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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
祟り地蔵の御役
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 一行は1時間程、水族館を見て歩き、フードコートで一休みしてから、萌音とうさぎがお土産屋で自分用のお土産をゲットし、宿泊先の秋保温泉へと向かった。お土産屋では、萌音はカワウソのぬいぐるみを、うさぎはカエルのぬいぐるみを買って、二人ともご満悦の様子だった。萌音とうさぎが、萌音が手に入れたカワウソのぬいぐるみと太郎の顔を交互に見やって、プルプルしていたようにも思えたが、太郎は気にしない事にした。


 仙台港から秋保まで、車で1時間少々。6時半にはチェックインしてそれぞれの部屋に入り、先に旅館に到着していた勢司了せじりょう安達あだちミワとも、フリースペースで合流する。


「お疲れー。先ミワちゃんとビール飲んじゃった!」


 上機嫌で出迎えてくれたのは、勢司了。東京在住だが、チームみちのくとチーム関東の録画係を担当してくれている。職業YouTuber。


「旅館の中のバー、けっこう安いし美味しかったわよ、地ビール」


 もう一人は安達ミワ。宮城県古川市在住の専業主婦。元製薬会社勤務のエリート理系女子だが、子供を出産するタイミングで退職し、ZAIYAの活動もしばらく休止していたが、また最近になって、彼女の夫が子どもを見てくれる時に少しだけ参加するようになった。今回も、せっかく今年最後の集まりだからと谷川が声を掛け、懇親会だけ参加してもらう事になった。


「お子さんは?旦那さんみてるの?」


 カウンターで宴会場の確認をしていた谷川が戻って来て、にこやかに安達に訪ねる。会うのは久しぶりだった。


「今回はパパも出張だから、実家に預けて来た。ばあばが映画に連れてってあげるって言ったら、喜んで泊まりに行ったわ」


「もうそんな大きいんだっけ?」


 驚く古谷に、安達は笑う。


「2歳だよ。早いよねー。優生君も久しぶりだよね。颯太君には、たまに会ってたけど」


「私は、初めまして、です」


「アタシもー」


 うさぎと萌音は、初めて会うようだった。穂積もそうである。太郎は、一度会った事があった。


染香そめかちゃんは来れなかったみたいね。まだ子供産まれたばっかりだし、無理かー」


「染香さんとは?」


知らぬ名に、太郎は古谷にそっと尋ねる。


歌川染香うたかわそめかさん。セレブと結婚した元セレブ。染香さんも出産したばかりだから、当面は参加できないだろうね」


 主婦はなかなか忙しいらしい。ちいさな子供がいると尚更だろう。彼女達はZAIYAの活動から足が遠のいているようだった。


「小田先生は、さっき新幹線降りたって連絡来たけど、こっちつくのはもう少し掛かるかな。先始めててって」


 谷川の言葉を号令に、メンバーは宴会場へと向かう。

 宴会場にはすでに料理が準備されていて、飲み物を担当する旅館のスタッフが一人、会場の片隅でスタンバイしてくれている。


「お酒もソフトドリンクも、飲み放題になってるから」


「さすが年の締めくくり、豪華ですね」


 穂積がニコニコして、目の前の料理を眺める。


「部屋も今日は個室だしな」


「その分会費高くなっちゃって、ごめんね」


 谷川がてへっと笑うが、萌音は「良いじゃない、たまにはね」と言って、太郎を見る。


「こんな時でもないと、なかなか温泉旅館なんて来る機会ないしね」


「そうですね。僕も久しぶりですね」


「とりあえず、ビールの人ー?」


 勢司がお品書きを渡しながら、飲み物の確認を始めた。


「太郎君は?もうお酒飲めるの?」


 萌音に聞かれて、太郎は照れながら答える。


「はい。でも、ビールはちょっと苦手なので、甘いお酒飲みます!」


「アタシもそうなのー。メニュー見る?何飲む?アタシはカシスオレンジ」


「あ、じゃあ自分も、それで」


「古谷さんは、今日も飲まないのですか?」


 うさぎが古谷の顔を覗き込む。


「ん?そのつもりだけど?」


「今日くらい、飲んで下さい。今日は、もうどこにも行きませんし、私別に、お酒飲んでる人、嫌いじゃないですよ?」


「そ?」


「はい。ちょっと酔っ払った古谷さん、見てみたい気も、しますし」


「ん?何か悪巧みしてる?」


「してません」


 古谷と話している時のうさぎは、年相応の女の子に見えた。今までマネキンのように思っていたのが、申し訳なく思い、太郎は己を恥じる。


「あの二人、良い雰囲気ねー。美男美女だし、羨ましいなー」


 頬杖をついて膨れる萌音は、少し幼く見えて可愛らしかった。


「萌音さんは、どんな人がタイプなんですか?」


「え?そうねー。あんまり考えた事ないけど、偉そうじゃない人がいいかな。ウチのお父さん、もろ亭主関白ってやつだからさ、真逆な人が良いかな。ほら、今日行ったお地蔵様のあった家」


「ああ、三浦さんのとこですね」


「そう。あそこの家のお父さん、すごく偉そうだったでしょ?ああいうの、ちょっと苦手」


「ああ、何か変な家族でしたよね。奥さんも娘さんも、お父さん怪我してるのに、全然心配してるそぶり無かったですしね」


「お互いリスペクトのない家族って感じだったよね。不思議よね、好き合って結婚したはずなのに」


「確かに。ウチは逆に、父親が尻に敷かれるタイプだったから、すごい違和感ありましたね。でも、ウチの母親、自分達兄弟がちょっとでも父親に舐めた口きいたり、バカにしたりすると、劣化の如く怒るんすよ。もうそれがマジで怖くて」


「いいお母さんね」


「でも、ホント怖いですよ。間違いなく、この世で一番怖いです」


「ふふふ」


「でも、もし自分も結婚するなら、父親みたいに、普段奥さんに頭上がらなくても、いざという時には、ちゃんと奥さんに頼ってもらえるような旦那になりたいな、とは思ってます」


「素敵じゃない」


 各々の前に、飲み物が届く。谷川が代表して挨拶をする。


「ZAIYAみちのくチームの皆様、今年も一年間お疲れ様でした!この後小田先生もくるので、真面目な話しは小田先生に託して、とりあえずかんぱーい!」


「かんぱーい!」


「お疲れ様でしたー!」


 元気に乾杯して、和気藹々と飲み食いが始まる。

 久しぶりに太郎も、ワクワクした気持ちで甘いお酒を口に運んだ。


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