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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
姫君の鬼胎
51/267

51 エピローグ

 事件から1ヶ月。何故、少女はこの竹藪で死んでいたのか。警察による現場検証は続いているが、これといった手掛かりは、何も出てこなかった。初動捜査の頃は30人程いた警察官も、今ではたった6人となった。


「熊に襲われたってのが有力なんだけど、猟友会の話じゃ、この辺に熊なんていないってさ。猪は多いみたいだけど」


「猪じゃ、こうはいかねえさ。やっぱ熊くらい大型の獣でなけりゃ。だってお前、頭部の8割損失してたって話だろ?人間の頭蓋骨を噛み砕くっては、そうとうな力だぞ」


 現地調査の刑事達も、揃って首を傾げる。


「熊の足跡も、出たんだろ?」


「熊かどうかは分からんが、大型の獣の足跡は残ってたってさ」


「まあ、震災以来この辺の生態系もだいぶ変わったらしいからな。違う山から熊が移り住んで来てても、おかしくはないだろうな」


 竹藪の中は昼でも薄暗く、気味が悪い。


「ガイシャの首、刃物傷もあったって話ですよね?解剖結果見ました?」


「刺創8センチ程度だっけか?でも、残りは全部咬傷だろ。直接の死因はそっちだそうだ。自殺途中にでも、獣に襲われたってのが一番考え易いんだけど」


「ガイシャが持ってた刃物には、血液反応あったんですよね?あと傷跡に付いてた錆も、刃物のモノと一致するって。自殺でしょ?結局は」


「いや。解剖医の話では、自分で切った時に出来る傷の角度としては、不自然だってさ。正面から他人に切られなきゃ、あの切り傷は出来ないって言ってたぞ?」


「じゃあやっぱり他殺か?」


「そして振り出しに戻る」


「はあー」


 竹藪の中は、もう散々調べた。近隣の住宅と言っても二軒しかなく、その内の一軒は被害者宅だ。目撃者など、皆無に等しい。


「通報者は、そこに住んでるお婆さんですよね?何か有力な話、聞けなかったんですか?お婆さんの家は、初日に捜査したんでしょ?」


「ありゃダメだよ。呆けちまってて、猫の話しかしねえ。家の中もひでぇゴミ屋敷で、改めるも何も、あったもんじゃねえよ。虫もわいてるしよー。よく分かんねえ婆さんでさ、自分はシャーマンだって言ってたぞ。向こうの神社の神主さんに聞いたら、そんな話は聞いた事ないって呆れてたけど」


「110番通報時の録音聞く限り、はっきり住所も言えてたし、まともな感じしたんですけどね」


「痴呆症には、波あるからな。割としっかりしてる時もある。確かに俺も話したけど、ずっと猫の話ばっかだな。外飼の黒猫と白猫がいるんだっけか?」


「庭先に、毎日エサ置いてありますもんね。一回も猫は見てないけど」


「猫は臆病だからな。俺らがいたら、近寄って来ないだろ」


「そう言えば、駐在所の話だと、被害者の女の子、ここ数年生き物殺傷しては、近所の家先に捨ててたって話ですよね。やっぱり精神病んでたんですかね?」


「なー。相手は親戚の家らしいぞ。同級生の再従姉妹が住んでるって。その辺考えると、やっぱ自殺なんだろうな」


 事件当日、被害者はその再従姉妹を、家に呼んでいたそうだ。結局、会えず仕舞いだったらしい。


「一旦休憩入れましょう。そろそろお昼になりますし」


「だな。どれ、婆さんトコに挨拶して、車動かすぞ」


 竹藪の奥にある民家に、パトカーを停めさせてもらっている。ずいぶん古い家に、年老いた婆さんが一人で暮らしている。頼れる身内も居ない様子だった。


「婆ちゃん、ちょっとご飯食べて、また戻ってくるからねー」


 声を掛けると、婆さんは、庭で猫の餌を交換している所だった。わざわざ手作りしているらしい。


「はい、ご苦労様です」


 頭を下げると、チリン、と鈴が鳴る。

 髪飾りに鈴を付けた、風変わりな老婆であった。


「猫は来たかい?」


「来ねなぁ。お腹空いてるはずなんだけどない」


「猫、かわいいかい?」


「そりゃもう。我が子みでぇなもんさ」


「そっか」


「ああ、刑事さん。暗くなったら、帰りなさいねぇ。ここいらには、怖い魑魅ちみが、住んでっから」


「そうだねぇ。熊かもしれねえ。婆さんも、あんまり外ウロウロしないようにね」

第1章終了です。最後まで読んでくれた方、ありがとうございます!

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