歌川染香うたがわそめか。32歳。なんと災害用ドローンを開発製造している会社のCEO。もともとセレブだが、最近セレブと結婚した新婚さんらしい。


 そしてうさぎ。本名宇崎清流。気鋭きえいの怪奇作家にして、現役の女子高生。玲瓏れいろうたる美少女。


ー濃すぎる。何でこんなメンバーが、無償で民俗学の調査なんてしてんだよ!?暇なの?んな訳ねえだろ!中の一人は社長だぞ!


「さっそくだけど、この大船町おおふなまちの町役場で、町史ちょうしを見せて頂けるわー。ここから徒歩で5分程度だから、歩いていくわよー」


「はーい」


 小田の号令に、皆子供のように素直な返事をして、小田の後について行く。まるで遠足の様だ。


「それにしても、こんな小さな子も参加してるなんて、やっぱりZAIYAってすごいですね」


 さやかはにこやかに微笑みながら、うさぎを見て言った。小さな子と呼ばれる程うさぎは幼くないし、さやかとの年齢差も3歳程度のはずだ。


ーなんか、感じ悪い子だな。


「あら、バカにしちゃいけないわよ。こう見えてうさぎさんってば、二輪免許、もうすぐ取れるんだから」


「へ?二輪って、バイクの事ですよね?」


 染香の言葉に、穂積の声は裏返る。寝耳に水だった。そもそも、バイクとは何歳から乗れるのだったか。


「はい。先週教習所に通ってました。でも、卒業検定は誕生日過ぎないと受けれないので、まだ免許は、取ってないです」


「何でまた、バイクなんて…‥危なくないんですか?」


 事故になんて遭われたら、たまったもんじゃない。どうにか思いとどまって欲しくて、穂積は否定的な言葉を掛けてしまう。


「東北でのフィールドワークは、基本的に、交通の弁が悪いので、車やバイクがないと不自由だと、思いまして」


 もっともな意見だった。現に穂積は苦労してここまで来ている。とはいえ。


「今日みたいに、誰かに乗せてもらうとかで、いいじゃないですか。まだ高校生なんだし。何なら、僕が車買っても良いですし」


 穂積も、免許だけは持っている。運転していないのでペーパードライバーだが。車は、東京に住む以上必要ないし、維持費も馬鹿にならないので、考えていなかったが。これを機に所持しても良い。


「お兄さん、いくら親戚とはいえ過保護よ。本人が自立したくて行動してるんだから、黙って見守るくらいの器量は見せないと」


 染香にとがめられて、穂積は唇を噛む。


「でも、僕はうさぎさんのご両親からも、よろしく言われてるんで」


 石井を介してだが。


「父も母も、バイクの免許取るの、賛成してましたよ。だから、大丈夫、です」


「え?そうなんですか?」


 穂積は驚くも、よくよく考えれば、迷いなく一人娘を単身仙台の地に送り出した両親だ。肝が据わっているに決まっている。


「絶対、安全運転でお願いします。僕も車買います」


「東京は駐車場代高いから、大変だけどねー」


 同じ東京在住の勢司がぼやく。


「勢司さんとこ、駐車場代いくらですか?」


「うち練馬だけど、月1万7千円」


「やっぱ、それくらい行きますよね」


「まあねぇ。でも俺は、仕事柄車中泊も多いから、車は必需品だしねー」


「そうなんですね。仙台は、駐車場いくらくらいなんですか?」


「場所によるだろうけど、ウチは5千円くらいよー。谷川君とこは?」


 小田が答え、谷川を見る。


「ウチは実家なんで、ただだよ」


「いいなー。実家最強」


「やっぱり地方は、ずっと安いですね。東北は特に安いのかな」


 さやかが上品に口元を隠しながら笑うが、馬鹿にしてるようで不快だった。


ー僕、この人苦手だ。何か周りを見下してるよな。


 駐車場どうするやら、車何買うやら話している内に、目的の町役場へ到着する。窓口に声を掛けると、2階の資料室に案内された。かなり広い空間で、中央には椅子とテーブルが並び、ミーティングスペースとなっている。想像以上に本棚の数は多く、資料スペースの他に、児童書コーナーも設けられていて、図書室特有の匂いがした。


「こちらの資料は、貸出しはしてませんが、自由にコピーを取る事が出来ますので、必要があればあちらのコピー機をご利用下さい。すみませんが、コピー代はご負担頂くようになります。あと、もうすぐ学芸員の持田が参りますので、そしたら町を案内させて頂きますね」


「ご親切に、ありがとうございます」


 小田は頭を下げる。学芸員の案内は、町の方から申し出てくれた、ご好意なのだそうだ。


「いえ、外部の研究員の方に、我が町の歴史に興味を持って頂ける事は、我々にとっても嬉しい事です。小さな町ですが、色々な歴史と文化が詰まっております。特に龍神伝説とそれに付随する伝承や説話は、それなりに面白いと思いますので、ぜひご見聞下さい」


 役場職員はそう言い残して、資料室を開放して立ち去って行く。親切にも、セルフで飲めるように冷たいお茶も準備して行ってくれた。


「結構、協力的にしてくれるものなんですね」


 穂積は驚く。もっと、煩わしそうに対応されると思っていた。


「どこでもそうって訳じゃないけど、協力的な自治体が殆どよー。この町の文化や伝承が興味深いので、研究させて下さいって言うと、喜んで下さる住民の方は多いわ。皆、地元に伝わる伝説を、誇りに思っておられるわー」


「確かに、大小様々ですが、どんな土地にも、伝承や言い伝えって、残ってますもんね」


「そうよー。敬われたり、恐れられたり。確かに生活の中に溶け込んで、文化となって有り続けるのよー。人がそこに住う限りね」


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