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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
祟り地蔵の御役
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58 はらこ飯

 12時。午前の調査を終えて、先程の墓地で合流する。昼食は海岸沿いの街に出て食べる事にした。七海お勧めの、はらこ飯屋さんがあると言う。七海は各地のグルメにも精通していて、お勧めされる店は外れがない。太郎も時々プライベートで連絡を取り、地方の美味しい店を教えてもらう事があった。


 到着したのは、海が見えるお洒落なカフェだった。カフェなのに、海鮮が美味しいという、新感覚なお店で、外に広いテラス席もあった。少し肌寒い季節の為、外の席に人の姿は無かった。


「テラス席だと、マグロも入店出来るお店でね。僕とマグロはテラスで食べるけど、寒いからみんなは屋内で食べててね」


 七海がにっこり笑う。


「あ、じゃあ、私、七海さんと、ご一緒します。マグロと一緒にいたいですし」


 うさぎがそう言うと、自然と古谷と穂積もくっついて行く。正に金魚のフンである。


「アタシ寒がりだから、中で食べていいかな?」


 対する萌音は遠慮が無い。彼女はいつだって、自分がしたい様に行動するらしい。


「じゃあ、自分も店内で」


 何となく、萌音を一人にするのも良く無いと思い、太郎は屋内を選ぶ。


「そしたら、俺も中にしよっかな」


 谷川も、太郎達と同じ席に着いた。


「百瀬君達の方は、どうだった?道沿いのお地蔵さんは、一通りサンプルリングできた?」


 谷川に進捗を確認され、太郎は答える。


「はい。採取場の入り口まで行って来ました。途中川沿いに水子供養のお地蔵さんがあって、それを合わせると合計5体ですね。わずか1キロ程度の距離でしたので、それを考えると、かなり多い印象がありますね」


「ああ、水子供養のお地蔵様は、以前ZAIYAの調査で調べに来てるね。六年くらい前かなー」


「はい。古谷さんも、おっしゃってました」


「六年前だと、アタシはまだ入る前かな?」


「ちょっと前だね。今五年目くらいでしょ?萌音ちゃん」


「そうそう。短大出て、社会人一年生の時に入ったのよね!懐かしいな」


「萌音さんは、おいくつなんですか?あ、失礼でなければ」


 太郎は、慌てて最後を付け足す。女性に年齢を尋ねる時は、多少なりとも気を遣わねば。しかし、てっきり自分と近い年齢だと思っていたが、社会人五年目となると、同い年ではなさそうだった。


「んー?今26だよ。谷川さん達と、一個違いだよね」


「そうだね。萌音ちゃん若くみえるから、びっくりでしょ」


「はい。正直、自分と同じくらいだと思ってました」


「遠回しに、落ち着き無いって言ってる?」


「そんな事ないですよ!若々しいって意味です!」


 明るい雰囲気に、コロコロ変わる表情と、はっきりとした口調が、彼女の魅力なのだろう。多少人見知り気味な太郎にとって、ありがたい性格だった。


「そういえば、入り口近くに可愛らしいお地蔵さんがあって、皆さん、萌音さん好みだって言ってました。写真見ます?」


「えー!見たい見たい!」


 萌音は食いつく。食事が運ばれて来るまでの間、ちょっとだけデジタルカメラの画像をチェックする事にした。


「これだ!お地蔵さんも可愛いんですけど、足元の動物も可愛くって」


「ホントだー!ちっちゃいね。うさぎと、キツネと狸、かな?座ってるのね。可愛いわ」


 可愛いお地蔵さんが好きだと言っていた萌音は、ニコニコしている。後で行ったら、自分も写真を撮ろうとはしゃいでいた。


「谷川さん達の、町道側はどうでした?何か珍しいの、ありましたか?」


「珍しいかは置いといて、呪いのお地蔵様の噂は、何人かに聞いて来たよ。この辺りじゃ、ちょっと有名らしい。個人宅に置かれている対のお地蔵さんらしいんだけどね。隣の家の人がいて、少し話聞いて来たんだ」


「うへえ、呪いのお地蔵様ですか?」


 ホラーは、ちょっぴり苦手な太郎である。今の今まで、可愛いお地蔵さんにほっこりしていたのに、急に話の雲行きが怪しくなる。


「つい最近まで、売地だったらしいんだけどね、ここに来て買手がついたみたいで、オーナーになる方が新築で家建てて、これから庭をいじるみたいなんだけどさ」


 聞きたく無いのだが、谷川が嬉々として話し始める。丁度そこに、はらこ飯がやって来た。


「わあー!美味しそう!」


 萌音が、手を合わせてはしゃぐ。

 はらこ飯は宮城県の郷土料理。醤油ベースの炊き込みご飯の上に、鮭の切り身とイクラがたっぷりと乗せられている。イクラは新鮮で、キラキラと宝石の様だった。付け合わせに、鮭のあら汁もついて来た。


「いただきます!」


 太郎も、意気揚々と食べ始める。この流れで、怖い話は打ち切られたら良いと思った。


「それでね、隣の人に話聞いたんだけどさ」


 谷川は、食べながら話の続きを進めようとした。太郎には、当然止める事など出来なかった。何故なら若輩者だからだ。先輩の話を、遮る事など出来るはずもなく。


「庭をいじるのに、お地蔵さんをどかしたいらしんだけど、どこの業者も引き受けてくれないし、お寺に相談しても、ウチではそういうサービスはしてないからって、断られたんだって。お寺さん以外は、みんな口を揃えて、呪われるから動かさない方が良いって言うもんだから、オーナーさんも怒っちゃって、粗大ゴミに出したらしいんだけど。回収不可で残されちゃって、ご近所さんが丁寧に元の場所に戻してくれちゃったみたいでね。オーナーさんも、流石に呆れて困り果ててるみたい」


「へえー?呪いって、何なんでしょうね?」


「お隣さんの話では、場所を退かそうとすると、人死が出るそうだよ」


「うへえ」


 せっかくのはらこ飯の味がしなくなって、太郎は泣きそうになった。

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