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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
祟り地蔵の御役
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53 百瀬太郎

百瀬ももせ君、ZAIYAザイヤの活動メンバー募集出てたわよ。見た?」


 ゼミの後、小田准教授に声を掛けられて、百瀬太郎ももせたろうは、一旦出ようとした教室に、再び戻って来る。


「はい。見ました。今回はテスト期間とも被らないし、フィールドワークに参加しようと思います。活動場所も近いですしね」


「今回は、活動エリアを、日理地区わたりちくに絞ったみたいね」


 ここは宮城県の仙台市にある東弘大学。その文化人類学部、民俗学研究室である。百瀬はこの大学の二年生で、小田ゼミを履修している。背が高く体つきも良いが、カワウソの様な愛嬌の良い顔立ちをしている。ふわふわした天然パーマの髪が特徴的であった。


「自分、日理町わたりちょうって行った事ないんですけど、お地蔵さん多いんですか?今回って、菩薩地蔵調査ですよね?」


 日理町は宮城県南部、太平洋沿岸の町である。県庁所在地でもある県中心都市仙台から、車で1時間程度の距離だった。


「うーん、そうねー。道祖神や仏像の数が多くて有名って訳でもないけど、沿岸部でもあり、丘陵地帯でもあるから、割と穴場かもねー。今回活動方針決めてるの、古谷君と谷川君だから、期待していいわよー。あの二人、結構センス良いのよねー」


 小田ちなみ。この大学の文化人類学部准教授であり、民間人で組織される民俗風習学専門の研究チームZAIYAのメンバーでもある。


「古谷さんって、前に先生が言ってた人ですか?仙台で教員してるっていう」


「そ。元々メンバーなんだけど、仕事忙しくて暫く休んでたのよねー」


「二年ぶりでしたっけ?丁度自分と入れ違いだったんですね。お会いできるの、楽しみですね」


 太郎は大学に入学すると同時にZAIYAに入ったので、一年半程の在籍期間となる。


「私、東京の報告会と被っちゃったから、行けないのよねー。今回は追加調査だから、一回きりかしらー?」


「自分が先生の分も、頑張って来ますよ!」


「よろしくねー。顔出せたら行くわー。あと、今回は地蔵菩薩の調査がメインだから、きっと萌音もねちゃんも来るわねー」


「萌音さん、ですか?自分、会った事あります?」


「無いと思うわー。彼女、お地蔵さんの調査の時しか、来ないからー」


「え?そうなんですか?」


「そう。超、地蔵マニアよ。お地蔵さんの為なら、全国津々浦々、どこへでも行くわー」


「はあ、すごいですね。地蔵マニア、ですか」


「普段は秋田市の葬儀場で働いてるわ。なかなかに、面白い子よー」


「ZAIYAには、ホントに色んな方が在籍してますよね。勉強になります」


 太郎は生真面目な顔で頷くと、カレンダーを見つめる。今日は10月25日。フィールドワークの日程は、11月12日と13日の、土日の予定だった。だんだん肌寒くなる季節。山道での活動になるだろうから、厚手の上着が必要だなと想像する。知らない土地を歩いて調査するのは、ワクワクした。


「あら、噂をすれば。古谷君から論文届いてるわねー。早いわね。久しぶりだからかしら、気合い入ってるわねー」


 小田はパソコンのメールに届いていたPDFファイルを解凍して、さっさくデータを確認する。古谷らしい、簡潔な文章だった。


「この間の、福島の祭事調査ですよね。早いですね」


 太郎もパソコンを覗き込む。分かりやすい言葉で、簡潔に纏められていて読み易かった。


「まあ、慣れてるからねー。今度あったら、コツとか聞いてみたら。百瀬君、論文苦手だもんねー」


「そうなんですよ。自分、文系選んどいて何ですけど、文章書くの苦手なんですよね。子供の頃から、読書感想文が苦痛で苦痛で!本を読むのは好きだし、それなりに感想もあるんですけど、文章にするってなると、頭の中で纏まらなくて」


「そうねー。文化人類学は、何選んでも論文からは逃げられないからねー。数こなすしかないわー」


「ですよね。まあ、研究職に進むかどうするか、まだ悩んでますけど、悩む理由の一つではありますね。古谷さんにお会いしたら、相談してみます」


「そうすると良いわー。口は悪いけど、面倒見はいいから」


「それ、前も言ってましたよね。なんか、顔も怖いって言ってませんでした?」


「そうよー。人相悪いのよ。イケメンなんだけどねー」


「うう、なんか緊張するなー。他にも、自分の知らない人来ます?」


「まだ分かんないわねー。今の所、穂積さんとうさぎさん、七海さんだけねー、エントリーしてるの。あ、あと谷川君と古谷君は、今回主催役だから、来ると思うわー。あと、萌音ちゃんね」


「うさぎさんと、穂積さんは知ってます。あと七海さんも」


 三人共、常連だ。それからもちろん、谷川も知っている。七海と谷川は問題ないが、少しうさぎには苦手意識があった。太郎は人見知りが激しく、慣れるまで時間を要する。


「今年最後の活動になりますかね?」


「そうねー」


 基本的に雪が降る時期は、フィールドワークは少なくなる。ここは東北なので、早ければ12月上旬には、雪がちらつき始める。


「せっかくですから、最後は温泉とかで、打ち上げ出来るといいですね」


 活動後の、メンバー同士の懇親会も、楽しみの一つになっていた。毎年年末は、メンバーで集まって一年を締め括るのだが。


「その辺りは谷川君もいるし、何か考えてるんじゃない?」


「沿岸部だし、海の幸も楽しみですね!」

物語に出てくる日理地区は、実在しない土地名です。

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