5 民俗風習学研究チームZAIYA
民俗風習学研究チームZAIYA
民間人で組織される、民俗学専門の研究チームである。メンバーは多様で、年齢制限もない。現在在籍中の最年少は小学生、最年長は90歳となっている。中学生以下の場合は、保護者同伴の義務があるが、それさえ守れば、大人と同等に一研究員として扱われる。
事実、関東チームに所属している小学5年生の少女は、大人顔負けの知識を有し、周囲の大人達の度肝を抜いて回っている。
基本的にフィールドワークを中心に活動しており、資料収集や地元住民への聞き込みなどをチームで行う。近年では、映像記録にも力を入れていた。
論文にまとめたり、学会への報告などは、比較的時間に余裕のある在籍中の大学生や、大学教職員のメンバーが担う事が多いようだ。
皆自費で参加するため、基本的に参加は自由。
活動スケジュールをホームページに掲示して、参加希望者は事前に報告しておく。
研究場所に応じて、キャンプしたり温泉に入ったり、ご当地グルメを堪能したりという楽しみも伴う事が多い。残った時間で、観光地を歩く事もしばしば。
夏休みは、孫や子どもを連れてくるメンバーもいるなど、自由度も高く、かなり間口は広い。
チームは大きく3つに別れている。
チームみちのく、チーム関東、チーム陰陽。
みちのくは東北地方、関東は関東圏、陰陽は山陰地方と山陽地方を中心に活動している。
ZAIYAの名は、『在野の徒』から来ている。
在野とは、大学などの研究機関や教育機関には所属せずに、自費で研究を行う個人や団体を指す。多くの在野研究者は、普段は異なる職業に従事しており、プライベートな時間を研究に当てている。
「学ぶ事は自由よー。生まれて間もない赤ん坊も、明日命を終えるであろう老人も、学ぶ自由はあるわー。学問には、権利も資格もいらないもの。研究ごっこなどと、馬鹿にするような奴は、クソ喰らえよー」
小田は、自分の大学の生徒を愛する様に、在野の徒も愛した。自分の意思で学ぶ者、知ろうとする者を愛した。結婚していないので、子は持たないが。それでも我が子の様に、己の生徒と研究仲間を、慈しんだ。
「今日はお堂の掃除をお手伝いして、神事の準備まで、見せて頂けるわよー。運が良ければ、明日棒術奉納の儀式が見れるかもしれないわー。お天気次第だけど。でも、予報では夜から晴れるのよねー」
小田が容赦なく叩き落とす埃を、竹ぼうきで掃きながら、古谷は尋ねる。
「先生、外にじいちゃんの車あったけど、どこにいるの?さっきから、見かけないけど」
「七海さんなら、さっきマグロ君のおトイレついでに、ちょっとだけお散歩させに行ってるわー。すぐ戻ると思うわよ。ほら、わんちゃんはお堂に入れられないからー」
言い終わるより先に、ワン!と景気の良い鳴き声が、駐車場側から聞こえた。
「じいちゃん。久しぶり」
古谷がお堂から顔を出すと、麦わら素材のハンチング帽を被った、白髪の男が柴犬を連れていた。
「やあ、優生君!久しぶりに来るって聞いて、楽しみにしてたよ。おお、マグロも覚えてたかい?ははっ、しっぽが千切れそうだ」
見ると足元で、茶色いミニ柴がしっぽを全速力で振り回している。大きな瞳の上に、眉毛のような白い模様がある。七海の眉毛も白髪になっているので、二人並ぶとお揃いの様で可愛らしかった。
白髪の男の名は七海和美。年は70を過ぎる。元は銀行員だったが、定年退職後にZAIYAの活動へ参加するようになった。いつも愛犬のマグロを連れ歩いている。
「マグロ、お前覚えててくれたのか。相変わらずちっちゃいな」
頭を撫でてやると、マグロは気持ち良さそうに目を細める。
「マグロももう、6歳だよ。人間でいうと、立派なおっさんだよ」
仔犬の様な見た目だが、マグロは成犬である。愛らしい見た目に反し、非常に勇敢な犬で、危険を感知すると必ず七海の前に立って守ろうとする。
「きゅん!」
いっちょう前な顔で、白い眉毛のような模様をキリッとさせてみせる。
頭を撫でてやると、満足して地べたで寝始めた。外のポールにマグロのリードを固定すると、七海も掃除に参加すべく、車からバケツと雑巾を持って来る。
「水はあるかい?せっかくだから、お堂の硝子戸もピカピカに拭いてあげようねえ」
外を見ると谷川が、自分の車からサンシェードを取り出して、マグロの上に簡易の日除けを作ってやっていた。マグロは嬉しそうに、先端だけが白い尻尾を、リズミカルにふりふりして、シェードを固定する谷川の手を眺めている。
古谷にとって、久方ぶりの風景だった。




