表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
祟り地蔵の御役
62/267

62 歪な家族

 工場で話を聞き終わり、一同は墓地へと戻って来た。


「アタシ、さっきの三浦さんの家で、呪いのお地蔵様の話し聞きに行きたい」


 やはり萌音はそう言って、古谷の顔を見る。


「別にいいけど、個人宅だし内容もデリケートだから、全員で行くのはやめよう。七海さんは、まだ時間大丈夫?」


「あと1時間くらいは大丈夫だよ」


 七海は、どの現場で活動していても、宿泊はせずに必ず自宅に帰る為、だいたい3時頃になると撤収する。時計を見ると2時を少し回った所だった。


「あ、じゃあ、自分ご一緒します」


 太郎が立候補する。


「じゃあ、俺たちはここで待機してるから、二人行って来て。オーナーの許可が出るなら、写真も撮って来てね」


「はーい。太郎君、デジカメよろしく」


「はい!じゃあ、行って来ます」


 萌音と並んで道を下って行く。三浦邸までは少し距離があった。結構な傾斜けいしゃのある下り坂なので、行きは良いが帰りは辛そうだった。相変わらず道幅は広い。車通りも殆どなかった。やがて大きなカーブを曲がり切った所に、件の家があった。黒い外壁の、三浦邸。


「あれ?あれれ?」


 萌音の声が裏返る。


「お地蔵様が無い!」


 つい先程まで、入り口に二体あったお地蔵様が、両方とも無くなっていた。


「何で!?」


「あああああ!!」


 萌音が声を上げると同時に、庭先の方から男性の悲鳴と慌てた様な声が聞こえて来た。


「キャー!ちょっとパパ!?血が出てるよ?やばく無い?」


「いってー!!何ぼけっとしてんだよ!早くタオル持って来いや!バカか!?」


 男性の怒鳴り声。見ると男が身を屈めて、片手で顔を押さえている。


「ねえ、ママー。タオルあるー?」


 対する若い女の、呑気な声。見た目は高校生くらいだろうか。すると、今度は家の窓が開いて、中から中年の女性が顔を出す。


「タオルなんてないわよ?カーテンならあるけど」


「ダメに決まってんだろうが!バカ!見て分かんねえのかよ!血が出てんだよ!」


 男性の声だけが慌てている。これは只事では無いと、太郎は道路から大きな声を掛ける。


「どうしました?怪我ですか?タオルで良いなら、ありますよ」


「あ?あー、すいません!でも、お借りすると汚しちゃうから」


「大丈夫です!そちらに行っても良いですか?」


「助かります。お願いします」


 太郎達が庭に入ると、奥でしゃがみ込んでいた男性が、ゆっくり顔を上げる。左目の下辺りを切ったようで、血を流していた。


「大丈夫ですか?タオル、洗ってありますし、未使用なので、とりあえずこれで止血して下さい。病院行きますか?必要なら、自分、車持って来ますよ」


「親切に、ありがとうございます。多分、それほど深い傷じゃないですし、妻も運転はできるので、ご心配なく」


「ええー?私、パパの大きい車、運転するの嫌なんだけどー」


 婦人が、顔を顰める。


「んな事言ってる場合かよ!良い加減にしろよ!バカが!」


 男は怒鳴る。太郎は、ビビりながらも何となく、怒鳴りたくなる気持ちも、分かる気がした。


「それ、入り口にあったお地蔵さんですか?」


 萌音は、男の足元を見て、青い顔で尋ねる。タオルで顔を押さえながら、男は「そうですよ」と、何てことなく答えた。お地蔵様であったそれは、男の足元で砕け散っていた。顔と胴体が分かれ、顔は半分砕けてしまっている。二体のうち一体は、まだ無事な姿で、側で横向きに倒れていた。


「どこの業者も引き取ってくれないから、砕いて不燃ゴミで出してやろうと思って。前にこのまま不燃ゴミに出したら、回収しないで、わざわざ庭の前に戻されてたんですよ?酷くないです?」


 だから、砕いたのだと、男は笑う。


「ただの石なら、持ってくっしょ。いてて。この為に、わざわざハンマドリル買ったんだから」


 砕いている最中、飛んできた破片で顔を切ったそうだ。


「どう?血、止まってきた?」


 男はタオルを外して、傷口を奥さんに見せる。奥さんは少し面倒臭そうに見て、「まあ、大丈夫じゃない?」

と答える。


「このお地蔵様、呪いのお地蔵様らしいよ。まあ、俺は無宗教だから気にしないけど。気に入ったなら、一個持ってく?ただであげるよ。重いけど」


「ねえ、それよりパパ!私の部屋のレースカーテン無いんだけど」


 娘の言葉に、男は再びタオルを顔に押し当てながら、「はあ?」と不機嫌な声をあげる。


「店に買いに行った時、サイズ無いから、取り寄せて発送するって、店の人言ってただろうがよ。なんで覚えてねんだよ!バカが!」


「はあ?そんなん知らねーし。てゆーか、パパ煩い」


 随分、口の悪い親子である。


「あの、お地蔵様、写真だけ撮ってもいいですか?」


 空気を読まずに、萌音が男に尋ねると、流石に驚いた様子で、男は「お?おお」と返事する。


「写真なんて撮って、どうすんの?」


「市の委託で、道沿いのお地蔵様の調査をしている者なんです。不躾ですみません」


 太郎が代わりに謝ると、男は驚いた顔をして見せた。


「はあ!お地蔵さん調査!?世の中には、変わった仕事があるもんだなあ」


「いえ、仕事と言うより、僕たちはボランティアで活動しています」


 在野ざいやの調査員と言っても、なかなかに伝わり難いので、こういった場面では、太郎はボランティアと称している。


「はあ!ボランティア!?金にもならんのに、よくこんな事してられるね。楽しいの?」


「ええ。こうして町の方とお話しするのは、勉強になって楽しいですよ」


 苦笑いしつつ、太郎は愛想良く答える。


「この辺なんて、死に損ないのジジイとババアしか居ねえじゃねえかよ」


 バカにした様に笑い、男はもう一度タオルを外す。傷口は、紫色に腫れていて痛そうだった。病院に行った方が良さそうだが、隣で奥さんは、見て見ぬふりで顔を逸らす。


「私、残りのカーテン下げて来ちゃうわね」


 さっさと家の中へ入って行った。


「私もー」


 娘も後を追う。


「たく、これだから女は。すみませんねー、失礼な態度で」


 アンタも大概だろうと思いつつ、太郎は愛想笑いで応える。


「どうして、お地蔵様を撤去したんですか?」


「どうしてって、邪魔だからに決まってるでしょ。何の役にも立たないし、家の雰囲気にも合わないしさ。それに、庭の周りに塀を回して、中見えない様にしたいんだよね。庭でバーベキューとかしたいしさ。隣の家や道路から丸見えじゃ、恥ずかしいでしょ?入り口ももう少し南の方に寄せたいしね。今の入り口の場所だと、丁度隣ん家の門と向き合うから、キショいんだよね」


 男は笑う。


「兄ちゃん、ごめんね。このタオル貰うね」


「全然、気にしないで下さい。目の下、腫れて来てるんで、病院行った方が良いですよ。それじゃ、僕達はこれで。お大事に」


 太郎はぺこりと頭を下げて、萌音の手を引く。


「萌音さん、行きましょう」


「うん」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ