表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
祟り地蔵の御役
69/267

69 エピローグ

 時は流れ、雪解けの季節。瑠璃唐草が地面を青く染める頃。

 一組の若い夫婦が、旧三浦邸を見に来ていた。


「すごい、新築だよね?庭もめっちゃ広いし。これで土地代込みで2300万って、安すぎない?やっぱ間違いじゃない?」


「ええ?でも広告に載ってたのは、確かにここだったよ?なんか、訳あり物件なのかな?やっぱ一回、不動産屋に聞いてみる?」


 旦那さんが、不安そうに門前から中を眺める。


「見て、お地蔵様いる。待って、めちゃ可愛くない?」


 足元を見た奥さんが、嬉しそうに言ってしゃがみ込む。そこには、にこやかに微笑むお地蔵さんが一体佇んでいた。


「ホントだ!エモいね。このお地蔵様も付いて来るのかな?お得じゃない?」


「めちゃご利益ありそう!こうくん、庭に信楽焼しがらきやきのたぬき置きたいって言ってたじゃん!お地蔵様の隣にたぬき置こうよ!」


「それ、めっちゃ良いね!」


 陽気に会話を弾ませる二人に、老人が声を掛ける。


「物件見に来たんかい?」


「あ、はい!今度子どもが産まれるんで、戸建てで探してまして!できれば、広い庭があったらいいなーって。広告でここ見て、ちょっと下見に来てみました」


「ご近所の方ですか?」


 奥さんの問いに、老人は背後を指差す。


「そこんちの、じいさん」


「お隣さんなんだ!おじいさん、この物件、新築なのにめちゃくちゃ安いんですけど、何でだか知ってますか?」


「ああ、多分、前のオーナーが、引っ越してすぐに、この出入り口で車の衝突事故起こして、亡くなってるんだよ。そのせいじゃないかな?」


「え?ここで?」


 ご主人は、自分の足元の道路を見て、慌てる。


「ここは大きい道路だけど、カーブになってるだろ?下り坂にもなってるから、走り慣れてない人は知らずにスピード出しちゃうから、けっこう危ないんだよ。過去にも、同じような事故が起きててね」


 そこまで言って、お爺さんは入り口のお地蔵様を指差す。


「このお地蔵様をどかすと事故が起きるから、地元の人には、呪いのお地蔵様なんて、呼ばれてるんだよ」


「まあ」


 奥さんは、驚いて口をあんぐり開けるが、すぐに首を傾げる。


「てことは、動かさなきゃ良いんですよね?」


「そうそう。入り口にさえ置いておけば、家人を守ってくれるよ」


「それって、どかしたからご利益が無くなったってだけだよね?」


「ついでに言うと、もし住もうと思うなら、この塀は取り払った方が良い。塀があると、庭から車が出る時に、道路側から全く見えないから、危ないんだ。坂道になっているから、上から来る車はスピードが出ている。それと、門の位置も、ウチと同じくらいの場所に移すと良いよ。ここならカーブに入る前に門が見えるから、向こうから来る車も減速してくれる。車が出ようとしてるのも見えるしね」


「確かに、入り口がここじゃ、上から来た時まったく見えないですよね」


「門を移す時は、もちろんお地蔵様も一緒にね」


「はい、それはもちろん!」


「冬になったら、お地蔵様に毛糸の帽子とコート作ってあげようよ。めっちゃ可愛くない?」


「それは良いね。このお地蔵様を置いたおばあちゃんも、毎年ポンチョを作ってあげてたよ。元々は、二体居たんだよ、入り口の左右両方に。あれは、庭の入り口を広くとるための、目印だったんだろうね」


「じゃあやっぱり、お地蔵様が寂しくないように、たぬきさん買って来て、置いてあげよう」


 ご主人は、お地蔵様の頭をなでながら、意気揚々と言う。


「このお地蔵様みたいに、可愛いのにしてよ?」


 奥さんの言葉に、ご主人はうんうんと頷く。


「もちろん!」


「お盆までには、引っ越したいね!」


「良いねぇ。来てくれたら、うちの野菜と梨を分けてあげようねぇ」

 

 おじいさんが、上機嫌に言うと、奥さんはパッと顔を輝かせる。


「え?いいんですか?」


「もちろん。畑やってんだけど、婆さんと二人じゃ、とても食べきれないからね」


「やったー!」


「ここは静かで、良い所だよ。ちょっと行くと海もあるし、夏には大きな祭りもある」


「さっそく、不動産屋さんに行ってみよ?おじさん、また来ますね」


 お爺さんは、にこやかに二人を送り出す。足元のお地蔵様を見て、そっと声を掛けた。


「良かったねぇ。今度は賑やかな暮らしになりそうだね。どうか守っておくれよ」


 雲雀ひばりが遠くで囀る。

 春が、すぐそこまで来ていた。

2章も、最後まで読んで下さって、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ